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礼拝堂を守るように呪骸の群れと戦っているシルフィの後姿を、その中にいる人々は慄きとともに見つめていた。
信じがたいことに、彼女はたった一人で無数の呪骸が礼拝堂へと入り込むのを食い止め続けている。
もちろん、無傷で済んでいるはずもない。
だが、傷ついた次の瞬間には、それも癒えてゆく。
だからといって痛みを感じないわけでは無いのだろう。
傷つくたびに、シルフィは苦吟に満ちた呻きを漏らしている。
それでも彼女は、戦う手を止めようとはしなかった。
このままでは埒が明かないと悟ったのか。
妖魔が数匹のイッカクカブトへ、同時に突撃するよう命じた。
それぞれが子供ほどの大きさしかないが、纏まって突撃してくるイッカクカブトを見て、シルフィは剣で防ぐことは不可能だと悟った。
だが、避けてしまえば礼拝堂にいる人々がただでは済まない。
決断は果敢かつ迅速だった。
シルフィは両腕を広げると、イッカクカブトの突撃を正面から受け止めた。
胸に、腹に。短刀ほどもある角が突き刺さり、その先端が背中から顔を出す。
「がっ、あ、あああああああああああああああ!!!!」
臓腑の底から絞り出すような絶叫とともに、シルフィは全身に力を込めた。
血反吐に塗れながらも、どうにか数匹がかりの突進を受け止めきる。
だが、剣を振る手が止まってしまった。
その隙をつくように、ハサミムカデの呪骸がシルフィの脇をすり抜けようとする。
「いか、せるか!!」
イッカクカブトが突き刺さったまま、シルフィはそのムカデを思いきり踏みつけた。
ぎぎぃという悲鳴を上げて噛みつこうとするムカデの頭を鷲掴みにして、思いきり放り投げる。
飛んできたムカデに、後に続こうとしていた呪骸の群れが一瞬怯んだ。
その隙に、シルフィは身体に刺さっているイッカクカブトを引き抜いて、止めを刺した。
わずかにできた時間を使って、彼女は息を整えた。
数度咳き込む。血の塊が喉から勢いよく飛び出した。
そんな彼女を見ても、誰も手を貸そうとはしない。
声援すらない。
聖堂騎士たちですら、目の前の恐ろしい戦いを前に、ただ立ち竦んでいるだけだ。
『何故だ、何故だ、何故だ』
礼拝堂に入ることもできぬまま呪骸が次々と討ち取られてゆくのに、妖魔がしゃあしゃあと喚いた。
『何故、我の邪魔をする』
憎悪の音とともに、襤褸の下から無数の針によって形作られた黒い腕が現れる。
突き出しているのは毒虫の針。
人間に突き刺せば、毒が回るよりも先に絶命するだろう凶悪なその腕を、妖魔がシルフィへと伸ばした。
そこへ。
「はぁい、そこまで」
そんな気の抜けた声が響いて、妖魔は動きを止めた。




