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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第1部
24/61

第24話 王都からの呼び出し

 ある日の昼過ぎ。

 午前中で周辺散策を切り上げたフィンとハミュンは、いつものように領主邸の前のベンチで地図を描いていた。

 村の周囲は粗方探索を終えており、これ以上の範囲となると泊りがけでの探索となるだろう。


「はえー。こうしてみると、村の周りって資源だらけだったんですね。粘土に石灰に苔に砂利、どれも取り放題です」


 地図に点々と記された資源の印に、ハミュンはご満悦の様子だ。

 これらすべてがお金になる、とフィンに聞かされていたからだ。

 もちろん、輸送の問題が解決すればの話だが。


「だね。でも、まずはライサンドロスまでの道を整備して、荷馬車が早く行き来できるようにしないと」


「フィン様、鉄道っ! 鉄道を先に作るべきですよっ!」


 ハミュンがいつものように、フィンに訴える。

 ハミュンは鉄道を何よりも優先したいようで、ことあるごとに話題に挙げていた。

 村の周辺を探索するたびにあれこれ聞いてくるので、鉄道の役割や駅という存在の経済効果などをフィンは話して聞かせていた。

 そのたびにハミュンは「早く作りたいですね!」とわくわくした表情を見せていた。


「鉄道さえあれば、人も物も運び放題ですもんね。今からでも、鉄道を作るために何かできることはないんですか?」


「そうだね……。大量の鉄が必要になるだろうから、それを仕入れるための資金が必要だね。鍛冶場も必要だし、金属加工の祝福を持ってる人にも来てもらわないと。それに、道も切り開かないといけないから、そのための人員もたくさん必要だよ」


