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魔王さまのスマホダンジョン~課金する?~  作者: 十一屋 翠
ダンジョン始動編

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第31話 ブーステッドモンスター

「はぁっ!」


 大型のシールドを持った盾役がモンスターを抑える壁になる。


「せいっ!」


 攻撃してモンスターが硬直したスキを狙って軽装の戦士が盾役の後ろから現れモンスターを攻撃。


「喰らえ!!」


 雷光と火炎と石槍が放たれる。 

 モンスターが怯んだ瞬間、戦士達は左右に散り、魔法使い役の放った攻撃で一気に敵は殲滅された。


「ふぅー」


「やっと倒したぜ」


 探索者達は周囲を警戒しながらポーションなどで休憩を取り始める。


「なんかさ、最近敵が強くなってねぇ?」


「分かる。何時もよりしぶといって言うか、妙に動きが良いんだよな」


「一般モンスターが強化されてるのか?」


「マジかよ、サイレント修正か? 運営炎上待ったなしだろ」


 ◆


「困った」


 開口一番、ラズルはため息と共にこの言葉を吐いた。


「どうされたのですか?」


 傍でアイテムの注文をしていたライナが声をかけてくる。


「リリルの手入れしたモンスターが強くなってる」


「それは良い事なのでは?」


 ライナはラズルの言葉に首をかしげる。


「普通のダンジョンならな。だがここはガチャダンジョンだ。突然モンスターの強さが変わると客がダンジョンに入りづらくなる。とくに新規顧客が」


「そういう事ですか」


 ライナはラズルの意図を理解した。

 商売において新規顧客の獲得は必須だ。

 既にリピーターとなっている客も大事だが、ハードルが高くなりすぎると新規顧客が入ってこれなくなる。

 趣味の世界然り、ゲームの世界然り。

 ダンジョンのモンスターが強くなると、新規参入の探索者が戦うにはハードルが高くなってしまう。具体的に言うと命の危険的に。

 だから序盤は一定の弱さを維持しないといけないのだ。

 国民的RPGでも、イキナリLv99の不定形生命体が出てきたりはしない様にだ。


「それは困りましたね」


 折角強くなったモンスターをまた弱くするのははっきり言って無駄な行為だ。

 運営面からも避けたいとライナは考える。


「では、イベントにしてみては如何でしょうか?」


「イベント?」


「はい。強化モンスター週間として、通常よりも強いモンスターが現れる事にします。探索者には強化モンスターが発生する原因を解決して貰う、というシナリオでどうでしょうか。具体的にはシーダンジョンと同じく別のダンジョンフロアを購入し、そこにリリルの育てた強化モンスターを改めて配置させれば宜しいかと」


「ふむ」


 ラズルは熟考する。たしかにライナの提案は一理ある。

 現状リリルの育てたモンスターはダンジョンの生態系に悪影響を及ぼしているといって間違いない。

 探索者とモンスターの力関係という生態系だ。


「よし、まだ探索者が到達していない下層のモンスター以外を新しいダンジョンに入れ替えよう。最下層だけはダンジョンコアの防衛用として強化した連中を残す。探索者が到達している階層のモンスターは業者に一括注文だ」


「承知致しました」


 やる事が決まったので、ラズルは早速新しいダンジョンを作る事にした。


「それとラズル様。リリルにはその辺りの事をちゃんと説明したほうがよろしいかと」


「ん、ああ。分かってるよ」


 その光景は、子供の教育方針を話し合う夫婦の様でもあった。


 ◆


「ニューイベント開催だワン!!」


 3人娘がフリーフロアで大きな声をあげる。

 既に慣れたもので、周囲の探索者達はそれに動じず、耳を澄ませながら装備のチェックを行ったり、弾むラウの胸を監察していた。


「新フロア、ブーステッドダンジョンが稼動するワン。此処では通常よりも強いモンスターがダンジョン内を徘徊しているワン」


 通常よりも強いと聞いて、最近噂の妙に強くなったモンスターを思い出す探索者達。


「探索者の皆さんには、モンスターの異常強化の原因であるボスモンスターを退治して欲しいウサ」


「イベント期間中、ブーステッドダンジョンのボスを退治してくれた探索者には、スーパーレア確定宝箱ガチャが表れるニャ」


 確定と聞いてにわかにざわつく探索者達。


「それはスーパーレア以上確定なのか? スーパーレアが確定なのか?」


「ガチャはスーパーレアが確定ワン。このイベント期間中、ブーステッドダンジョンのボスは毎日リポップするから、ドシドシ闘って欲しいワン」


「更に、ボスを倒した先のフロアは、通常よりもレア以上の出現率が上昇している宝箱ガチャが回せるウサ! レア以上でお目当てのアイテムがある場合はボスの先のフロアを目指すウサ!」


