第51話 大見学会
フィンたちは見学に訪れた貴族たちを引き連れて、スノウが育てている花畑へとやって来ていた。
辺り一面に色とりどりの今の季節の花が咲き誇り、まるで鮮やかな花の絨毯のような様相だ。
「こちらは、スノウ・レンデル氏が世話をしている花畑です。いずれ、鉢植えにしたものを各地に出荷できるようにと計画中です」
フィンが説明すると、スノウがぺこりと皆に頭を下げた。
「スノウ・レンデルと申します。フィン様にお誘いいただいて、半年ほど前からこのエンゲリウムホイスト村にて生活させていただいています。こちらで育てている花の種類ですが――」
スノウが今現在育てている花について、ざっと説明する。
「――以上が、地植えになっている花の種類です。街でも見かけるような今の季節の花ばかりだと思われますでしょうが、あちらにある大きな窓の建屋には、すべての季節の花が鉢で育てられています」
スノウを先頭に、建屋の中へぞろぞろと入る。
広々とした室内には大量の鉢植えが置かれており、それらに付いている花はみな蕾の状態だ。
「それでは、皆様にはすべての季節の花が一斉に花開く様子をご覧いただきますね」
スノウがすっと目を細めると、すべての鉢植えの花の蕾が淡く光り輝き、ゆっくりと花開いていく。
その幻想的で美しい光景に、すべての見学者から「おお!」と感嘆の声が漏れた。
「綺麗……」
「な、なんと。これがA+になった祝福の力か……」
「ううむ。ここまですさまじい力だとは……」
見学者たちが驚きの表情で口々に言う。
見学会はフィンの祝福強化の力のお披露目も兼ねているのだが、見学者たちの反応は上々のようだ。
「これらの花は、折を見て国中に出荷する予定となっています。皆様にもお土産として好きな花をお持ち帰りいただければと思っていますので、欲しい花があったらお申し付けください」
スノウがそう言うと、皆が、これが欲しい、こっちの花を貰いたい、と申し出てきた。
スノウは紙に彼らの名前を書き、鉢の下にそれを置いていった。
「では、次の場所に移動しまーす!」
フィンに連れられて、見学者たちは花畑の間を通り、真新しい村の家々を眺めながらぞろぞろと次の目的地へと移動する。
次の場所は果樹園だ。
花々に彩られた美しい村の景色を楽しみながら、一行はのんびり歩く。
青々としたアプリスの木々が見えてくると、見学者たちが「おお!」と声を上げた。
遠目にも、アプリスの木にたくさんの赤い実が生っているのが見て取れる。
「こちらは、エンゲリウムホイスト村が誇るアプリスの果樹園です。ごらんの通り、トコロン家が販売しているものと遜色ない色形の実を生らすことに成功しました」
傍らにいたメリルがアプリスの実を1つ枝からもぎ、あらかじめ用意されていたテーブルの上の水桶で洗った。
そしてナイフを取り出し、8等分に切り分ける。
半端材で作ったミニフォークに1切れ刺して、近場にいた男の子に差し出した。
その間に、フィブリナたちが枝からアプリスをもいではテーブルに並べていく。
「はい、どうぞ。食べてみてね!」
「わあ、ありがとうございます!」
男の子はアプリスを受け取ると、しゃくっと音を立てて齧った。
途端に、男の子の顔が綻ぶ。
「すっごく美味しいです!」
「ふふ、よかった。ちょっと、そのままでいてね」
メリルが食べかけのアプリスに手をかざす。
一瞬、そのアプリスが強く光り輝いた。
「わわっ!?」
「もう一口、食べてみてくれるかな?」
メリルにうながされ、男の子が食べかけのアプリスを齧る。
もぐもぐと咀嚼し、その瞳が驚愕に見開かれた。
「えっ!? さ、さっき食べた時よりも、ずっとずっと美味しくなってます!!」
男の子の言葉に、見学者たちから「おー」と声が上がる。
「あれが食料品質の向上の祝福か」と、興味深げに近場の人と話している見学者も何人か見受けられた。
『食糧品質の向上』は比較的珍しい祝福ではあるが、国内には何人か祝福持ちが存在する。
