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014

「その者たちも、信仰の守護者たる聖堂騎士の誓いをたてた者たちだ。覚悟はできていたはずです」


 落ち込んでいるイムザに、シルフィは淡々と声を掛けた。

 彼女の正論に、それはそうだが、とイムザが顔を顰める。

 シルフィはそんな彼に取り合わなかった。


「それで、この街を襲っている呪骸については」


「ん、ああ……教えるのは別に構わないが」


 先を促す彼女に、イムザが疑問の目を向ける。


「その、本気なのか? 妖魔を狩るというのは?」


「はい」


 尋ねる彼に、シルフィは当然のように頷いた。


「悪い事は言わない。やめておいた方がいい」


 そんな彼女に、イムザは幼子にものを教えるような口調で言う。


「この歳まで聖堂騎士として勤めてきて恥ずかしい話だが、私はこれまで妖魔グリファはおろか、呪骸グールとさえ戦ったことが無かった。だからこそ、あんな愚かな真似をしたのだ。実際に対峙して、ようやく分かった。あれはただの人間が戦えるような敵ではないのだ」


「良く知っています」


 だから馬鹿な真似をするなと説得するイムザに、シルフィはしかし、あっさりと答える。


「私の故郷も、奴らに襲われましたから」


 その一言に、イムザは少しだけ驚いた顔を作った。

 しかし、それ以上何も訊こうとはしない。

 妖魔に襲われた街の末路など、聞くまでもないからだろう。

 同時に、流れ者だというシルフィが何故、この街を襲う呪骸にこれほど固執しているのかについて、少し納得したようだった。


「ならば。なおさら分かるだろう。あの化け物どもに対して、我々に何ができる」


 イムザは少し考えてから、やはり説得するようにそう言った。

 しかし、彼女はあくまでも頑なだった。


「何もできないからと言って、何もしなくてよいわけではありません」


「奴らを憎む気持ちは分かるが、それは無謀というものだぞ」


 表情を変えることもなく言い放ったシルフィに、イムザは顔を顰めながら言い返す。


「いくら聖銀の武器を持っているとはいえ、我々はただの人間。呪骸はおろか、妖魔に太刀打ちする術などない。結局は、聖騎士が来てくれるのを待つしかないのだ。妖魔を滅ぼすことができるのは、彼らだけなのだから」


 この国に数多いる聖堂騎士たちの頂点。

 神気を纏い、悪魔を狩りたてる七人の神の使徒。

 それが聖騎士だ。 

 この世ならざる存在の妖魔を滅ぼすことができるのは、神の力を授けられた彼らだけだと言われている。


 ところが、前述した通り、その聖騎士は一代にたった七人しか選ばれない。

 この数は不動である。

 聖騎士は七人全員が、教皇直属の近衛騎士であり、各地の騎士団から妖魔出現の報を受けてから、現地へと派遣される。

 だが、妖魔に対する唯一にして最大の戦力であると同時に、教皇の身辺警護を行う近衛でもある彼が全員、聖都を留守にすることはできない。

 よって、各地で相次ぐ妖魔と呪骸の被害や危険度を見極め、誰をどこへ、何名派遣するかといった調整を経てから、ようやく出動が決定される。

 故に、メルクルシア聖教国では妖魔への対処が常に後手に回ってしまうのが現状だった。


「結局のところ、我々の任務とは聖騎士がやってくるまでの時間を稼ぐことだったのだ。それを」


「あの」


 再び後悔に苛まれているイムザを遮って、シルフィが痺れを切らしたように口を開いた。


「そろそろ、呪骸についてのお話を」


 それ以外の何物にも興味はないと言わんばかりの彼女に、イムザは眦を吊り上げた。

 話を聞いていたのかという顔でシルフィを睨む。

 だが、彼がそれ以上何かを口にするよりも先に、シルフィが言った。


「妖魔についても、呪骸についても。その恐ろしさは嫌というほど知っています。けれど、聖騎士様がやってこられるのを待つにするにせよ、このまま手をこまねいているわけにはいかない。違いますか」


 どこまでも正論を口にして、まっすぐにイムザを見つめ返す彼女の瞳には、きっと天主ですら揺らがせることのできないだろう、強い意志が宿っていた。

 しばらく、二人は無言だった。

 だが、やがて。


「……何を言っても、無駄なのだろうな」


 降参したように、イムザが息を吐いた。

 シルフィは黙ってそれに頷き返す。


「ハサミムカデ、イッカクカブト、クロガネムシ。目にした限り、呪骸化しているのは虫ばかりだ。そこで我々は、街の北東に広がるアダランの森が怪しいと睨んだ」


 ハサミムカデやクロガネムシといった小型の虫ならば、街の中でも見かけることはある。

 だが、イッカクカブトのような昆虫は森にしかいない。

 そこで、討伐隊は森へと入った。

 それが間違いだった。

 森は呪骸の巣窟と化していた。

 無数の呪骸に取り囲まれた討伐隊は、戦うどころではなかった。

 一方的に蹂躙され、捕食され、一人、また一人と死んでゆく中、味方を見捨てて逃げ延びるだけで精一杯だった。


「……話せることは、これだけだ」


 そう言って、イムザは口を閉じた。


「感謝します」


 それで十分だとばかりに応じて、シルフィは立ち上がった。

 さっと腰を折って謝意を示してから、彼女は詰め所を後にした。


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