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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第2部
45/61

第45話 我も我も

「ふむ、これが蒸気機関ってやつか。こんなものが存在するとはな……」


 広げられた蒸気機関の設計図を眺めながら、ゴーガンが唸る。


「ええ。石炭を燃焼させて、その熱を利用してこのピストンを動かすんです。垂直運動を回転運動に変換する装置ですね」


 フィンは前世で駅の改修工事を行う会社に勤めていたこともあり、駅の構造や電車の仕組みには明るい。

 もともと鉄道好きであり、蒸気機関車についても学生時代から趣味であれこれ調べて頭に入っていた。

 いわゆる『鉄オタ』と呼ばれる人間だったのだ。

 手動で動かせる機械式の転轍機や信号装置まで、構造の説明はお手の物である。


「それで、これが蒸気機関車っていう乗り物です。作れそうですか?」


「そっくりこのまま作れというのなら、まあできないこともないだろう。フィン様の祝福で俺とルナの祝福を強化してもらえれば、たいていの物は作れるだろうからな」


「フィン様ー! 私も混ぜてくださいっ!」


 フィンがゴーガンと話していると、ハミュンが領主邸の方から駆けてきた。


「あれ? ハミュン、料理はいいの?」


「えへへ。こっちが気になってうずうずしてたら、メリル様たちが『行ってきていいよ』って言ってくれて」


 ハミュンが少し恥ずかしそうに鼻の頭を掻く。


「そっか。じゃあ、ハミュンも一緒に計画を練ろうか」


「はいっ!」


 フィンが別の図面をテーブルに広げ、鉄道レールやレール用の車輪についての説明をする。

 線路は常に直進というわけにはいかないので、場所によってはカーブしたレールも必要だ。

 そのようなレールの上を走る車輪も、カーブでも脱線しないように特殊な形状をした構造となっており、それについてもフィンが原理を詳しく説明する。

 本格的な鉄道計画の話に、ゴーガンは感心した様子で何度も頷き、ハミュンはわくわくが止まらないといった表情で瞳を輝かせていた。


「ははぁ……こりゃすごい装置だな」


 一通りの説明を聞き、ゴーガンが唸る。


「でしょう? あと、これを動かすには石炭が大量に必要なんですけど、村の近くでエンゲリウム鉱石が採掘できることが分かったんです。なので、燃料に関しては心配しなくてよさそうですよ」