ただ、国内には祝福の強さが高くてもD+までの者しかいないため、対象物の品質を向上させるにはかなりの時間が必要なのだ。
「このように、この村では彼女の祝福によって、野菜や果物を高品質化することができます。エンゲリウムホイスト村から各地に出荷している高品質なダト芋やパン麦は、すべて彼女の祝福によって品質を向上させたものです」
メリルが見学者たちに向かってにこやかに会釈し、テーブルに目を向けた。
十数個のアプリスが、フィブリナたちの手によってピラミッド状に並べられている。
メリルがそれに手をかざすと、すべてのアプリスが強く光り輝いた。
見学者たちから、再び感嘆の声が漏れる。
フィブリナたちはそのアプリスを手に取り、ナイフで8等分に切り分け始めた。
「では、他の皆さんにも試食をしていただければと思います。どうぞ、召し上がってください」
フィンの呼びかけで、見学者たちがわっとテーブルに集まって来る。
高品質化されたアプリスを口に入れては、その美味しさに大盛り上がりしていた。
「フィン殿」
フィンがその様子を眺めていると、見学者の1人が声をかけてきた。
彼は、ライサンドロスの隣の領地、ウィンティス家の当主だ。
オーランドが、エンゲリウムホイスト村に送るための鉄鉱石を大量に仕入れている相手である。
「はい、何でしょう?」
「フィン殿の祝福強化の力は、祝福を持っている相手ならば誰のものでも強化できるとオーランド殿から聞いているのだが……」
「ええ、そうです。丸一日限定ですが、A+にまで強化できますよ」
「ううむ、すさまじいな。今は、村への移住者と協力者を探しているのだろう?」
「はい。まだまだ村は発展途上で、これからやろうとしている事業は山ほどあります。そのために有用な祝福を持っている貴族や、協力してくれる領地を探しているところです」
「ならば、ぜひ我が領地を協力相手とすることを考えてみてはくれないだろうか」
ウィンティス家当主が前のめりになって言う。
「この村は我が領地とも比較的近いことだし、人口もそこそこ多い。花や作物の取引先とするにはもってこいだろう。村から送られてくる品物の関税は大幅に下げるし、オーランド殿に販売している我が量の鉄鉱石の値段も何割か下げさせてもらう。その代わり、今後は優先的な取引をしていただければありがたいのだが」
「ありがとうございます! ぜひお願いしたいです!」
「おお、ありがとう。こちらこそよろしく頼む」
フィンの色よい返事に、彼はほっとした様子で微笑んだ。
フィンとしては、ライサンドロスの隣領であるウィンティス領が協力してくれるのは願ってもない話だ。
もともと、今日の見学会に参加している領主たちにはこちらから話を持ちかけるつもりだったのだが、話が早くて助かる。
「それと、手が空いた時で構わないから、我が領地にも来てもらうことはできるだろうか? 恥ずかしながら、祝福の力不足で難航している事業があってな。私も含めて、何人かの祝福を強化してもらいたいのだが」
「分かりました。すぐにというのは無理ですが、必ずお伺いさせていただきますね」
「いやはや、無理を言って申し訳ない。ありがとう」
フィンとしっかり握手を交わし、彼は満足そうだ。
「祝福の強化はさておき、人と物の流通を活発に行うようにすれば、互いの領地はもっと発展するだろう。後ほど詳細を詰めさせてくれないだろうか?」
「はい。では、今日の見学会が終わった後にでも――」
「フィン殿! ぜひ我が領地も、今の話に一枚噛ませていただきたい!」
「わ、私の領地もぜひお願いしたいのですが!」
フィンたちのやり取りを聞いていた別の領主たちが、続けざまに声をかけてくる。
他の貴族たちも、興味津々といった様子で集まって来た。
「はい。他の領地ともぜひ相互協力関係を結べればと思っていますので、よろしくお願いいたします。詳細については、また夜にでもお話させていただければ」
各領主たちが、ほっとした顔で頷く。
そうして、しばらくの間アプリスの試食会を続け、再び別の場所へと皆で移動するのだった。




