第44話 頑張れ猫軍団
猫とカラスと人間たちによる対ネズミ共同戦線が敷かれてから、数日後の夕方。
村に蔓延っていたネズミたちは、順調に数を減らし続けていた。
カラスたちは報酬を払えば払っただけ働いてくれており、上空から村の中を走り回るネズミを見つけては、まるで弾丸のような速さで急降下して捕らえてくれている。
猫たちもカラスに負けてなるものかと、それこそ寝る間を惜しんで必死にネズミを狩り続けてくれていた。
「わわっ!? こんなに捕まえたの!?」
領主邸の前にこんもりと盛られたネズミの死骸の山に、ハミュンが目を丸くする。
ネズミの山は2つあり、1つには村の猫たちが、もう1つにはカラスたちが整列してドヤ顔をしていた。
「皆、すごいね! 今夜はご馳走を作るから、期待しててね!」
ハミュンが猫とカラスたちの頭を交互に撫でて、賛辞を贈る。
猫もカラスも、ハミュンに褒められて嬉しそうだ。
ハミュンはやたらと動物に好かれるようで、カラスたちとも言葉は交わせないながらも、今では何となく意思の疎通ができている様子だった。
祝福を持っていなくても、人と獣は心を通じ合えるのかもしれない。
「はー、まさかこうも劇的に成果が出るなんて思ってなかったわ」
「びっくりよね。これなら、もうしばらく続ければネズミを完全に駆除できるんじゃないかしら」
ハミュンたちを遠巻きにしながら、メリルとフィブリナが言う。
2人とも、ネズミを駆除してくれる猫とカラスには感謝しているのだが、ネズミの死骸の山には近づきたくない。
ハミュンは気にせずにネズミを手掴みで水桶に放り込み「今夜はネズミの丸焼きをたくさん作ろう!」と息巻いている。
村人たちにとっては、ネズミも貴重な食糧なのだ。
「メリル! フィブリナ姉さん!」
自分たちもネズミの丸焼きを作るのか、とメリルとフィブリナが少し気落ちしていると、フィンが村の入口の方から駆けてきた。
「鍛冶職人のゴーガンさんたちが来てくれたよ! 歓迎パーティーをしないと!」
「えっ、鍛冶職人さんですか!?」
フィンの声を聞いて、猫やカラスと戯れていたハミュンが立ち上がる。
「フィン様! 鍛冶職人さんが来てくれたってことは、ついに鉄道作りを始められるってことですかっ!?」
駆け寄ってくるハミュンに、フィンが笑顔で頷く。
「うん。工房の準備が出来たら、蒸気機関車作りについて相談するつもりだよ」
「おおー! ついにですね! やったぁ!」
ハミュンが飛び上がって喜ぶ。
ハミュンにとって、鉄道事業は何よりも大切なのだ。
今まで行ったことのない遠い場所へ簡単に行くことのできる、石炭で動く巨大な乗り物。
ハミュンはフィンの話を毎晩寝る前に思い返しては、どんな乗り物なのだろうと想像して心を躍らせていた。
「ちょうどネズミもたくさん取れましたし、いいタイミングでしたね! 張り切ってネズミの丸焼きを作らないと!」
「え、えっと、ハミュンちゃん。ネズミって、街だとあんまり食べる習慣がないから、ゴーガンさんたちは驚いちゃうかもしれないの」
「そ、そうそう。ネズミ料理はカラスと猫たちだけにして、ゴーガンさんたちには魚とかナマズ料理がいいと思うよ」
張り切っているハミュンに、フィブリナとメリルが控えめに諭す。
「えっ? でも、ネズミってすごく美味しいですよ? せっかくですし、食べてもらわないともったいないですって! ね、フィン様?」
ハミュンが純真無垢な笑顔をフィンに向ける。
そんな笑顔を向けられては、フィンもさすがに「ダメだ」と言うことはできない。
「そ、そうだね。まあ、とりあえずは出してみればいいんじゃないかな」
「はい! たっくさん作りますから、フィン様も期待しててくださいね!」
ハミュンは元気に言うと、ネズミ入りの水桶を持って領主邸の中に駆け込んでいった。
そしてすぐ、ひょこっと顔を出す。
「メリル様、フィブリナ様! 手伝ってください!」
「うう、ネズミか……。フィン、あんたのせいなんだから、責任もって私たちの分も食べなさいよ?」
