表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

043

『聖教は滅ぼすのだ。聖教徒は皆殺すのだ。それが我に捧げられた願いなのだ。殺す、殺す、殺す。一人残らず、蛆の苗床になるがいい』


 ぎち、ぎち、ぎち、と。憎悪の音を鳴らしている妖魔になど目もくれず、ダンテは通りに転がっているシルフィを見下ろした。

 うつ伏せに倒れたまま、ピクリとも動かない彼女は誰の目から見ても死体そのものだ。

 ダンテがそれを何食わぬ表情で見つめていると、ぎちぎちと勝ち誇るような音が通りに響いた。


『これで貴様の駒もなくなった』


「は? 何が?」


 嘲笑うようなその音に、ダンテは本当に何を言っているのか分からないという顔で、首を傾げた。


「まさか、お前。こいつがもう終わりだとでも思ってるのか?」


 馬鹿にしたように笑う彼の足元から、ゆらりと影のようなものが立ち昇る。

 それに妖魔が警戒するように身構えた。

 だが、その影は妖魔ではなく、シルフィに向けて伸びてゆく。死体そのものの彼女の身体を包み込んで、そして。


『なに……』


 ぎち、と。漏れたのは驚愕の音。


「なぁに驚いてんだ?」


 せせら笑うように、ダンテがそれに答えた。

 彼の足元では、散々に破壊し尽くされたはずのシルフィが動き出している。

 その身を包む黒い力の流れに従って、零れた臓物が腹の中へ、心臓に穿たれた穴が塞がり、割れた頭蓋骨がみるみる内に元へ戻ってゆく。


「腹を裂いた。心臓を穿った。頭を吹き飛ばした。肉体いれものをどれほど壊したところで、そんなことは関係ない。俺がコイツに暮れてやったのはその程度の加護じゃあない。お前の作った使い捨ての呪骸なんぞと一緒にされちゃあ困るね。コイツは、コイツ自身の魂が壊れない限り、何度でも甦る」


 黒い夜の中に、ダンテの哄笑が響いた。


「さあ、刮目するがいい。コイツはいずれ神をも殺す、俺の最高傑作。我が愛しの抜魂鬼リッチ


 羽衣のように闇を纏いながら、シルフィが立ち上がった。

 その手が剣を掴み、顔が上を向く。

 ゆっくりと開かれた瞳に宿るのは、血よりも赤く、炎よりも激しい妖光。


「さあ、どうした」


 立ち上がったシルフィの後ろから、ダンテは妖魔に向けて右腕を伸ばした。

 それをゆらゆらと、誘うように揺らしながら彼は凄惨に笑う。


「どうした。お前もさっさと、あそこに転がっている蟲どもを蘇らせてみたらどうだ?」


 嘲笑うようなダンテの言葉と共に、シルフィが妖魔に向けて飛んだ。

 先ほどよりも遥かに早い。爆発的な踏み込み。

 たったの一呼吸も置かずに妖魔へ肉薄した彼女が、手にした剣を無造作に一閃する。

 その斬撃は大気を砕き、通りの石畳を割った。


『ぐっ……』


 辛うじてその剣閃を躱した妖魔は、シルフィの脇をすり抜けると、ダンテの下へと疾駆した。


「お?」


 思いがけないその行動に、ダンテの顔に面白がるような笑みが浮かぶ。

 妖魔が襤褸切れの下から、毒手を突き出した。

 狙っているのは、ダンテが首にかけている銀細工。

 翡翠の宝石が嵌め込まれた聖印。

 恐らく。それが。

 しかし、妖魔の呪骸が宝石を砕くよりも早く、追いついてきたシルフィがその両足を後ろから切断した。

 突進していた妖魔の態勢ががくりと崩れ、ダンテの足元に倒れ込む。


『おのれ……』


 届かなかった毒針をそれでも突きだそうとする妖魔の背中に、シルフィが聖銀の剣を突き立てた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