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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第2部
54/61

第54話 大事件

 次の日の早朝。

 いつの間にか酔いつぶれていたフィンは、宴会場の角っこに頭を押し付けている状態で目を覚ました。

 昨夜はあれからもひたすら酒を飲まされ続け、途中から完全に酔っぱらってしまって記憶が曖昧だ。

 唯一覚えていることは、何やら無性に部屋の隅っこに頭を擦りつけたくなって、横たわったままうねうねと部屋の角の壁に頭を擦り付けていたことくらいである。


「うう、いてて……。うぇ、気持ち悪い。頭痛い……」


 容赦のない二日酔いの洗礼を受け、フィンが身を起こして唸る。

 気持ちは悪いわ、頭痛はするわ、部屋の壁に頭を擦り付けすぎてヒリヒリするわで散々だ。


「……あー、こりゃ酷い」


 フィンが宴会場に目を向けると、そこはまさに死屍累々といった様相だった。

 部屋の真ん中ではロッサが大の字になって大いびきをかいており、その隣ではエヴァが酒瓶を大事そうに抱えてすやすや眠っている。

 他にも、村人や旅商人たちがそこかしこで爆睡していた。

 スノウは早々に席を立って自分の住居に戻っており、この場にはいない。


「おはよ……うわ、酒くさっ!?」


「あらあら、酷い有様ね」


 フィンがぼうっとしていると、メリルとフィブリナが水入りのピッチャーを手に室内に入ってきた。


「あんた、酔っぱらうとすんごくおしゃべりになるのね。びっくりしたわ」


「あんなにはっちゃけてたフィン、初めて見たわ。酔っぱらうとあんなふうになるのね」


 メリルに水を注いだコップを手渡されながら、フィンが苦笑する。


「いや、こんな大掛かりな飲み会なんて初めてだったからさ。ついつい飲みすぎちゃって……いてて」


 猛烈な二日酔いの頭痛に、フィンが頭を押さえる。


「ちょっと、大丈夫? 顔色が悪いわよ?」


 メリルが心配そうにフィンの頭を撫でる。


「頭が痛くて。こんなに酷い二日酔いは初めてだよ」


「いくらなんでも飲みすぎなのよ。酒瓶3本くらい、フィンが1人で空けてたんじゃないの?」


「今、スノウさんが二日酔いに効くハーブを採りにいってくれてるわ。『皆酷いことになってそうだから』って言ってたけど、本当にそのとおりになっちゃったわね」


 フィブリナが苦笑して室内を眺める。

 酔い潰れているのは数十人おり、男も女もそこかしこに倒れ込んでいる。


「フィン、ひたすら注がれてたもんね。そういえば、あの商人さんは?」


 昨日フィンに纏わりついていた商人の姿が見えないことに気付き、メリルが室内を見渡す。

 彼の他にも、数人の商人の姿がない。


「あれ、いないね。トイレかな? もしくは、飲みすぎて外で倒れてたりして」


「えっ!? それ危ないんじゃないの!? 急いで探さないと――」


「きゃあああ!?」


 その時、宴会場の外から微かに女性の悲鳴が響いてきた。


「スノウ!?」


 それまで大の字になって寝ていたロッサが、ばっと起き上がる。


「何かあったんだよ! 行かないと!」


 メリルが水のピッチャーを置き、ロッサとともに外へと駆け出す。

 フィンとフィブリナも、慌ててその後を追うのだった。



* * *



 フィンたちが声のした方へと駆けると、果樹園の前でへたり込んでいるスノウを見つけた。

 彼女の悲鳴を聞きつけて、あちこちから村人たちが集まって来る。

 