「ネズミだけは、どうしても食べる気にならないのよね……」
やれやれといった様子で、メリルとフィブリナがハミュンの下へと向かう。
フィンは苦笑して頷くと、ゴーガンたちのいる村の入口へと戻っていった。
* * *
数十分後。
フィンは手伝いに集まってきた村の若者たちとゴーガン一家を連れて、鍛冶工房用に作っておいた一軒の建屋にやってきていた。
その建屋は、丸太を柱にして屋根と土壁だけを取り付けた簡素なものだが、室内は広々としていて風通しを良くしてある。
かなり熱気が籠って暑くなるとフィンは聞いていたので、それに配慮した間取りになっていた。
「ふむ。これは広くて使い勝手がよさそうだ」
建屋に入ったゴーガンが、満足そうに言う。
一緒に付いてきた息子夫婦とその娘のルナも「おー」と室内を眺めていた。
「それじゃあ、早速道具を運び込むことにするか」
「はい。皆さん、ゴーガンさんに聞きながら荷物を運び込んでください」
若者たちが元気に返事をして、建屋の前に止まっている荷馬車から荷物を運び込む。
そうしていると、ラーナとレイニーが護衛の騎士とともに、数十匹の猫たちを従えてやってきた。
「フィン殿、鍛冶職人が到着したと聞いたが……。おお、ゴーガン殿、お久しぶりです。これから、よろしく頼みます」
「皆さん、お久しぶりです! ルナさん、ようこそエンゲリウムホイスト村へ!」
ラーナとレイニーが一家に笑顔を向ける。
「レイニーお姉ちゃん!」
ルナが満面の笑みで、レイニーに駆け寄る。
「すごいね! こんなにたくさん猫がいるんだ!」
「はい。皆でルナさんたちを歓迎しにきたんです。あと、ラーナちゃんは猫さんたちとお話しができるんですよ」
「えっ、そうなの!? 本当!?」
驚いた顔を向けてくるルナに、ラーナが優しく微笑む。
「ああ、本当だとも。私の祝福はそういうものでな」
ラーナが猫たちに目を向ける。
「ほら、お前たちもこの娘に挨拶をしろ」
ラーナが言うと、猫たちはにゃあにゃあと返事をして、ルナの足元にまとわりついて頭を擦り付けだした。
ルナは嬉しそうにきゃーきゃー騒ぎながら、猫の頭や背を撫で回している。
「あはは。猫さんたち、サービス満点ですねぇ。ルナちゃん、すごく嬉しそう」
その光景を見ながら、レイニーが朗らかに笑う。
彼女の言葉に、フィンはピンときて手を打った。
「そうだ、いいこと思いつきました! この猫たちを、村の名物にするっていうのはどうでしょうか?」
「名物に? どういうことです?」
「遊びに来た人たちに、猫がこれでもかっていうくらサービスするお店を開くんです。僕が前世で暮らしていた世界では、猫カフェっていうのがあったのですが――」
フィンがレイニーとラーナに、猫カフェについて説明をする。
それを聞き、レイニーは瞳を輝かせた。
「それ、すっごく楽しそうですね! たくさんの猫さんが一緒に遊んでくれる場所なんて、国中を探してもありませんよ!」
「ふむ。なかなか奇抜な商売だな」
ラーナも感心した様子で頷いている。
「注目を集めそうではあるが、猫たちが乗り気になってくれるかどうか……ん、そうか」
猫たちに何か言われたのか、ラーナが頷く。
「食事を豪華にして、我々の使っているようなふかふかの寝床を用意すればやってやる、と言っているぞ」
「はは、了解です。それくらいならお安い御用と伝えてください」
フィンの言葉を、ラーナが猫たちに伝える。
猫たちは「やった!」といった表情で、にゃんにゃんと喜びの声を上げた。
こうして見てみると、猫も人間のように表情豊かだ。
「では、僕は設計図を取ってきますね。ラーナさん、この場は任せてもいいですか?」
「ああ、いいぞ。あっ、こらこら、あんまり物を運んでいる人の足元をうろつくんじゃない。危ないだろうが」
上機嫌になった猫たちが荷物を運び込むゴーガンや息子夫婦にまでまとわりつくのを見て、ラーナが注意する。
フィンは猫たちの明るい鳴き声を聞きながら、設計図を取りに領主邸に戻るのだった。




