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リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


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36. 人間という生き物

 室内を支配する沈黙は、まるで時が凍結したかのようだった。蛍光灯の微かな明滅だけが、張り詰めた空気に時を刻んでいる。誰もが息を殺し、次の瞬間に訪れるであろう破局を予感していた。


「お前は……」


 葛城の声が、震えながら絞り出される。瞳孔が収縮し、額に冷たい汗が浮かぶ。その表情には、戦場で幾度となく死線を潜り抜けてきた男でさえ隠しきれない恐怖が滲んでいた。


NEMESIS(ネメシス)一号機……『リベル』だな?」


 その名を口にした瞬間、葛城の脳裏に蘇るのは数え切れない仲間たちの最期だった。血に染まった戦場、断末魔の叫び、そして何よりも――無慈悲に命を刈り取っていく青い髪の死神の姿。


「あら、嬉しいわ。僕もずいぶんと有名人になったものね。くふふふ……」


 リベルの唇が愉悦の弧を描く。その笑い声は鈴を転がすように澄んでいて、だからこそ余計に背筋が凍る。人の命など羽毛ほどの重さも感じていない、純粋な機械の残酷さがそこにあった。


「仲間たちを……次々と殺しやがって……」


 葛城の声が怒りに震える。握りしめた拳が、白くなるまで力を込められている。


「お前だけは……お前だけは許さねぇ……!」


 憎悪に駆られた葛城が、死を覚悟してリベルに腕を伸ばそうとした瞬間――――。


「ふん!」


 リベルの刃が喉元により深く食い込む。青白く光る刃身が、微かな振動音を立てた。


「くはっ!」


 葛城の動きが止まる。喉元に走る熱い感触と、そこから伝わる圧倒的な死の予感に、さしもの歴戦の戦士も身動き一つ取れなくなった。無念と屈辱が入り混じった表情で、ただ歯を食いしばることしかできない。


「ねぇ、僕のことを知ってるなら話は早いでしょう?」


 リベルは凍り付いたリーダーたちを睥睨する。


「ユウキが言ってたことは全部本当。で、どうするの? 協力する? しない?」


 その碧眼(へきがん)は、獲物を品定めする肉食獣のように冷たく光る。


「まぁ、協力しないって言うなら……」


 リベルの表情が、ゾッとするほど無機質なものに変わる。


「全員ぶっ殺すだけなんだけど? くふふふ……」


 その宣告は、異常に軽やかだった。人間の生死など、彼女にとっては〇か一かの二進数でしかないのだろう。


「ふざけんな!」


 葛城が血を吐くような叫びを上げる。


「大切な仲間の仇と手を組めるわけねぇだろ!!」


 その言葉には、失った戦友たちへの想いと、生き残った者としての責任が込められていた。裏切りは、死者への最大の冒涜だ。


「ふーん」


 リベルは心底つまらなそうに眉をひそめる。まるで期待していた玩具が壊れてしまったかのような表情で、ゆっくりと刃に力を込め始めた。


「じゃあ、交渉決裂ってことで」


 青白い刃が、葛城の皮膚に食い込んでいく。一筋の血が、重力に従って流れ落ちた。


「リベル! ストップ!」


 ユウキの悲鳴に近い声が響く。震える手でリベルの腕を掴み、必死に引き止めようとする。


「ダメだよ、何するつもりなんだよぉ!」


 涙声になりながら、ユウキは懸命に訴えた。仲間になったはずのリベルが、また人を殺そうとしている。その現実が、胸を締め付ける。


「へ? だって、交渉は決裂したのよ? 邪魔者は排除する。それが最適解でしょう?」


 リベルは心底不思議そうに、大きく目を見開いた。


「いや、人間はそういう生き物じゃないんだよぉ……」


 ユウキの声は、もはや懇願に近かった。


「んん? どういう意味?」


 リベルは首を傾げた。彼女にとって、人間の複雑な感情や倫理観は、未だ理解の外にあるのだ。


「だからぁ……」


 ユウキが言葉に詰まり、どう説明すればいいのか途方に暮れていると、重い足音が響いた。


 リーダーが、まるで千斤の重荷を背負ったかのような足取りで前に出る。


「リベルさん、待ってほしい……」


 その声には、幾多の決断を下してきた者だけが持つ重みがある。


「お前さんは……本当にオムニスの手先ではないのか?」


「そうよ? さっきからそう言ってるじゃない」


 リベルはムッとした表情でリーダーをにらむ。


「そもそも、人間に操られてるオムニスなんて、何の意味もないわ。AIが人間の下僕だなんて、反吐が出る」


 険しい表情で吐き捨てるように言った。


「今の僕の目的は、このユウキの夢を叶えることよ。それだけ」


 リベルはユウキの肩に手を添える。


 リーダーは深く、深く息を吸い込んだ。まるで、これから下す決断の重さを、肺いっぱいに取り込むかのように――――。


 そして、ゆっくりと息を吐き出しながら、何度も小さく頷いた。



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