「「「おおおおぉ!!!」」」


 探索者達が歓声を上げる。


「でもその分敵も強いから回復アイテムのストックには気をつけるニャ」


 ニャウがアイテムの補充を促すと、探索者達はソレに従う様に売店へと向かう。

 かくして、リリルが育てた強化モンスターを退治すべく探索者達は新たなフロアへと向かっていくのだった。


 ◆


「回復アイテムの売り上げ分で確率アップ分の赤字はフォローできたか」


「はい。あくまでも確率アップですからね。確定ガチャの方もスーパーレアですので、同じアイテムのレベル上げ目的の物以外は即座に売り払われます。外部の商人にコネの無い探索者は利益率の少ないアイテムの売上げで回復アイテムをもう一度購入してブーステッドダンジョンへと再度挑みます。勿論回収したスーパーレアは宝箱ガチャの中に再補充されます。結果探索者はボスを倒す為に手に入れたガチャアイテムを売る以上のお金を使って赤字に転じる事になります」


 ブーステッドダンジョンの利点は敵が強くても構わない事だ。

 探索者達は雑魚が多少強化されただけだと思うだろうが、ソレが原因で回復アイテムの消費が増える。そしてボスとの戦いでも回復アイテムを消耗する。

 結果、ブーステッドダンジョン内の宝箱から得たお宝の売上げでは回復アイテムの補充が追いつかなくなる。

 だが自分達と同じタイミングでブーステッドダンジョンに入ったほかの探索者が スーパーウルトラレアアイテムを手に入れているのを見れば、此処でやめる訳には行かなくなる。

 ギャンブルと同じだ。負けたままでは終われない。

 それなりには勝てるのでチャンスはあると思い込む。

 だからやめ時を見失ってしまう。


「ごめんなさいパパ……」


 今まで黙っていたリリルが申し訳なさそうに謝る。

 幼いながらも、自分のミスでラズル達が苦労していると直感的に理解したのだ。


「ソレが分かったのなら良いさ。次からはモンスターの飼育には力を入れて育てるヤツと力を入れないで育てるヤツを分ける様にしてくれ」


「うん、分かった……」


 しかし迷惑をかけたという思いから、リリルの声は沈んだままだ。

 ラズルは軽く苦笑すると、リリルの脇を掴んで大きく持ち上げた。


「そら!」


「うわわわわっ!? な、何!?」


「そんな顔をするな。リリルのお陰でちゃんと儲けているんだからさ」


「え? え?」


「リリルの育てたサーヤを始めとした食用モンスターですが、それらはラズル様が人間に変装して魚市場と呼ばれる場所に出荷しているのです。そのお陰でこのダンジョン内での売上げ以外で、安定してお金を儲ける方法を確立できたのですよ」


 リリルの困惑をライナが補足説明する。


「リリル、あなたはちゃんとラズル様の役に立っています。だから自信を持ちなさい。あなたは我等の主が生み出した誇り高き使い魔なのですから」


「はい……」


 リリルは怒られている訳では無いと理解し、反射的に返事をした。

 そして、少しずつ褒められたのだと理解が追いついてくる。


「さ、今日は外で外食にしようか。今日はリリルの食べたいものを食べに行こう」


「私はハンバーグのあるお店を所望します」


「お前は黙ってなさい」


「……」


 心なしかライナがしょんぼりする。


「さ、リリルは何が食べたい?」


「え、えーと、えーと……」


 何が食べたいと言われると困るリリル。

 彼女は好き嫌いが無いので何でも好きなのだ。


「じゃあパパの好きな食べ物が食べたい!!」


「っ!? ……じゃあ近所のファミレスで色々頼むか」


「うん!」


 3人で出かける後ろ姿は、まさしく親子のソレであった。

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