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035

『なにっ……?』


 あっさりと呪骸を切り倒したシルフィに、妖魔が困惑の音を漏らした。

 イムザたちもまた、驚愕に目を見開いている。

 彼らの前で、シルフィはイッカクカブトの呪骸にも切りかかった。

 しかし、イッカクカブトはその鈍重そうな見た目から想像もつかない素早さで、彼女の剣を躱した。

 大きく距離を取ったイッカクカブトに、ちっ、という舌打ちがシルフィの口から漏れる。

 そんな彼女めがけて、イッカクカブトが突進を始めた。

 シルフィは迎え撃つように腰を落とす。そこへ、彼女の背後から人の腕程度の大きさがあるハサミムカデの呪骸が飛び出してきた。


「……っ!」


 シルフィが焦ったような声を漏らす。

 その背中に飛びついたムカデが鋭利な顎を彼女の首筋に突き立てた。


「ぐ……!」


 シルフィが痛みに呻く。


「シルフィ殿!!」


 イムザが警告の声を発した。

 しかし、もう間に合わない。

 ハサミムカデの奇襲によって動きを止めてしまったシルフィを、イッカクカブトの角が串刺しにした。


「がっ……!!」


 シルフィの喉から、臓腑が潰れたような嫌な声が漏れる。

 イッカクカブトの角は彼女の腹を深々と貫いて、背中まで貫通していた。


「シルフィ殿!」


 その光景に、イムザが我を取りもどしたように叫んだ。

 剣を握りなおした彼が、シルフィを串刺しにしているイッカクカブトへ切りかかろうと踏み込む。

 その足を。


「来るな!!」


 串刺しにされたシルフィの怒鳴り声が押し止めた。


「なっ」


 驚愕にイムザが息を呑む。

 シルフィは己の首筋に食いついているハサミムカデの頭部を、空いている方の手で鷲掴みにすると、そのまま素手で握りつぶした。

 そして、自分を串刺しにしているイッカクカブトめがけて、剣を振り下ろす。

 刃は角を断ち切り、硬い外殻ごとイッカクカブトの頭部を砕いた。

 その巨体が力を失って、地面にどしゃりと崩れ落ちる。

 シルフィは腹に刺さったままの角を自力で引き抜くと、地面に放り捨てた。

 苦しそうに荒い息を吐いているが、腹の傷はみるみる塞がってゆく。

 じゅうじゅうと音をたてて、黒い蒸気が上がり、出血はあっという間に止まった。


「貴殿は……」


 イムザの口から、呆けたような声が漏れた。

 その目前で、シルフィが顔をあげる。その瞳は真っ赤に染まっていた。


「貴様……それは」


 赤い妖光に染まる彼女の瞳を睨みつけながら、彼は言った。

 剣呑とした、問い詰めるようなその声に。


「今は説明している暇がない。ここは私に任せて、教会へ急げ」


 シルフィはイムザの視線から逃れるように顔を背けて、そう言った。


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