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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第2部
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第57話 とんでもない所業

 領主邸に集まった面々は、カラスたちが目撃した情報をラーナから説明されていた。


「え? 人が獣に、ですか?」


 ラーナから話を聞いたフィンが、驚いた顔になる。

 他の面々も、一様に驚愕した表情になっていた。


「ああ。トコロン家の当主と話していた何人かが、一斉に鹿や馬、ハトや鷲といった獣に変身したそうだ」


「そんな祝福、聞いたことがないよ……。レイニー様、ご存知でしたか?」


 メリルがレイニーに話を振る。


「いえ、私も初めて聞きました。祝福の種類については、王城で暮らしていた時に勉強しましたけど……。ミレイユちゃん、知ってました?」


「いいえ。私も初耳です。祝福学についても一通り目を通したことはありますが、そのようなものが存在するとは聞いたことがありません」


 ミレイユはレイニーの教育係を担当していたこともあり、分野は王族としての立ち居振る舞いや作法についてだ。

 レイニーはすでに王族としての教育は満了しているので、現時点では何かを新しく勉強しているわけではない。


「ラーナさん。その獣たちは、それぞれ何かの袋を持たされていたのですね?」


 ミレイユがラーナに問いかける。


「正しくは、鳥以外の者だな。その中身は毒物かもしれない。村の傍までは鳥以外の者が毒を運んで、鳥たちが空から村中に毒を散布するつもりかもしれん」


「動物の姿になれる者を使って、毒をばら撒きに来るつもりか……。事前に知ってなかったら、防ぎようがないな」


 フィンが深刻な表情で唸る。

 前回の件もあるので、誰かしらがひっそりと村に侵入してくるか、川に毒物を撒くと考えていたのだが、完全に予想が外れた。

 まさか、獣に変身するような祝福がこの世に存在していたとは。


「でも、貴族は祝福が発現したら、教会で調べて王家に報告する義務があるじゃない。それをしないで隠してるって、確か犯罪じゃなかったっけ?」


「犯罪だよ。貴族が隠し子とか作ってその祝福を隠してたのがバレたら、すごい額の罰金が科せられるって学校で習ったじゃんか」


 メリルとフィンが言うと、ミレイユが深く頷いた。


「罰金もそうですが、隠していた祝福を悪用していた場合には、100年単位で牢獄行きになります。つまり、終身刑ですね」


「ううむ。トコロン家の連中、その分だとその祝福を持っている連中を秘匿していたのはここ最近という話ではないだろうな……」


「でしょうね。下手すれば、彼らが領地を任された頃から王家に隠して祝福持ちを独占していた可能性があります」


「先日のこの村のように、同じような被害に遭った農業者も過去にいたのかもしれんな……」


 ラーナが真剣な表情で言う。


「これは大変な話だぞ。重大な法律違反だし、国家の指針に背く横暴だ。絶対に奴らを捕まえねば」


「はい! アンジェリカさんに、獣に化けた連中が毒を撒くところを転写してもらわないと! それと、そいつらがトコロン家の人間と接触してるところも!」


 メリルが勢い込んで言う。


「メリル、アンジェリカさんは徒歩なんだし、両方を転写するのは無理だよ。どっちかに絞らないと」


「う……それもそうね。なら、連中が人間の姿に戻って、トコロン家の人間と接触してるところを転写してもらうのがいいわ。転写したらすぐに、全員まとめて捕まえるのよ!」


「……いえ。それよりも、もっといい方法があります」


 それまで黙って話を聞いていたレイニーが口を挟む。


「彼らの他の貴族をないがしろにした行為は、王家の威信に関わります。それに、彼らを捕縛したとしても、この話を伝え聞いた他の貴族たちの心情に与える影響は甚大でしょう」


 レイニーが静かに語る。


「だからこそ、各地の領主たちにはその当事者になってもらわねばなりません。せっかく、こうして各地の領主たちが一堂に会する機会が訪れているのですから」


 皆、レイニーの静かな怒りを感じ取りながら、彼女の考えに耳を傾けるのだった。



* * *



 それから3日後の深夜。

 メリルたちは家の中で息をひそめながら、その時を待っていた。

 あれから、こうして毎日夜通し窓から空を見上げているのだ。


「今日こそは来るかな……。見学会まで、あと2日だよ」


 灯りを消した家の中から、メリルが窓越しに外を見つめる。

 フィブリナ、スノウ、エヴァ、レイニー、ミレイユ、そして猫のピコも一緒だ。


「フィンは、来るとしたら今日って言ってたけど、どうかしら……」


 メリルと一緒に窓の外に目を向けながら、フィブリナが言う。

 フィンの予想では、見学者が村に到着する2日か3日前に相手は仕掛けてくるだろうとのことだった。

 その理由は、作物が枯れてから見学者が到着するまでの期間だ。

 1日前では木々の葉や作物が萎びている程度で『少し元気がないだけ』と誤魔化される可能性があり、かといって日数を空けすぎるとダメになった作物を大急ぎで処分して、一部の畑に別の土を運んで来て祝福で芽だけでも出すといったこともやりかねない。

