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「あ、はいはい! それなら、俺が案内するよ!」


 剣を腰に吊って、礼拝堂を出ようとしているシルフィにラクトが駆けよった。


「む。では、頼む」


 シルフィが短くそう答えて、扉に手を掛ける。


「ああ、ところでシルフィさん」


 そこで、フェリン神父が思い出したように彼女を呼びとめた。

 シルフィが何でしょうかという顔で神父に振り返る。


「今晩の宿はどうするおつもりですか」


 突然の質問に、彼女は戸惑った様子だった。


「……騎士隊の詰め所に行った後で、適当に見繕おうと思っていますが」


 それが何かと訊きたげな顔で答えた彼女に、ああやっぱりとフェリンは苦笑した。


「それでは。今晩はここに泊まって行かれてはいかがですか」


「ここ、とは……この、教会にですか?」


 彼の提案に、シルフィは困ったように訊き返した。

 それにフェリンが、もちろんと頷く。


「教会が旅のお方に一晩のベッドを貸すことなど、そう珍しい事でもありませんし。それに、ラクトを助けて頂いたお礼をまだしていませんから」


「礼、ならば、もう言われましたが」


 シルフィがきょとんとした顔で首を傾げる。

 それを見たフェリンは、ああ、やはり感謝されることに慣れていないなと苦笑を深めた。


「言葉だけでは、とても、とても。気持ちは行動に起こしなさいと、主の御言葉にもある通りです」


「それは……そうかもしれませんが……いや、しかし」


 シルフィは言葉を濁しながら、何やら、もじもじし始めた。

 本当はその申し出を受けたくて堪らないのだが、何か後ろめたいことがあって、素直に好意を受け入れられない。そんな雰囲気だ。


「ですが、今は街がこんな状況ですし。営業している宿屋などほとんどありませんよ?」


 煮え切らない態度の彼女に、神父が現実を突きつけた。


「やってるところもあるけど、いつもの倍くらいは料金とるしね」


 その横から、ラクトも口を挟む。


「む」


 二人から畳みかけるように言われたシルフィは、小さく唸ったきり黙り込んだ。

 内心の葛藤を表すように、眉間に刻まれている皺が深くなる。

 その様子から、フェリンは路銀もそう潤沢というわけではないのだろうと見抜いた。

 駄目押しのつもりで口を開く。


「とは言っても、大したもてなしができるわけでもないのですが。清潔なベッドと、わずかばかりの晩餐……あとは、薪に余裕がないので湯を沸かすことはできませんが、礼拝堂の裏手にある井戸で水浴びをするくらいならば」


「み、水浴び、ですか……」


 最後に付け加えた一言に、思った以上にシルフィは喰いついた。

 騎士装束に身を包んでいるとはいえ、やはり年頃の女性なのだ。

 そんな彼女を微笑ましく想いながら、神父は優しく訊いた。


「どうでしょうか?」


 決めるのはあくまでも彼女自身だと、促すようにそう問う。


「もちろん、他の宿が全て駄目だった時にもう一度来てくださっても構いません。まさか、恩人を街の中で野宿させるわけにはいきませんから」


「野宿……野宿は、嫌だな」


 冗談のように言ったフェリンに、シルフィがぼそりと一人ごちる。

 その声には切実な響きがあった。

 恐らく、この街に着くまでは野営続きだったのだろう。

 どこから来たのかは分からないが、このテッサの街から最も近い街までは、馬車でも三日かかる。

 徒歩ともなれば、その倍は歩き詰めだったのではないだろうか。

 年頃の女性には厳しいものだったはずだ。


 しばらくの間、シルフィは散々に迷っていた。

 しかし、やがて。


「……お世話になります」


 何かを深く後悔するような、消え入るような小声とともに、彼女はぺこりと頭を下げた。

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