015
「話は聞けた?」
シルフィが詰め所を出ると、外ではラクトが待っていた。
「わざわざ待っていなくてもよかったのだぞ」
少年の質問に頷きを返しつつ、シルフィが言う。
「いや、だって。そうしたら姉ちゃん、教会に戻ってこないかもしれないじゃん」
「む」
その反論に、シルフィは口を真一文字に引き結ぶ。
「……それは、神父様の入れ知恵か?」
降参するように息を吐いた彼女に、ラクトはどうかなと笑いながら、鼻の下を擦った。
教会に戻った頃には、すっかり陽も落ちていた。
待っていたフェリン神父がシルフィを案内したのは、礼拝堂の裏手にある質素な木造の建物だった。
本来は教会に住み込みで働く修道士たちが生活するための宿舎なのだが、今はフェリン神父とラクト少年以外、誰も住んでいないらしい。
シルフィが通されたのは小さな部屋だった。
ベッドと小さな机が一つ置かれている他には何もない空間だが、清潔で、ベッドのシーツは新しいものに交換されていた。
それは、夕食の席でのことだった。
食卓の上に並んでいたのは固焼きのパンと、野菜の切れ端が浮かぶスープ。それと葡萄酒だけだったが、シルフィは十分満足だった。
食前の祈りを主へ捧げて、教会らしい物静かな晩餐が始まる……とは、行かなかった。
シルフィの向かいに座ったラクトが、彼女を質問攻めにしたからだ。
「姉ちゃんはどっから来たの?」
「……故郷は、東部の小さな街だ」
「それで、どうして旅をしてるの?」
「妖魔を探している」
「見つけて、どうするの?」
「滅ぼす」
途切れることのない少年の質問に短く答えながら、シルフィはちぎったパンを口に運んだ。
「それじゃあ、やっぱり。姉ちゃんは聖騎士なの?」
「いや。違う。聖堂騎士だった事もあるが、私など、あの方々の足元にも及ばない」
「……うーん、でも、それじゃあどうやって妖魔を倒すのさ?」
シルフィの答えを聞いて、ラクトが不思議そうに首を捻る。
妖魔を滅ぼすことができるのは、神の使徒である聖騎士だけ。
それは確かな事実なのだ。その辺の聖堂騎士でも倒せるような敵ならば、妖魔などとっくの昔にこの大陸から駆逐されている。
聖騎士でもないのに、妖魔を倒すというシルフィの言い分は、確かに滅茶苦茶なものなのだろう。
「それは……」
「こら、ラクト。いい加減にしなさい」
シルフィが答え辛そうにしていると、見かねたようにフェリン神父が口を挟んだ。
「そう質問ばかりしては、シルフィさんに失礼でしょう。それに、食事は静かに採るものです」
そう叱られて、ラクトは渋々といった様子で食事に手を付け始めた。
シルフィは内心でほっとしていた。
これでようやく、食事に集中できる。
ラクトにはまだまだ聞きたいことが山ほどあるようだったが、フェリン神父が睨みを利かせてくれたおかげで、それ以上、何も言わなかった。




