第40話 当然のようにありました
数時間後。
フィンとオーランドは、以前フィンがエンゲリウムホイスト村で転落事故を起こした崖の下へとやって来ていた。
「……うむ、あるぞ。たんまりある」
「たんまりですか」
「ああ、たんまりだ」
オーランドがそう言いながら、少し離れた場所にある廃坑を指差した。
それは、大昔にエンゲリウム鉱石が採掘されていた廃坑だ。
「あの廃坑の地下30メートル付近に、まとまったエンゲリウム鉱石の鉱床がある。あと、今俺たちがいる辺りの1メートルくらい下にも、ほんの少しだがあるな」
「えっ、この真下ですか?」
フィンが足元を見る。
たった1メートル下にエンゲリウム鉱石があるとは驚きだ。
「おそらく、大昔に掘った際に台車か何かから零れ落ちたものだろう。小石程度の大きさの鉱石が、ぽつぽつある」
「すごいですね。そこまで詳細にわかるんですか」
「A+だからな。正直、この祝福は王家が持っている天候操作に匹敵するくらい有能だと思うぞ」
「確かにそうですね……。1メートルくらいならすぐに掘れそうですし、村に戻ったら道具を持って掘りにきましょうか」
「ああ、すぐに掘ってみよう。俺も興味があるしな」
小粒とはいえエンゲリウム鉱石が見つかったとなれば、今でも採掘できる決定的な証拠として大いに役立つだろう。
実際にどのように燃えるのか、今後の使い道を示す貴重なサンプルにもなるはずだ。
「それと、兄さん。この辺りに鉄鉱石と蝋石はありませんか?」
「ん、ちょっと待ってろ」
オーランドの体が明るい緑色に輝いた次の瞬間、弾けるようにして周囲に広がっていく。
何度見ても綺麗だな、とフィンはそれを見ながらぼんやりと思った。
「うむ。蝋石はあっちの山の中に、鉄鉱石はあっちだな。精鉄事業も始めるつもりか?」
オーランドが資源の在処を指差し、フィンに聞く。
「ええ。鍛冶職人のゴーガンさんたちが村に来てくれることになりましたし、鉄もここで作れれば便利かなって。鉄道を敷くにしても、大量の鉄が必要になりますから」
「そうか。まあ、鉄インゴットの納入については隣の領地と話もついているから、鉄鉱石の採掘はそこまで焦らなくてもいいと思うぞ。ライサンドロス経由で、定期的に村には送るつもりだからな」
「ありがとうございます。お金は追々返しますから」
「金なんかいらん。フィンのおかげで、おつりが来るくらいに十分稼げているからな。お前は何も心配するな」
オーランドは苦笑してそう言うと、さて、と村がある方向へと顔を向けた。
「先ほど祝福を使った時に、少し気になるものを見つけたんだ。今からそこへ行ってみようか」
「気になるもの、ですか?」
小首を傾げるフィンに、オーランドが頷く。
「うむ。栄養豊富な土が大量にあるようだ。きっと、果物とかの作物栽培に役立つぞ」
「それはありがたいですね! 行きましょう!」
オーランドが先導するかたちで、二人は山道へと入って行くのだった。
* * *
しばらく山の中を歩くと、二人の前にさらさらと流れる綺麗な小川が現れた。
「この川沿いを下った先だ。広い池のような場所だと思う」
「池ですか。ということは、いつも僕らが魚を採っている場所かな……」
「いつもということは、村には漁業もあるのか?」
「まあ、そこまで大それたものじゃないですけどね。網で罠を仕掛けて、何日かに1回魚を捕っているんです。あと、最近は生け簀も作ったんですよ」
この3カ月の間に、フィンたちは村の中だけではなく、森や池も少しずつ開発を進めていた。
獣道のようになってしまっていた森の道を綺麗に整備し直し、池の脇にはモルタルで囲った生け簀を作って、エヴァの祝福で浄化した綺麗な水を張って魚やカニを泳がせている。
水を綺麗にしたおかげで、生け簀に何日か放っておくと泥臭さが抜けて、味が良くなるのだ。
将来的には、観光で訪れた人々に釣り体験や魚の掴み捕り体験をしてもらおうともフィンは考えていた。
ちなみに、モルタルはフィンが転落した場所で見つけた大量の石灰を用いて、フィンたちが手作りしたものだ。
モルタルについては貴族学校の授業で取り上げられたことがあったので、多少試行錯誤したが使えるものを作ることができた。
「今夜は魚料理も出す予定ですから、期待しててください。びっくりするくらい美味しいですよ」
「そうか。野菜だけでなく魚も捕れるのなら、食事でレイニー様にご苦労を強いることも少なくなりそうだな。確か、イノシシも捕れるのだろう?」
「ええ、この辺はイノシシが多いですからね。兄さんから貰った牛とかヤギもいますし、食べ物に関しては安泰ですね」
そうしてしばらく歩き、二人は池へと到着した。
たくさんの倒木が沈む広々とした静かな池を前にし、オーランドが「ほう」と声を漏らした。
「ずいぶんと大きな池じゃないか。魚も多そうだな」
「ええ、たくさんいますよ。ナマズもいますね」
「なるほどな。で、これがさっき言っていた生け簀か」
池の傍らに作られた生け簀を、オーランドが覗き込む。
透き通った生け簀の中にはたくさんの魚が泳いでおり、小さなカニも底を歩いていた。
池の底はモルタルで固められており、泥が混じって濁ってしまうということはない。
それでも徐々に水は汚れてきてしまうので、エヴァが時折やってきては、祝福を使って水を浄化していた。
「うむ、これは便利そうだな。新鮮な魚をいつでも捕れるのなら、村の食糧事情も安定しそうだ」
「将来的には生け簀をもっと増やして、魚を養殖できればと思っているんです。漁に頼ってると、そのうち魚が枯渇しちゃったり、天気が悪いと捕れなかったりしますから」
「なるほど、それはいい考えだな」
二人が話していると、背後から人が歩く音と話し声が響いてきた。
フィンたちが振り返ると、道の向こうからエヴァとスノウが歩いて来ていた。
「あ、フィン様! ちょうどよかったです!」
エヴァがフィンを見つけ、ぱっと笑顔になる。
「さっき、村にウィーロットと名乗る人たちが来て、フィン様に会いたがってるんですよ」
「ウィーロット?」
聞き覚えのある名に、フィンが小首を傾げる。
「前に、ライサンドロスの屋敷で会った兄妹だ。この間説明しただろ」
オーランドに言われ、フィンが「ああ!」と手を打つ。
ウィーロット兄妹は3カ月前に自身の祝福を売り込みにオーランドの下へと訪れていたのだが、当時はあまりにも屋敷を訪ねてくる者が多く対応しきれなかったので、その時は帰ってもらっていたのだ。
その後、オーランドが改めて2人を招いて話を聞き、祝福の内容を聞いてフィンに教えていた。
フィンは「これは使える祝福だ!」と判断し、村に招くことをオーランドに手紙で伝え、兄妹にもその旨を連絡しておいてもらったのだった。
「引っ越しの用意ができ次第、村に直接出向くと言っていたからな。連絡したのはつい先月なんだが、こんなに早く来るとは思わなかった」
オーランドが言うと、スノウがくすっと笑った。
「ふふ。2人とも、フィン様に会うのが待ちきれない様子でしたよ。早く行ってあげてくださいね」
「分かりました。兄さん、行きましょう」
「うむ」
そうして、フィンたちは足早に村へと戻るのだった。




