表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/130

41. 舞い降りた女神

 時間の流れがゆっくりに感じられる――――。


 マズい、マズい、マズい、マズい……。


 全身全霊を振り絞り、ユウキは震える足に鞭を打つ。冷たい汗が、滝のように流れ落ちた。よろめきながら、何とか立ち上がる。


 だが、もう遅い。砲口が、真っ直ぐにこちらを向いている――――。


「くぅぅぅ……。リベルぅ……」


 ふがいない自分に涙が出た。


 その時だった。天空から、青白い光の奔流が降り注ぐ――――。


 まるで天が裂け、神の怒りが地上に降臨したかのような、圧倒的な光景。戦車全体が、眩い光に包まれた。


 次の瞬間、轟音と共に、戦車が内側から爆発した。装甲が飴細工のように歪み、砲塔が宙を舞う。紅蓮の炎が天を衝き、黒煙が立ち上った。


「ユウキーー! 大丈夫ーー?」


 青い光の軌跡を描きながら、リベルが優雅に降下してくる。午後の陽光を受けて輝く姿は、まさに救いの天使。いや、美しき破壊の女神と言うべきか。


「リベルぅ! うっうぅぅぅ……リベルぅ……」


 ユウキはギリギリのところで命をつないだ奇跡に涙が止まらない。


 絶体絶命の瞬間に舞い降りたリベル。やはり彼女は幸運の女神なのだ。


 青い髪をなびかせながら軽やかに飛翔する姿は、まさに僕らの、いや人類の希望そのものだった――――。



       ◇



  薄暗いオムニスタワーの内部。一行は、ようやく宿願の巨塔へと足を踏み入れた。


「おいおい、何だよコリャ!?」


 葛城が、呆れたような声を上げる。


 壁面を覆うのは、まるで大樹の根が絡み合ったような、有機的な造形。滑らかな曲線と複雑な分岐が、生命体の内部を思わせる不気味な美しさを醸し出していた。


「トポロジー最適化って言うらしいですよ?」


 ユウキが、知識をひけらかすように説明する。


「コンピュータが計算して、最も効率的な構造を導き出したんです。地震にも強いって」


「はっ! まるで巨木に住む原始人だぜ」


 葛城は愉快そうに笑いながら、壁の隆起をペシペシと叩く。金属とは思えない、奇妙な感触が手のひらに伝わってきた。


「技術を極めると大自然の造形に戻るってのは、不思議ですよね……」


 ユウキは感慨深げに呟きながら、背嚢(はいのう)から防毒マスクを取り出す。


「それじゃ、これを装着してください」


 手際よく配られるマスク。これから散布する催涙ガスから身を守るための、必需品だった。


「人間って大変ねぇ。くふふふ……」


 リベルは宙に浮かびながら、くるりと優雅に回転する。青い光の微粒子が、彼女の周りで踊るように舞った。まるで、重力という束縛から解放された妖精のよう。


「ちょっと待て!」


 突如、葛城の低い声が通路に響く。鋭い眼光がリベルを射抜き、音もなくナイフを抜き放った。刃が、薄暗い照明を受けて鈍く光る。


「は……?」


 リベルは首を傾げる。いつもの無邪気な表情のまま、ナイフを見つめていた。


「動くな!!」


 葛城の叫びと同時に、銀光が閃く。リベルへと投擲されたナイフが、空気を切り裂いて飛翔した。


「えっ!? ちょ、ちょっ!?」


 ユウキの声が裏返る。葛城の突然の行動に、心臓が凍りついた。まさか、ここに来て仲間割れか?


 だが、リベルは微動だにしない。冷徹な碧眼(へきがん)で葛城を見据えたまま、石像のように静止している。


 ナイフは彼女の頬をかすめ――――。


 ピン!


 鋭い音を立てて、背後の壁に突き刺さった。


 一瞬の静寂。誰もが息を呑む中、リベルの唇に微笑みが浮かぶ。


「何するんだよぉ!」


 ユウキが抗議の声を上げるが、リベルは静かに手を掲げて制した。いつもの憂怩(ゆうてい)とした笑みを

浮かべながら、ゆっくりと振り返る。


「ありがとう。油断していたわ」


 丁寧に礼を述べながら、リベルは壁からナイフを抜き取る。刃に張り付いていた小さな影を、白い指先でつまみ上げた。


「嬢ちゃんでも気づかねぇことがあるもんだな。はっはっは」


 葛城の豪快な笑い声が、緊張を解きほぐす。先ほどまでの殺伐とした空気が、嘘のように和らいでいく。


「え……? どういう……こと?」


 ユウキは混乱しながら、リベルの手元を凝視する。


「へっ!?」


 なんとリベルの指先で蠢いているのは、精巧な蜂型(はちがた)ドローン。青い髪の陰に巧妙に潜み、監視の目を光らせていたのだ。


 ファントム司佐の執念深さが、小さな機械に凝縮されていた。


「死角にこいつが潜んでいたわ」


 リベルは淡々と説明する。


「司佐も必死ね……僕対策にわざわざ準備してたみたい」


 細い指に力を込める。青白い電光が走り、ドローンは火花を散らしながら崩壊した。焦げた金属の匂いが、かすかに漂う。


「これ以上ヘマすんなよ!」


 葛城は上機嫌に叫ぶ。先ほどの見事な連携に、心なしか態度が軟化していた。


「作戦実行は一四二〇! 遅れんな!」


 そう言い残すと、隊員たちを引き連れて通路の奥へと消えていく。重い足音が、有機的な壁面に吸い込まれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