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012

 黒髪の少年が去ってからしばらく、シルフィは何かを悔いるように肩を落としていた。

 しかし、やがて気を取り直したように息を吐いてから、ラクト少年に顔を向ける。


「少年。騎士隊の詰め所はどっちだ?」


「え。あ。ああ、こっちだよ」


 二人の雰囲気にのまれて立ち竦んでいたラクトは、慌てたように彼女に応じた。


「けど、いいの? あの兄ちゃん、どっか行っちゃったけど」


「構わん。放っておけ」


 少年の質問に、シルフィはバッサリと答えた。

 その仏頂面を見て、ラクトは開きかけた口を閉じた。

 二人はどんな関係なのか。

 先ほどのやり取りには、どんな意味があったのか。

 聞きたいことは山ほどあったが、実際に訊いてみる気にはなれない。

 シルフィが明らかに、あの少年を嫌っていることが分かるだけになおさらだった。

 いや。嫌っている、などという生易しい感情ではなかった。

 彼女が黒髪の少年に向けている感情には、憎悪に近いものがあった。


 いったい、どんな二人なのだろう。

 胸の内で首を捻りながら、ラクトはシルフィを先導して歩き出した。


 教会があるのは、街のほぼ中央。そこから目抜き通りを北に進んで、街の正門へと向かう。

 このテッサの街はそれほど広くはないが、周囲を城壁でぐるりと囲まれた城壁都市だ。

 と言っても、この国では城壁に囲まれた都市など珍しくもなんともない。

 かつて、都市国家が乱立して戦乱の絶えることが無かったこの大陸を、メルクルシア聖教国が聖教の教えによって統一してから三百年余り。

 人々の信仰の力によって人と人との争いがなくなりはしたが、代わって妖魔という新たな敵が現れた。

 その脅威から身を守るために、人々は今もなお壁の中での生活を余儀なくされているからだ。


「騎士隊の詰め所は、あそこだよ」


 正門前まで着いたところで、ラクトが大きな門戸のすぐ横に建つ建物を指で示した。

 城壁と同じく、堅牢な石造りの建物で、門を出入りする人々を監視できるように大きな窓が設けられている。

 門にも、詰め所の前にも衛兵の姿はない。

 討伐隊が壊滅したせいで、最低限の人員も残っていないのかもしれない。

 そうでなくても、辺境の都市に駐屯する騎士隊の戦力はそれほど大所帯というわけではない。

 街の治安維持と、防衛に必要とされる最低限の戦力しか割り振られないのが通常だ。

 シルフィがこの街に入る際に使った東門も、門番をしていたのは住民の中から雇われたものだった。


「助かった」


 案内してくれたラクトに軽く頭を下げてから、シルフィは詰め所の中へと踏み込んだ。



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