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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第2部
34/61

第34話 よろしくお願いします

 翌日の夕暮れ時。

 すでに日は落ちかけており、辺りはだいぶ薄暗くなっていた。

 大急ぎでレイニーを歓待する準備を整えたフィンたちは、街の人々とともに街の入り口に集まっていた。

 入口の門には『レイニー王女様、ライサンドロスへようこそ!』と書かれた垂れ幕がかけられている。

 レイニーが通る予定の道には、街中からかき集められた花々が設置され、有志を募って編成された音楽隊も配置済みだ。

 皆が、今か今かとレイニーの到着を待ちわびていた。

 レイニーたちをライサンダー家まで先導するため、傍にはフィンたちが乗るための馬車も用意されていた。


「はあ、なんとか間に合ったね」


 やれやれといった様子で、フィンが隣に立つメリルに疲れたように笑う。

 

「ほんとよね。街の人たちもすごく頑張ってくれて、立派なお出迎えができそう」


「フィン、あまり緊張しすぎないようにね。街の人たちも見てるんだから、堂々とお出迎えするのよ」


 フィブリナが小声でフィンに囁く。


「うん。前にも一度お会いしてるし、大丈夫だよ」


「メリルも、失礼のないようにね。お淑やかにしてるのよ?」


「わかってるって。黙ってにこにこしてればいいんでしょ?」


「おっ、来たみたいだぞ」


 フィンたちが話していると、遥か彼方から駆けてくる騎兵の姿を見つけたオーランドが言った。

 騎兵は一直線にフィンたちのもとへと駆け寄ると、急停止した。

 紫色の長い髪を一本結びにした、若い女騎士だ。


「フィン・ライサンダー殿、オーランド・ライサンダー殿はおられるか?」


「私がフィン・ライサンダーです」


「オーランド・ライサンダーです」


 フィンとオーランドが、騎士に深々と頭を下げる。


「私はレイニー様の護衛騎士、ラーナ・ハンルだ。以後、よろしく頼む」


 ラーナは馬上で自己紹介すると、辺りを見渡した。

 準備万端で待っている人々を見て、よし、と頷く。


「間もなく、レイニー様がご到着になられる。くれぐれも、失礼のないように。領民たちをレイニー様の馬車に近づけないように注意を払ってくれ」


「かしこまりました。レイニー様はご到着後、すぐに当家へおいでになられるのでしょうか?」


 オーランドがラーナに言うと、彼女はすぐに頷いた。


「その予定だ。食事をかなり楽しみにしておられるのだが、準備はできているか?」


「はい。当家の料理人が腕によりをかけて、ご用意させていただきました」


「うむ。では、私は一度、レイニー様のもとへ戻る。しばらく待っていてくれ」


 ラーナはそう言うと手綱を握り、街の外へと駆け出して行く。


「女性の騎士様なんて初めて見た……あの、カーライルさん」


 フィンがカーライルを振り返る。


「今の騎士様、ハンルって名乗ってましたけど、もしかして……」


「ええ、私の妹です。レイニー様の護衛騎士として、幼少の頃から傍に付いているんです」


「やっぱりご家族でしたか。でも、彼女は幼少の頃から騎士だったんですか?」


「いえ、そういうわけでは。遊び相手として、城に住まわせられていたんです」


「遊び相手、ですか」


「ええ。ラーナは祝福のせいか動物に好かれる体質で、たくさん動物が集まってくるんです。レイニー様に、そこを気に入られたようでして」


「えっ、動物に好かれる祝福ですか?」


「はい。後ほど、詳しくお話させていただきますね」


 カーライルはいったん話を切り上げると、領民たちの前に歩み出た。


「間もなくレイニー様がご到着になられる! 音楽隊は、演奏を開始しろ!」


 カーライルの呼びかけに応じ、音楽隊が楽器を奏で始めた。

 太鼓とトランペットが中心の、小気味いい音楽が街に響き渡る。


「ええと、まずは僕がレイニー様に話しかけるのでいいんですよね?」


 フィンが緊張した様子で、オーランドに言う。


「うむ。レイニー様はフィンに会うのをとても楽しみにしているとのことだからな。極力、傍にいるようにしてくれ」


「わかりました」


 そうしてしばらく待っていると、街道の向こうに大勢の騎士の姿が現れた。

 それに守られるようにして、豪奢な馬車がこちらに向かってくる。


「おっ、来たぞ……ん? あれは……」


 ドレスに身を包んだレイニーが馬車の窓から身を乗り出すようにして、満面の笑みで大きく手を振っているのが遠目に見えた。

 馬で並走しているラーナが窘めている様子なのだが、レイニーはおかまいなしだ。


「すっごく嬉しそう……」