 だが、2~3日前に毒を撒けばそんな作業をするのは時間的に無理があり、作物が完全にダメになっているところに見学者が到着することになる。

 ライサンダー家に大恥をかかせるには絶好のタイミング、というわけだ。


「フィン様の立てた予想は合理的です。昨夜は来ませんでしたが、きっと今夜は来るはずです」


 ミレイユが窓から夜空を眺めながら、静かに言う。


「だといいのだけど……。それにしてもカラスたち、本当にすごいわよね。ものすごく頑張ってくれてるわ」


 フィブリナが、窓から見える家の屋根に目を向ける。

 数羽のカラスが、じっと空を見上げている様子が見て取れた。

 ああして、毒を撒く者がやってこないか監視しているのだ。

 ここからは見えないが、猫たちも村の周囲に散らばって監視をしてくれている。


「最初はずる賢いっていうか、打算的で付き合いにくいかなって思ったのに。村のためにこんなに頑張ってくれるなんて……」


「うん。私も見直しちゃいましたよ。カラスのこと、最初はいけ好かないなぁって思ってたけど、大好きになっちゃった」


 フィブリナとエヴァが言うと、スノウがくすくすと笑った。

 スノウはもうすっかり元気になっており、以前のような沈んだ顔は見せていない。

 村に危害を加える者たちを捕まえるのだと、発奮しているのだ。


「そうね。愛嬌もあるし、猫たちとも上手くやってるみたいだし。最近じゃ、森から私たちでも食べられる野草とか木の実を採ってきてくれたりするし」


 カラスは仲間意識がかなり強いようで、仲間と認識した村の者たちに対して献身的に尽くしてくれていた。

 今では子供たちの遊び相手になったり、野菜やアプリスの木に付いた虫を駆除してくれたりと大活躍だ。


「でも、彼らが夜にも活動できるなんて知らなかったわ。カラスたちがいなかったら、どうにもならないところだったわね」


 スノウの言葉に、他の3人が頷く。

 何百といる群れの全員が今回の計画に参加してくれており、高度に組織化された社会性のもと、それぞれ交代制で四六時中トコロン家の者やこちらに向かっている獣たちの監視を行っている。

 カラスも鳥なので夜目が利かないとスノウたちは思っていたのだが、どうやら彼らは暗がりでもはっきりと物が見えるらしい。

 夜に見るカラスの目は猫と同じように光って見えるので、目玉の作りが同じなのかもしれない。


「カラスさんたち、これが終わったらご馳走を振る舞ってあげないとですね。後で王都にお招きして、宮廷料理をご馳走してあげようと思います」


 微笑みながら言うレイニーに、メリルが苦笑する。

 もともと動物好きということもあり、彼女もカラスたちとは大の仲良しだ。

 そんな彼女をカラスたちも気に入っているようで、最近では朝になるとカラスが彼女の部屋の窓を嘴で突いて起こしにやってきてくれていた。


「動物に宮廷料理って、前代未聞ですね。陛下も王妃様も、驚くだろうなぁ」


「ふふ、そうですね。お父様とお母様の驚く顔を見るのが楽しみです」


「にゃあ」


 そんなことを話していると、夜空を眺めていたピコが一声鳴いた。

 何かを見つけたら知らせるようにと、ラーナがピコに話して聞かせていたのだ。

 ラーナはこの場にはおらず、フィン、アンジェリカとともに山に潜んでいる。

 皆、口を閉ざして夜空を見つめる。

 ぼんやりとした月明かりのなか、数羽の鳥の陰影が視界にちらりと映った。

 家々の屋根に留まっているカラスたちも、じっとその様子を見つめている。


「……鳥が飛び回ってる」


「何か、キラキラ光ってるわね」


 鳥が飛びまわるのに合わせて、月明かりに何かが反射してキラキラと光っていた。

 鳥たちは何かを足に付けているようだ。

 カラスたちが目撃したという、人の姿から鳥に変異した者たちの可能性が非常に大きい。


「あれは、おそらく毒を散布するための道具でしょう」


 窓からその様子を見つめていたミレイユが、小声で言う。

 もしそうならば、毒の散布を防ぐ手段など普通では取りようがない。

 そうまでして、トコロン家は見学会を潰すつもりなのだ。

 人の悪意の恐ろしさに、メリルたちは心底ぞっとした。


「あ、戻っていった……」


「きっと、またやってくるはずです。あれだけでは、村のすべての畑には撒けていないでしょう」


「空から撒いたということは、粉末か何かでしょうか」


 飛び去って行く鳥たちを見送りながら、エヴァが言う。


「もし粉末なら、水を撒かない限りは地面に染み込まないですから、今すぐ作物がダメになるってことはなさそうですね」


「あ、なるほど。今日が雨じゃなくてよかった……」


 ほっとした様子でメリルが言う。


「メリル。もし今日が雨だったとしたら、村全体に毒を撒くのは無理よ。空から撒いたって、粉末が雨のせいで広範囲に広がらなくなっちゃうんだから」


「あー、そっか。毒を撒くのも大変なんだね」


「鹿やイタチは、村には入ってきてないのでしょうか?」


 レイニーが村の畑を眺める。


「たぶん……。ラーナさんが言ってたように、そいつらは毒の運搬役なのかもしれないですね」


 メリルも村の畑に目をやる。

 今のところ、そういった気配は感じられない。


「後は、アンジェリカさんが証拠を押さえられるかどうかですね……」


 レイニーが心配そうに言う。

 皆、遠目に見える山に目を向けて静かに頷くのだった。

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