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 新しく現れた呪骸は、ハサミムカデではなかった。

 大きな一本の角を持つ、ぐんずりとした見た目の甲虫、イッカクカブトの呪骸だった。

 その大きさはシルフィの腰当たりまである。

 頭部から突き出している一本角は、まるで馬上槍のようだった。

 く、と焦った声がシルフィの口から漏れる。

 丸腰で、これの相手はできない。

 逃げるしかない。

 しかし、どうやって。

 そう迷っている内に、イッカクカブトが彼女めがけて突っ込んできた。

 もはや仕方がない。

 角に突き殺される寸前、横に飛んで、そのまま突っ切る。

 作戦などと呼べるようなものではないが、それしか思いつかないのだから仕方がない。

 そう覚悟を決めて、シルフィは腰を落とした。

 だが、しかし。

 シルフィが横に飛ぶまでもなく、イッカクカブトは何故か彼女の脇を素通りしていった。


「なに?」


 シルフィが驚いて振り返った先で、悍ましい絶叫が上がる。

 叫んでいるのは、先ほどシルフィが剣で地面に縫い付けたハサミムカデだ。

 その体を、イッカクカブトの呪骸がバキバキと音をたてながら貪っていた。

 恐ろしい光景だった。

 黒い瘴気を撒き散らしながら、ギチギチと喚くように口を鳴らすムカデと、それを貪るイッカクカブト。


「いったい、何が……」


 あまりにも悍ましい光景を前に、シルフィは思わず絶句してしまった。

 だが、すぐに我を取りもどす。

 今は目の前のことを考えている場合ではない。

 あのイッカクカブトは、ムカデを食い尽くせば今度こそシルフィに襲いかかってくるだろう。

 そうなれば、次は自分が生きたまま喰われることになるかもしれない。

 シルフィは止まっていた足を無理やり動かすと、森の外へ向けて全速力で駆けた。


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