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045

「姉ちゃん!」


 朝日に照らされた通りに、ラクト少年の声が響いた。

 シルフィが振り返ると、彼はちょうど、礼拝堂を飛び出してきたところだった。

 目を輝かせて、嬉しそうにこちらへ駆けてくる。


「すごいや! やっぱり姉ちゃんは聖騎――」


「来るな、少年!」

「待ちなさい、ラクト!!」


 シルフィとフェリン神父が大声を出したのはほとんど同時の事だった。


「えっ」


 驚いたように、ラクトが足を止める。


「それに近づいてはいけません!」


 礼拝堂に集まった人々を押し分け、進み出て来たフェリン神父の表情は険しい。


「それ、って……姉ちゃんの事?」


「そうだ。私に近づくな、少年」


 戸惑ったように立ち尽くすラクトに、シルフィが突き放すような声で言った。


「ど、どうして、そんな……」


 ますます混乱した面持ちで、少年がシルフィとフェリン神父を見比べる。

 そこへ、神父の隣に立った騎士隊長のイムザがシルフィを指さして叫んだ。


「その女は聖騎士などではない! 背教者だ!」


「え……」


 弾劾するような彼の声に、ラクトが愕然とした顔をシルフィへ向ける。

 彼女は恥じるように、その視線から顔を逸らした。


「初めからおかしいとは思っていたのだ。聖騎士でもないのに、妖魔を狩るなどと……」


 苦々しい顔でイムザが言う。

 横では、フェリン神父がそれに頷いていた。


「聖堂騎士ともあろう者が、神を裏切るとは……故郷を滅ぼされた恨みか。だとしても分からない。同じ悪魔に身を売るなど……」


 軽蔑に満ちた二人の視線に、シルフィは小さく身を竦めている。


「信仰を偽ったのですね」


 そんな彼女に、神父が吐き捨てた。

 シルフィの顔が苦痛に染まる。

 礼拝堂に集まっている人々まで、今や悍ましいものを見るような目を彼女へ向けている中で。


「で、でも!」


 両者の間に立ったラクト少年が、庇うような声を出した。


「姉ちゃんがいたから、俺たちは助かったんじゃ……!」


「そんなものに助けられるくらいならば、死んでいた方がマシでした!」


 少年の声を遮るように、神父が怒鳴る。

 ラクトは茫然として神父を見つめた。

 ケケケというダンテの高笑いが響いたのは、その時だった。


「よく言った、神父。流石は聖職者。嬉しいねえ、まったく。お前ら聖教徒は五百年も前からなぁんにも変わらない。だから恨み続けられる」


 本当に楽しそうに笑うダンテの全身から、再び闇が溢れだす。

 夜明けの光すら飲み込むようなその姿に、人々が怯えるように悲鳴を漏らした。

 その彼を見て、イムザが抜刀し、フェリンが首から下げた聖印の護符をダンテに突きつけて叫ぶ。


「さ、下がれ! 悪魔め!!」


「なんだよ。お望み通り、お前ら全員大好きなカミサマの下に送ってやろうというのに。奴も喜ぶだろうぜ」


 けらけらと笑いながら、ダンテは自分の首に下がっている銀の聖印をちゃらちゃらと揺らす。それに神父の喉がぐっと鳴った。

 突きつけられた聖印も、人々が唱える祈りの聖句も無視して、殺気とともにダンテが踏み出した。

 その行く手を。


「やめろ」


 さっと進み出たシルフィが遮った。

 その手には、いつの間にか剣が握られている。


「ああん?」


 邪魔をするなと、ダンテが唸る。そんな彼に、シルフィは剣を突きつけた。


「彼らに手を出すな。それ以上進めば、私はお前を殺す」


 一切の迷いもなく、シルフィはそう口にした。

 できもしないことを。

 そう罵ろうとしたダンテは彼女の瞳を見て言葉を飲み込んだ。

 すでに赤い妖光の失せた、彼女の深い碧色の瞳が彼を見つめている。

 できるはずがない事など、百も承知なのだろう。

 だが、それでも彼女はやるのだろう。

 たとえあっさりと殺されてしまうにしても。

 一歩として退く気のないらしいシルフィに、ダンテは諦めたように肩を竦めた。


「ああ。そうだ。そうだったな。契約だ。全部済むまで、俺は聖教徒には手を出さない」


 思い出したように呟いて、彼は殺気を消した。

 同時に、全身を覆っていた闇も晴れていく。

 再び、通りに朝日が差し込んだ。世界が息を吹き返したように、小鳥の囀りが響きだす。

 それを見て、シルフィもまた剣を下げた。


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