崩壊
それは、森崎が昭和達とともに暮らし始めて数度目の冬のことだった。
「……朝起きるとね、おばあちゃんが眠るように亡くなってたの。……苦しまずに済んだことが救いだって昭和は言っていたけど、あれだけおばあちゃんは親切に面倒をみてくれたのに、最期のお別れを言えなかった事がアタシは悲しかったし、何よりそんな事を言いながら昭和もアタシみたいにわんわん泣いてたんだ……」
だが、悲劇はそれで終わらない。
昭和はこの家には葬儀をするだけの資金的な余裕もなく、この先も貧しい状況で自分と森崎が生きていくためには、なくなっているはずの老婆の年金をアテにしていくしかない……と考えていた。
そしてあろうことか、彼は実母の死を然るべきところに届け出も出さず、自身の空き巣仲間である『エンプティ・ドリーマーズ』のメンバーとともに、人が寄り付かない山中に埋葬することによって、あたかも老婆が生きているように偽装し、生活していくために彼女の年金を行政から騙しとることにしたのだ。
これには、子供だったとはいえ、森崎も「おばあちゃんをキチンと供養してあげなきゃ、かわいそうだよ!!」と昭和に反抗した。
また、昭和に協力した空き巣仲間達も、彼同様の境遇や生活水準の者が大半だったため、日が経つにつれて次第に昭和に対して「老婆の死を偽装するのに協力したんだから、黙っていて欲しかったらそれ相応の見返りがないとな……?」といった具合に、毎月振り込まれる年金の分け前を要求するようになっていったのだ。
面倒を見ていた子供から責められるようになり、気の合うはずの仲間達からは脅し脅される関係になる。
そうしている間にも、いつ実母の遺体が何かの拍子で誰かに発見されるか分からず、そうなってしまえば警察にバレるのも時間の問題である……。
森崎や仲間達との衝突や軋轢、犯した罪の意識やそれが周囲に発覚する事の恐怖……。
そういった諸々の要因が、昭和の精神を徐々に蝕んでいく……。
次第に酒におぼれた挙句、言動が荒くなって家の中で森崎を怒鳴りつけるようになっていた。
……その姿は、かつて昭和が殴りつけた背中の相手と全く同じであることに、彼が気づいていたのかどうか。
そのままもう少し時間が経っていれば、それこそ森崎はまたも暴力を受けるようになっていたとしてもおかしくないところまで、二人の関係は破綻寸前に近づいていた。
「……まぁ、実際は外でも問題行為をするようになった昭和がやらかしを行った結果、警察の取り調べで空き巣やおばあちゃんの死を偽装した事とか……アタシを実の親から連れ去った事がバレて、昭和や『エンプティ・ドリーマーズ』のみんなも全員逮捕されたんだ……」
逮捕される間際に、
「ごめんなぁ……俺、駄目な奴なりに頑張ってみたけど、結局駄目な奴だから、お前の事を助けてやれなくて、本当にゴメンなぁ……!!」
と、泣きじゃくりながら彼女に謝罪の言葉を口にしていたときの昭和の顔は、その頃にはもう見られなくなっていた老婆が亡くなったとき――あるいは、自身を救い出してひょっとこのお面を外しながら不器用に語り掛けてきたときのような、かつての優しさを感じさせるものだった。
芋づる式に逮捕された『エンプティ・ドリーマーズ』のメンバー達は昭和を強請っていたものの、子供である森崎に対しては、疚しさもあってか若干気まずそうにしながらも、その後も顔を合わせるたびに彼女に対しては気さくに接してくれていた。
――だが、そんな昭和もおばあちゃんも他の仲間達も。
森崎に親切にしてくれた者達は、全員彼女の前からいなくなってしまった。
……そして彼女はすぐさま、自身がもとの劣悪な環境に戻される事に恐怖する事になる。
「だけど、そうはならなかったんだ。……笑えることに、アタシが連れ去られたあと、二人は自分達が虐待していた事がバレるのを恐れたのと、体の良い厄介払いが出来たってことで、アタシの捜索願いを全く出してなかったんだってさ。……マジうける」
警察の調べによると、森崎を虐待していた男はあの出来事のすぐ後で彼女の母親と破局し、それとは別に暴力事件を起こして、逮捕されたのだという。
そして、森崎の実母は……男と別れたあと、全てのしがらみを捨て去るかのようにどこぞへと行方をくらませた。
「誰も引き取り手がいなかったアタシは、身寄りがない子供を引き取る施設に預けられることになった。……その頃には、二度も“家族”っていうもんが崩壊する様を目の当たりにして、アタシも相当参っていたんだろうね。施設の中でも、誰とも遊ばないかなり浮いた子供だったよ」
今の森崎の姿からは到底信じられないが……立て続けにそんな事があれば、子供の頃の彼女がそうなってしまっても無理はないのかもしれない。
……けれど、その一方で俺は別の事を考える。
――ならば、そんな人生に絶望していた少女を、今のように明るい森崎に変えた要因は何なのか。
その疑問に答えるように、森崎が静かに語り始めていく……。
回想が長くなって、申し訳ないンゴ……。
次回で今度こそ、過去話は終わりです!(汗)
――あと、こんな話をしている間も、森崎さんはポールダンス用の姿のままな件について……!!(さっさと、服着ろ!定期)