「何? エンゲリウム鉱石って、拳大で1カ月近くも燃え続けるっていうやつだろう?」


 ゴーガンが驚いた声を上げる。


「確か、何百年も前に枯渇したって聞いたことがあるんだが」


「はい。この間オーランド兄さんに来てもらって資源探知をしてもらったんですが、地下にまだ埋蔵されてることが分かったんです」


 フィンは、ポケットから親指ほどの大きさの緋色の鉱石を取り出す。

 以前オーランドと一緒に資源探知をした時に、過去に行われた採掘の際の落とし物として探知したエンゲリウム鉱石だ。

 オーランドもいくつか持ち帰っており、村の宣伝に使うことになっている。

 国としても一大事のことなので、王都にもオーランドがサンプルを送ることになっていた。


「これがエンゲリウム鉱石です。今、火を点けてみますね」


 フィンが火打石を取り出して、カンカンと叩く。

 火花が散り、目には見えないほどに小さな火の粉が鉱石に落ちた。

 すると、緋色だった鉱石が徐々に眩しい赤色に変わり、やがて「ボッ!」と音を立てて火に包まれた。

 ゴーガンが「うお!」と驚いた声を上げる。

 ハミュンは以前、フィンとオーランドがエンゲリウム鉱石を採掘して持ち帰った際に、火を点けて披露したのを村の皆と一緒に見ているので特段驚きはしない。


「こりゃあたまげた。石炭と違って、ずいぶんと火が点きやすいんだな」


「ええ、僕も驚きましたよ。しかも、このまま放っておいてもずっと燃えてるんです」


「ずっとか。なるほど、言い伝えのとおりってことか」


「ですね。この鉱石も、ちょっと前に丸1日燃やしたままにしてたんですけど、少し小さくなっただけでずっと燃えっぱなしでした。ハミュン、水を持ってきてくれない?」


「はい!」


 ハミュンが建屋の外へと走る。


「しかし、燃料はこれでいいとして、問題はこの蒸気機関車が走る道だな」


 ゴーガンが設計図に目を戻し、鉄道レールの図を指でなぞる。


「これを地面にひたすら敷いていくとなると、山道の整備にかなり手間がかかりそうだ。そっちの手はずは大丈夫なのかい?」


「はい。オーランド兄さんに、宣伝チラシであちこちに村の宣伝をするのと一緒に、道の整備にも役立つ祝福を持っている人を募集してもらってるんです」


 フィンが宣伝チラシをゴーガンに手渡す。

 まるで村の景色をそのまま紙に描いたような色鮮やかで鮮明なチラシを見て、ゴーガンが目を丸くした。


「うお、こりゃあすごいな。これも誰かの祝福で作ったのか?」


「ええ、そうです。ジークさんとアンジェリカさんという兄妹がいるんですが、彼らの祝福でこのチラシを作ってもらいました」


「ううむ、こんなものまで作れるとは。このチラシを見たやつらは驚くだろうな。協力を申し出る貴族も多そうだ」


 そんな話をしていると、1羽の鳩が建屋のなかに入り込んできた。

 バサバサと羽を羽ばたかせて、猫と戯れているルナを眺めているラーナの肩に止まる。


「お、戻ってきたか」


 ラーナが鳩の頭を撫で、足に括り付けてある手紙入りの筒を取った。


「フィン殿、オーランド殿からの手紙だ」


 ラーナがフィンに歩み寄り、手紙を差し出す。

 猫を抱っこしていたレイニーも、猫を抱えたまま歩み寄ってきた。


「フィン様、お手紙には何て書いてありましたか?」


 よしよしと猫の頭を撫でながら、レイニーが聞く。


「えっと……あ、これすごいですよ!」


 フィンが手紙の文面に目を走らせて、笑顔になる。


「レイニー様が村に移住してくださったことが国中に広まっているみたいで、自分も移住したいっていう貴族からの連絡が殺到してるみたいです。有名どころの貴族も、いくつか支援を申し出てくれています」


 レイニーと、水を汲んで戻ってきたハミュンが手紙を覗き込む。

 ハミュンは学校でしっかりと授業を受けていることもあって、すでに文字が読めるようになっていた。

 ちなみに、本日は学校はお休みだ。

 一週間のうち二日は休校で、普段授業が行われる日はお昼までは授業。

 午後は夕方になるまで、先生に見守られながら学校の周囲で体育という名の遊び時間となっている。


「わわっ、すごい数の名前ですね! これ、全部貴族様なんですか?」


 支援や移住を申し出ている者の名前の羅列を見て、ハミュンが目を丸くする。


「うん。祝福の詳細も書かれてるし、これはありがたいね……あっ、この『無機物回転(E)』って祝福、レールを敷く場所にある岩をどけるのに使えそうだ。こっちの別の祝福も使えそうだし、選り取り見取りだなぁ」


「フィン様、これなら鉄道建設が進められそうですかっ!?」


「うん。これだけいろんな人が応募してきてくれるなら、たいていのことはできると思うよ。オーランド兄さんに、この人たちと面談をしてもらうようにお願いしないと」


「やった! やりましたね! これで鉄道が作れますね!」


 ハミュンが万歳して大喜びする。


「だね。チラシの反響ももう少ししたら出てくるだろうし、これならやろうとしてる事業は全部なんとかなりそうだよ」


「わぁい! 皆、やったね! 鉄道だよ鉄道! 楽しみだね!」


 ハミュンが足元にいたピコを抱え上げて頬ずりする。

 ピコも嬉しそうにしているハミュンに、にゃあにゃあと顔を擦り付け返していた。


「でも、村に来てもらう貴族はきちんと精査しないとね。いくら祝福が便利そうでも、誰かれ構わず来てもらうのはよくないし」


 村ではレイニー王女が暮らしているので、彼女とお近づきになるためといった邪な考えを持つ者が来ないとも限らない。

 レイニーの身に何かあれば大変なことになるので、村に迎える貴族は身辺調査や日頃の素行調査もしっかりと行うべきだろう。


「フィン様」


「わあっ!?」


 突然真後ろから声をかけられて、フィンが飛び上がって驚く。

 いつの間にか、レイニーの侍女ミレイユがフィンの背後に立っていた。


「び、びっくりした……。ミレイユさん、どうしました?」


「村に迎える貴族は、全員私に面談をさせていただけないでしょうか」


「あ、はい。それは構いませんけど、ミレイユさんって面談とかやったことあるんですか?」


「はい。王都では、王家で登用する人間はすべて私が面談を行っておりました。その人物がいい人間か悪い人間か、会って話せば私には分かりますので」


 ミレイユは触れた相手の欲望を探知できる祝福を持っている。

 それを使って王城に訪れるすべての人間に握手を求め、どんな人間かを調べていた。

 彼女の祝福について知っているのは、国王を含めたごく少数の者だけだ。


「そうなんですか。僕、面談はあまり経験がなくて不安だったんで、ちょうどよかったです。ぜひお願いします」


「かしこまりました」


 ミレイユはそう言ってぺこりと腰を折ると、傍にいたゴーガンに歩み寄った。


「ゴーガン様、改めまして、よろしくお願いいたします」


「ん? ああ、よろしくお願いします」


 差し出された手を握り返して挨拶するゴーガン。

 そんな彼女を見て、フィンは「相変わらず変わった人だな」と思うのだった。

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