「笑顔が弾けてるわね……」


 嬉しそうなレイニーの姿に、メリルとフィブリナがぽつりと言う。

 オーランドが片手を上げて人々に合図をすると、皆がレイニーの名を呼んで歓声を上げ始めた。

 王家の旗とライサンダー家の大旗を持った幾人もの領民たちが、ばっさばっさと旗を振って歓迎をアピールする。


「フィン様ー!」


 馬車が近づいてくると、レイニーの明るい声がフィンたちの耳に届いた。

 レイニーが指示を出したのか、ゆっくりと進んでいた一団が足を速める。

 そうしてすぐに、一団は街の門へと到達した。


「フィン様、お久しぶりです!」


 レイニーは待ちきれないといった様子で、馬車が止まると同時に扉を開けて地面に降り立った。

 彼女に続き、以前王都の城で会ったミレイユという名の侍女も馬車を降りた。

 小走りでフィンたちのもとへと駆け寄るレイニーに、ラーナをはじめとした騎士たちが慌てて馬から降りて付き添う。

 フィンたちは、レイニーに深々と頭を下げた。


「レイニー様、ようこそ我がライサンドロスへ。長旅、お疲れ様でした」


「あっ、いえいえ! 皆さんこそ、こんなに盛大に出迎えてくださって、ありがとうございます!」


 フィンの言葉に、レイニーがにこりと微笑む。

 そして、キラキラとした目で街並みを見渡した。

 人々はいまだに、レイニーへ大歓声を上げている。


「私、王都から出るのは初めてなんです。ライサンドロスって王都みたいにごちゃごちゃしていなくて、すごく綺麗なところなんですね」


「ありがとうございます。この街には王都のように風車がありませんので、そのせいかと」


「あ、なるほど! 確かに、風車が1つもないですね。それで街並みがすっきりして見えるんですね」


 ふむふむ、とレイニーが納得して頷く。


「フィン様。私、この街を見て回ってみたいです。案内をお願いできませんか?」


「レイニー様」


 レイニーの後ろで静かに控えていたミレイユが、レイニーに声をかけた。


「本日はもう暗くなってしまいましたので、街の見学は明日にすべきかと。ライサンダー家の方々に、まだ挨拶もしておりませんし」


「あ、それもそうですね。お腹も空いちゃってるし、先に夕食がいいですね」


 レイニーがお腹に両手を当て、えへへと笑う。

 ミレイユはレイニーの隣に来ると、フィンに顔を向けた。


「フィン様、私はレイニー様付きの侍女、ミレイユと申します」


「フィン・ライサンダーです。以前は王都でお世話になりました」


 フィンがぺこりと頭を下げる。

 それに応じて、ミレイユも腰を斜め四十五度に折って完璧な会釈をした。


「その節はありがとうございました。これからレイニー様のお世話係として、エンゲリウムホイスト村に住まわせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 ミレイユがそう言って、右手を差し出す。

 フィンは一瞬何のことかときょとんとしたが、それが握手を求めているものだと気づき、慌てて右手を差し出した。

 柔らかなミレイユの手がフィンの手を数秒握り、すっと離される。

 オーランドやメリルたちは、場違いな挨拶の仕方にきょとんとした顔になっていた。


「ふふ。ミレイユちゃん、握手が大好きなんですよ。ちょっと変わってますよね」


 皆の様子に、レイニーがくすくすと笑う。

 そんな彼女に、ミレイユが少し顔を向けて微笑んだ。


「はい。挨拶する時は握手をしないと、どうしても落ち着きません。オーランド様、よろしくお願いいたします」


「あ、ああ。よろしく」


 ミレイユが困惑顔のオーランドと握手を交わす。

 続けてミレイユは、メリル、フィブリナ、そしてカーライルとも握手を交わした。

 全員と挨拶を終え、ミレイユがレイニーに振り向く。


「それでは、レイニー様。馬車にお戻りください。ライサンダー家へ向かいましょう」


「はい!」


 レイニーがラーナの手を借りて、馬車に乗り込む。 


「フィン様、オーランド様。ライサンダー家までの先導のほど、よろしくお願いいたします」


 ミレイユは深々と頭を下げると、レイニーの乗る馬車へ乗り込んでいった。


「えっと……兄さん、行こっか?」


「あ、ああ。そうだな」


「……姉さん、あの侍女さん、変わった人だね」


「まあ、丁寧に挨拶するのは悪いことじゃないし……」


 フィンたちは妙な雰囲気になりつつも、自分たちの馬車に乗り込んだのだった。

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[一言] 握手して暗器持って無いか確認してるのか?
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