「スノウ!」


 ロッサがスノウに駆け寄る。


「どうした!? 大丈夫か!?」


 涙を流して呆然としているスノウの背に、ロッサが手を添える。


「は、花が……果樹園が……」


「え?」


 ロッサが果樹園へと目を向ける。

 昨日までは青々とした枝葉を広げていたアプリスの木々が、見るも無残な状態になっていた。

 葉は萎びて枝から垂れ下がっており、果樹園にあった花畑はすべての花が萎れてぐったりしてしまっている。


「な、なんだこれ。何がどうなってるんだ……」


「酷い……」


 フィンとメリルも、呆然とした様子で果樹園と花畑を見つめる。

 フィブリナや集まってきた村人たちも、その様子に唖然とした顔になっていた。


「皆、死にかけてる……これじゃあ、もう助からないわ……」


 スノウがはらはらと涙をこぼしながら、絶望したように言う。


「皆、他の場所も確認して!」


 フィンの呼びかけで、皆が一斉にあちこちへと走り出した。


 小一時間後。

 村の広場に集まったフィンたちは、いったい何が起こったのかを話し合っていた。

 宴会場で眠りこけていた村人や旅商人たちも集まってきていて、深刻な表情であれこれと話し合っている。

 スノウは完全に参ってしまったようで、フィブリナが付き添って家に戻っている。


「畑も花畑も全滅か……」


 フィンが沈鬱な表情で言う。


「果樹園も全部ダメそうだし、酷いなんてもんじゃないな……」


「絶対に、あの商人たちの仕業よ!」


 メリルが怒りの表情で断言する。


「朝になっていなくなってるなんて、どう考えてもあいつらの仕業に違いないわ! 追いかけて捕まえないと!」


「いや、どこに逃げたかも分からないし、捕まえようがないよ。もし捕まえたとしても、証拠を持ってるかも分からないんだから」


「それはそうだけど……! こんなの、絶対に許せないわ!」


「どうしてこんなことをするんだろ……酷すぎるよ……」


 憤慨するメリルの隣では、ハミュンが青い顔で立ちすくんでいた。

 彼女は人の悪意というものを生まれて初めて目の当たりにし、途方もない衝撃を受けていた。


「皆で一生懸命頑張って、せっかくここまできたのに……」


「こんなの許せねえ! 何が何でもあいつら捕まえてやる! フィン、馬を出すぞ!」


「えっ!? ま、待ってよ。今から追いかけたって無理だよ」


「うるせえ! スノウにあんな顔をさせた奴に、このまま逃げられてたまるかよ! 何が何でも捕まえるんだ!!」


 先走るロッサをフィンが諫めていると、レイニーがラーナとミレイユとともに広場にやってきた。

 レイニーはすでに事態を把握しているようで、深刻な表情になっている。


「フィン様、申し訳ございません。騎士たちを従えておきながら、このような事態を招いてしまうとは」


 いつものほんわかした雰囲気とは全く違う、威厳のある態度でレイニーが言う。

 静かに語るその声からは、怒りの雰囲気が感じられた。


「いえ、レイニー様のせいではございません。僕も、完全に油断していました。こういった事態も想定しておくべきでした……」


 村での生活があまりにも平和だったので、フィンだけでなく、レイニーや護衛の騎士たちまでもが完全に油断しきっていた。

 もちろんレイニーの周囲は常に騎士が固めていて警備は万全なのだが、村全体を四六時中警備しているわけではない。

 まさかここまで悪意に満ちた妨害行為をされるとは、誰一人思っていなかったというのも大きい。


「おそらく、今朝から姿が見えなくなっている旅商人が関係していると思うんですけど、今から捜しても捕まえられないだろうし、どうしたものかと……」


「……フィン殿、私にいい考えがある」


 すると、傍に控えていたラーナがフィンに申し出た。


「いい考え、ですか?」


「彼らはおそらく、夜明け前には村から立ち去っているはずだ。彼らの移動している時間を考えると、我々が馬を使って捜したとしても見つけることは難しいだろう。しかし、彼らに探してもらうとなれば話は別だ」


 ラーナがそう言って、家々の建物の屋根に目を向ける。

 そこには、何事かと集まってきていたたくさんのカラスたちがいた。


「あっ、そうか! 彼らなら、人よりもはるかに速く移動できますもんね!」


「うむ。今カラスたちに事情を説明するから、少し待っていてくれ」


 ラーナがカラスたちに向かって、事のあらましを声に出して説明する。

 カラスたちは黙って聞いていたが、説明が終わると一斉にカアカアと鳴き出した。


「協力すると言っているぞ。作物を枯らされて、カラスたちも激怒しているようだ。何が何でも捜し出すと言っている」


「ラーナさん。カラスたちが彼らを見つけたら、そのまま追跡させてはどうでしょうか」


 その様子を見ていたミレイユが口を挟む。


「おそらく、彼らは誰かに依頼されたか、自分たちの利益のためにこんなことをしたのでしょう。やることをやって、今は自分たちの住処か依頼主の下へ向かっているはずです」


「絶対にトコロン家の仕業よ!」


 メリルが怒りの声を上げる。


「村でアプリスの栽培に成功したことを聞きつけて、潰しにかかってきたに違いないわ! あの商人たちをすぐにでも捕まえて、裁きにかけないと!」


「いえ、逃げた商人たちが証拠を……おそらく何らかの毒物を畑や果樹園に撒いたと思われますが、今もそれを所持しているとは思えません。それらをすべて撒いてしまってもう手元にないか、たとえ余っていても証拠になるようなものを逃亡中に持ち歩いている可能性は低いでしょう」


 ミレイユが静かな口調で話す。

 確かに、彼女の言い分は筋が通っている。

 万が一のことも考えて、証拠になるような品はどこかに捨ててしまっている可能性が高い。


「まずは犯人がどこの誰なのか、そして誰から依頼を受けたのかを突き止めるべきです。相手が誰なのかさえ分かってしまえば、あとは罠を仕掛けて待てばいいのです」


「罠、ですか?」


 小首を傾げるフィンに、ミレイユが頷く。


「はい。私にいい考えがあります。後ほど説明しますので、まずはカラスたちに商人たちを捜してもらいましょう。急がないと、見つからなくなってしまいます」


「うむ、そうだな。だが、カラスたちに商人の見分けがつくかどうか。お前たち、商人たちの特徴だが……何? 知ってるだと?」


 カアカアと鳴くカラスたちに、ラーナが驚いた目を向ける。


「フィン殿、こいつらは商人たちの顔をはっきりと覚えているらしい。昨日、キラキラ光る魚を見た際に商人たちの顔も覚えたと言っている」


「キラキラした魚? ……あっ! あれのことか!」


 フィンが、昨日メリルと一緒に銅製の魚の形をした楽器を吹いていた時のことを思い出す。

 あの時、確かにカラスたちが集まってきて興味深そうに楽器を見ていた。


「よし、お前たち頼むぞ! 行ってこい!」


 ラーナがカラスたちに声をかけると、彼らは一斉に大空へと飛び立っていった。

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