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028

 そもそも。シルフィの剣の腕前は大したものではない。

 騎士の家に生まれ、女の身でありながら、幼い頃から剣に慣れ親しみ、良い師にも恵まれて。剣の奥義を極めるために必要なすべてが与えられていたというのに。

 稽古を欠かしたことは一日として無く。今なお、毎晩のように腕が上がらなくなるまで剣を振っているというのに。

 それでも。彼女の才能は、常に彼女の努力を裏切り続けた。

 イムザも当然、そのことに気付いているはずだ。

 剣筋を見れば分かる。

 剣の腕に関してならば、彼の方が上だということを。それも遥かに。


「そういった意味で言ったのではないのだが……」


 悔しそうに唇を嚙んでいるシルフィに、イムザは困ったように頭を掻いていた。

 彼はむしろ、呪骸を前にしても一歩として退くことのない彼女の胆力を褒めたつもりなのだった。

 だが、それを伝える機会は失われてしまった。

 正門を押さえていた若い聖堂騎士の一人が突然、腰を折って苦しみだしたからだった。


「ジーク!」


 隣で門を押さえていたもう一人の騎士が、突然苦しみだした彼を見て叫んだ。

 討伐隊の生き残りで、カロムと名乗っていた騎士だ。


「いかん!」


 イムザも焦った声を出した。

 よほど我慢していたのだろうか。ジークは血を吐くような勢いで咳き込んでいる。

 折り悪く、門の外へイッカクカブトの呪骸が突進を仕掛けてきた。

 槍のような角先が門戸を貫いて、ジークを心配しているカロムの肩に突き刺さった。

 門を押さえる力が弱まる。

 当然、それを呪骸どもが見過ごすはずもない。

 門戸の穴という穴から黒い蟲たちが溢れだす。簡単に振り払えるような小さなものばかりだが、ジークにはそれができない。

 あっという間に、その姿が蟲の中へと消えた。


「くそっ! ジークっ!!」


 纏わりついてくる虫を片腕でどうにか払っていたカロムは舌打ちをすると、肩の傷も無視して剣を抜いた。

 ぎちぎちと気味の悪い音をたてる真っ黒な塊の奥からはジークの絶叫が響いている。

 カロムはその塊に向けて剣を一閃した。

 聖銀の煌めきに怯えたのか。固まっていた蟲たちがさっと散ってゆく。

 後に残ったのは赤黒い塊だった。それがどしゃりという湿った音をたてて、地面に崩れ落ちる。

 もはや、人とは呼べないジークの残骸。それを目にして。


「畜生! この化け物ども!!」


 カロムが怒りに我を忘れた声で叫んだ。

 身体に纏わりついている呪骸を叩き落として踏みつぶし、近くを這っている蟲たちを手当たり次第に切り殺し始める。


「よせ、カロム! 門を押さえるんだ!!」


 イムザが大声で指示を出すが、カロムには聞こえていないようだ。

 再び呪骸が門に体当たりをした。門戸を押さえている男たちが苦しそうに呻く。

 大きな舌打ちをして、イムザが門に駆け寄ってゆく。


「許さん、許さん! 絶対に赦さんぞ! 殺してやる、この悪魔ども!!」


 カロムが憎悪の絶叫をあげた、その時だった。


『無論だとも。殺してやる。殺してやるとも。一人残らず、聖教徒は皆殺しだ』


 奇妙な声が、その場に響き渡った。



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