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011

「お。やーっと終わったかぁ」


 礼拝堂を出たシルフィとラクトに、間延びした声が掛かった。

 顔を向ければ、あの黒髪の少年が礼拝堂の外にもたれ掛かっている。


「なんだ。助かったのか。運のいいやつだなあ」


 そんなところで待っていないで、中に入ってくればよかったのに。

 そう思っているラクトを見た少年が、ケケケと意地悪そうに笑う。


「何処に行っていた」


 ラクトが口を開く間もなく、隣でシルフィが厳しい声を出す。


「ん~? その辺。適当に、ぶらぶらと。この街の屋台はろくなもんが売ってねえな」


「呪骸のせいで交易が滞っている相だ」


 詰まらなそうに答えた少年に、シルフィが事情を説明した。


「これから、聖堂騎士隊の詰め所に行って話を聞いてくる」


「そりゃ、ごくろーさん」


 極めて事務的な口調の彼女に対して、少年は何処までも他人事のように応じた。


「それより。さっさと今日の宿を決めなくていいのか? まさか、お前。壁の中に入ってまで野宿するつもりか」


 傾きだしている陽光の角度を測るように空を見上げながら、少年が訊いた。


「ああ。それならば……」


 すると、それまでずっと無表情だったシルフィの顔に、初めて感情のようなものが混じる。


「今晩は、こちらでベッドを貸していただけることになった」


「は?」


 何やら、恥ずかしそうにそう言った彼女を、少年がぽかんとした顔で見つめる。


「ここ? ここって、教会ここか?」


 視線と指先の動きを同調させて、何度もシルフィトその背後にある礼拝堂の間を往復させながら少年が訊き返す。

 それにシルフィが俯きながら、小さく頷いた。

 何がそんなに恥ずかしいのか。耳まで真っ赤になっている。


「はああ? 本気か、お前?」


 少年が責めるような、呆れたような声をあげた。


「どうなるか分かってんだろうなぁ?」


「……分かっている。しかし、路銀にもそれほど余裕がないのだ」


 言い訳のようにシルフィが答える。


「……ふぅん」


 黒髪の少年が非難するような目つきで彼女を睨んだ。

 シルフィは叱られた子供のように俯いて黙っている。

 が、やがて。


「ま。いいさ」


 唐突に、少年は彼女から興味を失ったかのように目を離した。


「お前がそれで良いのなら。精々、カミサマに甘えてみるんだな」


 恨み言のように呟いて、少年は歩き出した。


「何処へ行く」


 その背中にシルフィが訊いた。


「寝床探しぃ」


 黒髪の少年は片手をひらひらとさせながら答えた。


「カミと同衾なんて、冗談じゃねぇ」


 口汚く吐き捨てて、彼は雑踏の中に消えてしまった。


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