022
「なんだよ?」
路地に入ったところで、やる気の欠片もない調子でダンテが口を開いた。
「森で、呪骸に襲われた」
「はぁ。で?」
それがどうしたと訊き返すダンテを、シルフィが睨みつける。
その視線から、彼女の言わんとすることを察したのか。
「なんだよ。だから言っただろ。教会に泊まるのはやめておけと」
馬鹿にするように、ダンテはそう肩を竦める。
それにシルフィはまあいいと独り言ちてから、話を続けた。
「あの森では、呪骸化した蟲たちが共食いをしていた。何かわかるか」
「共食い……? そりゃまあ、古い呪法に似たようなもんはあるが……」
低く抑えた声で尋ねた彼女に、ダンテは失笑のようなものを漏らした。
「どんな呪いだ」
「どんなって……」
真剣な表情で問うシルフィに、ダンテは頭を掻きながら面倒そうに答える。
「別に、特別なもんじゃねえよ。共食いさせた虫やら獣やらを使う呪法なんぞ山ほどある。だが、まあ多分、その森で呪骸が共食いしてんのは、その呪法とは関係ねえな」
「何故、そう言える」
疑うように尋ねた彼女に、ダンテは肩を竦めて言った。
「森で呪骸以外の何か、たとえば獣か鳥を見かけたか?」
その質問に、シルフィは森の様子を思い返した。
ようやく、あの森が不自然なまでに静かだったその理由について思い至る。
「……一つ聞くが、呪骸も物を喰うのか?」
「そりゃ喰うさ」
ダンテはにやりと笑って答えた。
「お前らは呪われた骸なんぞと呼んでるが、アレは生きているからな。当然だ。そうでなきゃ殺せるわけがねえ」
ケケケと実に楽しそうに笑う彼に、シルフィの眉間の皺は深まった。
「つまり、餌がなくなったから、共食いをしていた……?」
「そんなところだろうさ。無計画に呪骸を増やすからそんなことになるんだ。嫌だねぇ。憎悪に燃えた奴ってのは相変わらず、後先を考えない」
「不味いな」
呟いて、シルフィは考え込むようにその形の良い顎へ指を添えた。
呪骸たちが森にある食料を食い尽くしたのだとして。
ならば、あの森に潜む妖魔は次にどうする。
作り出した大量の呪骸を養うために。
そんなことは、考えるまでもない。
当然、次の餌場を求める。
そしてそれはまず間違いなく、この街だ。
「明日、また森へ行くぞ」
顔をあげたシルフィがそう告げると、ダンテは面倒そうに息を吐いた。
「なぁんで? 向こうから勝手に出向いてくれるのを待てばいいじゃねえか」
「駄目だ」
彼の案をシルフィはバッサリとした声で切り捨てた。
「それでは街の人々に被害が出る。その前に終わらせるのだ。契約を忘れるな」
「はいはい」
彼女の頑なな物言いに、ダンテは諦めたように両手を上げた。
「そうだったな。そんな契約だった。だが、俺様が出した条件も忘れるなよ」
「……教会に行ってはならないという条件は無かった」
念を押すように言った彼へ、シルフィは悔しそうに言い返した。
「そうだな」
そんな彼女へ、ダンテはにやにやとした笑みを向ける。
「だが、忘れるな。お前はもう、カミのものじゃない。俺様のものだ。これがどういう意味か、忘れるなよ。努々(ゆめゆめ)、忘れるなよ」
その言葉とともに、ダンテの姿が揺らいでゆく。
彼は瞬く間に路地の薄暗がりの中へと消えていった。
どこからともなく聞こえてくる、ケケケという笑い声に、シルフィは舌打ちで答えた。




