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勢いよく吹き飛ばされたシルフィは、そのまま通りに面していた民家を貫通して、裏手にあった石造りの建物に激突してようやく止まった。
全身を石の壁に強かに打ち付けて、シルフィの意識は一瞬、遠のいた。
それを手放すまいと歯を食いしばったところで、彼女の全身を激痛が走る。
シルフィは衝撃で止まっていた呼吸を再開させようとして咽た。
臓腑の底から絞り出されるように、ごぼりと血の塊を吐き出す。
剣を握っている手を持ち上げようとした彼女は、肘から先の感覚が無いことに気付いた。
眼球だけ動かしてそちらを見れば、右肘はあり得ない方向に曲がっている。
左は付け根から動かなかった。肩が脱臼したのか。或いは骨が砕けたのか。
度を越した痛みのせいで、判断などできなかった。
息が吸えないのは、肺が破れてしまったからだろうか。
下半身は動かないどころか、何も感じない。背骨が砕けたのだろう。
ああ、結局。また。この様だ。
自嘲するようにそう思ったシルフィの耳に、かさかさという無数の蟲の足音が聞こえた。
死にかけの彼女というご馳走を、蟲たちが放っておくわけもない。
次第に近づいてくるその足音を聞きながら、シルフィは瞼を閉じた。
どうして。私は。
自らの力不足を思い知らされる度に、彼女は何度となく思う。
どうして。もっと剣を振らなかった。
どうして。もっと己を鍛えなかった。
もしもあと百回、いや、五十回でも多く、剣を振っていたならば。
それで何かが変わったのだろうか。それは彼女にも分からない。
それでも、そう思わずにはいられない。
己の不甲斐なさも。この無様さも。全て自分の努力不足だと。
そして、今さら思ったところでどうしようもない。
ギチギチ、シャアシャアという肌の粟立つような音はもうそこまで迫っている。
……ああ、神様。
もう決して叶わないと知っていながら。
それでも、彼女は祈ってしまう。
神様。私は。あなたのためならば、何だって――
「よう。お前のカミサマはまぁだ、お前を助けにきてはくれないのか?」
嘲笑するようなダンテの声が聞こえたのは、その時だった。




