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026

 シルフィが駆けつけた時には、正門前は大騒ぎになっていた。

 大きな篝火が焚かれた広場では、あちこちから悲鳴や怒号、叫び声が上がっている。


「イムザ殿!」


 シルフィは逃げ惑う人々の中にその姿を見つけて、駆け寄った。


「貴殿か」


 現場の指揮を執っていたらしい騎士隊長のイムザは、脂汗の滲む顔で彼女に振り向いた。


「状況は?」


「良くはない。だが、気付くのが早かったおかげで、取り返しがつかないというほどでもない」


 そう言って、イムザは正門を示した。

 シルフィはそちらを見た。

 外から大きな、黒い何かが門戸を押し開けようとしているのを、聖騎士と体格のいい男たちが必死に押さえつけている。

 門の向こう側に押し寄せているのは間違いなく、シルフィが今日、森で見たような呪骸の群れだろう。

 当然、全ての侵入を防ぐことなど出来ていない。

 わずかな隙間から、続々と黒い蟲たちが沸きだしている。

 いずれも赤い妖光の灯る目を怒らせ、黒く硬質化した外殻を持つ、呪骸の群れ。

 小さいとはいえ、呪骸化した蟲だ。戦う力のない者にとっては大きな脅威だろう。

 すでに、街の者たちにも少なくない被害が出ているようだった。

 あちこちから響く絶叫がそれを教えてくれる。


「イムザ殿、済まないが、武器をお借りしたい」


 街に入り込んだ小さな呪骸の対処に当たっている聖堂騎士たちを眺めながら、シルフィはそう言った。

 彼らの持つ武器は全て、聖銀と呼ばれる祝福を受けた特殊な金属を鍛えて造られたものだ。元々そのために造られたのだから当然だが、その切れ味は呪骸の強靭な身体に傷を付けられるほど鋭く、また呪骸化した生物の体液に触れても腐食しない。

 シルフィの頼みに、イムザは分かったと応じた。

 剣を失ったことについては、昼間、森で拾った腕を届けに行った際に説明してあるので話は早かった。


「詰め所に、まだ何本か残っているはずだ。好きに使ってくれ」


「かたじけない」


 礼を言いつつ、シルフィは騎士隊の詰め所へ駈け込んだ。

 剣立てに立てかけられている中から、前に持っていた剣と同じくらいの大きさのものを選んで手に取る。一度、振ってみて感触を確かめたシルフィは、すぐに通りへと戻った。

 外に出たシルフィはまず正門の状況を確認した。

 今の所はどうにか保っているが、この街の正門は鉄製ではなく、何本もの木板を張り合わせて造られたものだ。

 何時までも呪骸の侵入を阻んではくれないだろう。

 門を破ろうとしている呪骸の中には、イッカクカブトもいるらしい。

 時折、槍の穂先のような角が門戸を貫いて穴を穿ってゆくため、補強すらままならない様子だった。

 イムザは松明を集めろ、火を絶やすなと指示を出しながら、自らも侵入してきた呪骸の対処に当たっている。


 自分はどこに手を貸すべきかと悩むシルフィの近くで、市民が悲鳴を上げた。

 見れば、クロガネムシの呪骸に纏わりつかれている。

 クロガネムシは楕円形の体を持つ甲虫だ。

 その辺の石を裏返せばすぐに見つかるような、何処にでもいる虫で、危険を感じると体を丸めて身を守る。

 丸まった姿が鉄の粒に似ていることから、クロガネムシと呼ばれるようになった。

 どうやら、呪骸化したことによってその名にふさわしい外殻を得たようだ。

 市民を助けようと、シルフィが切りつけた刃はあっさりと弾かれてしまった。

 それでも、クロガネムシは聖銀の刃に危険を感じ取ったらしい。

 呪骸は体をくるりと丸めて固まった。

 シルフィは一度、剣を思いきり叩きつけてみたが無駄だった。

 ぴったりと閉じた外殻には、刃を立てられそうな隙も無い。

 彼女は悔しげに唇を嚙むと、丸まったままのクロガネムシを蹴りつけた。

 呪骸はころころと、通りの真ん中に転がっていった。

 後の対処は聖堂騎士たちに任せようと決めて、シルフィは正門へ身体を向けた。


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