表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/50

027

 門の状況は、良くはないが悪くもないといったところだった。

 何度も差し込まれるイッカクカブトの角によって、門を押さえつけている男たちに死傷者が出ている。

 それでも傷ついた者、あるいは刺殺された者に変わって、次々と男たちが門戸に殺到してゆく。そうして彼らが時間を稼いでいる間に、別の者たちが運ばれてきた資材をどうにか門へ打ち付けていく。

 街に入り込んでくる呪骸は少なくないが、いずれも小さなものばかりだ。聖堂騎士たちで十分に対処できている。

 ありったけの松明と木材を集めて燃やしているからか。通りは昼間のように明るい。

 これならば、戦える。

 シルフィはそう思った。

 後は。朝まで耐えることができるかどうかだ。

 その考えはイムザも同じようだった。

 侵入してきた呪骸を切り捨てながら、懸命に部下や市民たちを叱咤している。


 呪骸はともかくとして、ほとんどの妖魔は陽の光を嫌う。

 太陽こそが、神が地上に贈られた恩寵の中でも最たるものだから、というのが教会の理屈である。実際はどうなのか分からないが、事実としてそうなのだ。

 だからこそ、妖魔による襲撃は大抵、夜間に行われる。

 そして朝日と共に去ってゆく。多くの場合で、誰一人残さずに。

 中には陽の光すら意に介さないような妖魔もいるにはいるが、それは魔王などと呼ばれる存在だけだ。

 そんなものが出て来たのだとしたら、聖騎士もいない状況で手の打ちようなどない。


「イムザ殿、騎士たちの中で瘴気に耐性があるものは?」


 頭の中で、まだ残っている希望をどうにか数え上げながら、シルフィはイムザに駆け寄ると訊いた。

 それは朝まで粘る上で、最大の問題だからだ。


「討伐隊で生き残った私と、門を押さえている二人は、ある。でなければ、今頃とうに死んでいる。だが、街に残っていた者は……どうかな。分からん」


「そうか。貴殿はまだ耐えられそうか?」


「……どうだかな」


 乱れた息を整えるように大きく呼吸をしつつ、苦しそうな顔でイムザは答えた。

 苦しいのは、息が乱れているからというだけではない。

 シルフィはちらと彼の足元に目をやった。そこには、彼が切り捨てた蟲の死骸が積み重なっている。

 死骸からは、黒い蒸気のようなものが立ち昇っている。

 それは神の敵である妖魔に呪われた証。瘴気と呼ばれる毒の気だ。

 呪骸との戦いで最も厄介なのは、その強靭さでも狂暴さでもない。

 まるで死してなお呪いを撒き散らすかのように、傷口や死骸から漏れだす瘴気こそが最大の障害なのだった。

 瘴気は呪骸との戦いで傷ついた身体を、内側からゆっくりと蝕んでゆく。

 症状は咳や手足の冷えから始まって、やがては呼吸すら難しくなり、手足は痺れて動かなくなる。

 戦場でこうなってしまえば、瘴気の毒が命を奪うよりも先に呪骸の餌食になってしまう。

 聖堂騎士たちは瘴気の毒に耐えるため、浄化の護符を身に着けているが、それでも大量に吸い込んでしまえばただでは済まない。


 今のところ、切り殺した呪骸はそれほど多くない。立ち昇る瘴気もそれほど濃くはないが、戦いが朝まで続くならば、それだけの死骸が積み重なってゆくはずだ。


「ところで。貴殿こそ大丈夫なのか」


 案ずるような目を足元に向けているシルフィにイムザが訊いた。


「え。ああ、はい。私は、ええ」


 答え辛そうにシルフィが頷く。

 それにイムザはどこか納得した様子だった。

 恐らく、故郷が妖魔に襲われたというシルフィが何故生き残れたのか。

 その理由を察したのだろう。

 彼の視線から逃れるように顔を背けたシルフィに、ハサミムカデが飛び掛かってきた。

 驚くこともなく、彼女は剣を振るう。しかし、切り裂くことはできず、ただ跳ね飛ばしただけだった。これは剣の切れ味云々というよりも、単に腕力の問題だった。


「大したものだ」


 シルフィが弾き飛ばしたハサミムカデに止めを刺しながら、イムザが感心した様に言った。


「女にしては、そうかもしれません」


 彼女は悔しそうに答えた。

 女のわりにやるではないか。

 そう言われたのだと思ったからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