024
深夜。
礼拝堂にはシルフィの姿があった。
飾り硝子を透けて差し込む月光に薄っすらと浮かびあがる彼女は騎士服ではなくて、フェリン神父の用意してくれた、飾り気のない白いリネンの寝間着を着ている。
清楚な面立ちに、無垢な服装。礼拝堂の静謐さも相まって、今の彼女にはどこか神秘的な美しさがあった。
シルフィは聖壇に向かって両膝を突き、首を垂れて、両手を顔の前で組んでいた。
それは信徒が神に祈りを捧げる時の姿勢ではない。
騎士が主に何かを誓う時に示す礼儀でもない。
それは罪人が、己が罪を神へ告白し、赦しを乞うための姿勢だった。
瞳を閉じ、一心に何事かを念じている彼女の横顔は真摯そのものだ。
そこへ、かたりと礼拝堂の隅から音が響いた。
「ああ。これは失礼しました」
弾かれたように顔をあげたシルフィに、油灯を片手にしたフェリン神父が申し訳なさそうに詫びた。ちょうど、宿舎へ通じる裏口を通ってきたところだったようだ。
「お祈りの邪魔をしてしまいましたか」
「い、いえ」
申し訳ないと頭を下げた彼に、シルフィは慌てて立ち上がった。
「お、お恥ずかしいところを……」
よほど、その姿を見られたことが恥ずかしいのか。
彼女は酷くもじもじしながらそう言った。
その頬は月明かりの中でもはっきりと見てとれるほど、紅く染まっている。
昼間のような凛々しい騎士服姿ではなく、女性用の寝間着姿であるためか。
あたふたとした態度の彼女はまるで、想い人に対する秘め事をうっかり聞かれてしまった乙女のようだった。
「いえいえ、雑念の無い、澄み切ったお顔をしていました」
しきりに恥ずかしがっているシルフィに、フェリンは見てしまった罪悪感を払うように咳払いを一つした。
「赦されたいと願うのではなく、ただ主の前に己が罪を告白して委ねようとする。そんな顔でした。本当に信仰心のある者にしかできない表情です。流石、聖堂騎士ですね」
「……元、です」
フェリンに褒められたシルフィは、消え入るような声で答えた。
「それでも、ですよ」
神父はそんな彼女から目を逸らすと、世間話をするような声音で口を開いた。
「いや、実は私も若い時分には、聖堂騎士を目指していたこともあったのです。情けないことに、修行に着いて行けず断念しましたが。それでも、神への繋がりを諦めきれずに、こんな田舎で神職に縋りついているという……いやはや、なんとも情けない話ですが」
「そんなことはありません。ご立派です」
何かを誤魔化すように早口で話す神父に、シルフィがそう応じた時だった。
礼拝堂の外から、何やら大きな音が響いた。誰かの叫び声のようだ。
そして、それはすぐに悲鳴へと変わった。




