031
どうにか瞼を持ち上げたシルフィの前には、ダンテが立っていた。
「どうした? ほら、もっと祈ってみろ。カミサマ、カミサマ、助けてください。そのためなら何でもします、ってなぁ。どうせ、なぁんにもしちゃくれねえ」
死に掛けのシルフィをにやにやしながら見下ろして、嘲るように彼はそう言った。
「……うるさい」
シルフィは今にも消え入りそうな、か細い声で言い返した。
そんな彼女を小馬鹿にするように、ダンテがはんと鼻を鳴らす。
「奴はいつだってそうさ。見て見ぬふりだ。そんなカミ(やつ)の教会で寝泊まりなんぞするから、せっかく俺様がくれてやった加護も恩寵も薄れちまうんだよ」
言って、彼は傷だらけのシルフィの額を指で小突いた。
「うるさい」
先ほどよりもはっきりとした声で、シルフィはもう一度言い返す。
「さっさと、手を、貸せ」
今にも意識を失いそうな中、彼女はうわ言のようにそう言った。
「良いだろう。手を貸してやる」
ダンテは頷いて、立ち上がった。
片腕をシルフィの頭にそっとかざす。
シルフィは最期の力を振り絞って、顔をあげた。
ダンテの指先が、そっと彼女の額に触れる。
それは高位の聖職者が、信徒に祝福を与える際の動作とよく似ていた。
いや。事実。
ダンテは、彼女を祝福しているのだ。
信奉する神と、敬愛する全てを裏切ってまで、自分に戦う力を求めた彼女を。
不可視の力が渦を巻いて、彼らを取り囲んだ。
それは遥か昔、この大陸にも存在していた魔術師たちが魔力と呼んだ力である。
世界に満ちる無色透明の不可思議な力。神霊や精霊と呼ばれる存在の源。
今や滅んだ妖精人のみがその力を操り、奇跡を行使したという。
それがダンテを中心に寄り集まり、奔流となってシルフィへと流れ込んだ。
シルフィの全身を、刺すような痛みが駆け巡った。
視界が暗転する。
そして。
頭の中に、声が響きだす。
―― お の れ 聖 教 徒
おのれおのれおのれおのれ呪われろ呪われろ薄汚い侵略者め欲深い略奪者め人殺しの人でなしどうか殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ皆殺しにしろ撃滅しろ殲滅しろ掃滅しろ虐殺だ戮殺だ鏖殺だ殺す殺す殺す殺すあなたが殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す男を殺せ女を殺せ子供を殺せ老人を胎児を骸を憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いよくも夫をよくも妻をよくも父母をよくも息子をよくも娘をよくも祖父母を怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨正気でむ怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨むこの世の果てるその日までこの世が終わるその日まで貴様らの最期の一人まで死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね無残に無情に無様に首を刎ね手足を千切り目玉を抉り許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない磔だ生き埋めだ火炙りだ串刺しだ俺のように私のようにあの子のようにあの人のように許さない赦さない赦さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイノロウノロウノロウノロウノロウノロいられますようにウノロウノロウノロウノロウコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……………………………