「うーん……やっぱり、すごく時間がかかりそうです……」


 しゅんとした様子でハミュンがつぶやく。

 フィンは苦笑し、彼女の頭をよしよしと撫でた。


「大丈夫。必ず鉄道は作るからさ。オーランド兄さんには目星をつけた祝福を持ってる貴族に声をかけて欲しいって手紙を送ってあるし、人員さえ集まればきっと上手くいくよ」


「フィン様……! はい、そうですね!」


 そうしていると、メリルとフィブリナが昼食を載せたトレーを手にやってきた。


「ちょっと、なーにいちゃついてんのよ」


「あらあら、仲がよろしいこと」


「えっ、い、いちゃついてるだなんて! あわわ……」


「ハミュン、からかわれてるんだって……」


 途端に顔を真っ赤にして慌てふためくハミュンに、皆が笑う。


「ほら、お昼にしましょ。午後からは、炭窯作りをするんでしょ? たくさん食べて、元気つけておかなきゃ」


「うん、そうだね。お、ローストポークだ! 肉なんて久しぶりだなぁ」


 皿に盛られたローストポークに、フィンが嬉しそうな顔になる。

 この肉は、昨日森で捕獲したイノシシのものだ。

 森の中の普段人が立ち入らない場所に塩を撒いておき、その下に重りで作動する網罠を設置しておいた。

 設置から5日ほどかかったが、見事大きなイノシシを1頭捕獲することに成功したのだ。

 ちなみに、止めを刺して解体したのは村の男衆である。

 今日のメニューは、ローストポークと灰焼きパンだ。


「ふふ、お肉はメリルが焼いたのよ。私は横から少しアドバイスしただけ」


「えっ、そうなんだ。さすがメリル、本当に何でもできるよね」


 見事な焼き色のローストポークに、フィンが手放しでメリルを褒める。

 メリルは家事全般が得意で、料理もかなり上手だ。

 寮暮らしの時は、学園の方針で身の回りのことは自分でやらなければならなかった。

 メリルはフィンの部屋を訪れては、部屋の掃除や衣類のひのし(鉄の鍋に焼けた炭を入れて使うアイロン)がけが甘いと言っては毎回やり直してくれていた。

 食事も休日は自炊か外食をしなければならないのだが、ほぼ毎食彼女がフィンの分も用意してくれていた。


「フィンが何もできなすぎなのよ。私がいないと、ほんっとうにダメダメなんだから」


「い、いや、それは昔の話だよ。今は料理だってできるようになったし」


「えっ、そうなの? もしかして、前世でやったことがあるとか?」


「うん。ずっと一人暮らしだったからさ、自分のことは自分でやってたよ。料理も洗濯も……って、料理以外はどれも機械頼りだったから、あんまり上手にはできないか」


「ふーん……。フィンって、前世では結婚してたの?」


「いや、独身だったよ。死んだときは、彼女もいなかったなぁ」


「お付き合いしてたことはあるんですか?」


 興味津々、といった様子で、ハミュンが聞く。


「うん。学生時代から付き合ってた子はいたけど、僕が仕事にかまけすぎて見限られちゃったんだ。そういえば、死んだのも別れた直後だったなぁ」


「むっ。その人、見る目がありませんね! フィン様を振るなんて、どうかしてますよ!」


「はは、僕が悪かったんだよ。会う約束をしても、仕事が入ってデートが中止ってことが何度もあったしさ」


「でもでも、フィン様みたいな真面目で優しい方を振るなんておかしいです! 最低最悪ですよ!」


「まあまあ、ハミュンちゃん、その辺にしておきなさい。ほら、温かいうちに食べましょう?」


 フィブリナが苦笑してハミュンに肉とパンの載った皿を差し出す。

 ハミュンは納得していない様子だったが、皿に盛られた肉を見てすぐに表情を綻ばせた。


「わあ、いい香りですね!」


「でしょう? スノウさんから分けてもらったハーブをたっぷり使ったの。ね、メリル?」


「え? あ、うん……」


「どうかしたの?」


「ううん、何でも――」


「フィン様ー! 王家の使いの方がみえられましたー!」


 メリルが口を開きかけた時、村の入口の方から娘が1人駆けてきた。

 後ろには、立派な金属鎧姿の数人の騎士を連れている。

 マントには、オーガスタ王家の家紋が大きく刺繍されていた。


「フィン・ライサンダーは誰か?」


「僕がフィンです」


 若い男の騎士の呼びかけに、フィンが慌てて立ち上がる。

 フィンが駆け寄ると、騎士は右手を差し出した。


「王国騎士団、近衛騎士のカーライル・ハンルだ」


「ライサンダー家が三男、フィン・ライサンダーです。よろしくお願いします」


 少し緊張しながら、フィンも右手を差し出す。

 近衛騎士というのは、王家に古くから使える血筋の者だ。

 そんな人間を使いに寄こすというのは、かなりの大事である。。

 カーライルは握手をすると、一枚の丸められた書状をフィンに差し出した。


「王家から召喚命令が出ている。今日より8日後の夕刻に、家長のオーランド殿とともに王城へ出向くように」


 差し出された書状を受け取って開くと、王城へ出向く日時、礼金と支度金の金額、宿泊する場所と召喚理由が記されていた。

 召喚理由は『フィンの祝福についての聞き取り兼雑談』となっている。


「えっと、宿泊場所が王城となっているのですが……。それに、雑談とは?」


「陛下が、貴君らと食事の席を共にしたいとおっしゃられているのだ。私も詳しくは知らないが、フィン殿の祝福について話を聞きたいとのことだ」


「え!?」


 あまりのことに、フィンを含めその場にいた全員がぎょっとした顔になった。

 王族と食事をする機会など、フィンのような中流貴族には絶対にないことだ。

 フィンの祝福を考えればありえなくもない話ではあるのだが、それでも王族と中流貴族が会食するなど前代未聞である。


「それと、我らはこのままフィン殿を王都まで護衛することになっている。よろしく頼む」


「わ、わかりました。あの、すぐに出発しないといけないんでしょうか?」


「ああ。本来ならば我々ももっと早く着けるはずだったんだが、なにぶん山道が予想以上に険しくて遅れてしまってな……」


 やれやれ、とカーライルがため息をつく。

 彼らはライサンドロスを経由して村までやってきたのだが、あまりにも山道が荒れ放題だったため、想定よりも時間を食ってしまったのだ。

 普段、こんな山奥に来ることなどはまずないので、非常につらい行軍だった。


「すぐに出発しなければ、天候によっては間に合わなくなってしまうかもしれないんだ。すまないが、すぐに用意をしてもらえると助かる。オーランド氏も、フィン殿の到着を待っているしな」


「わかりました。メリル、悪いんだけど――」


「「あ、あの!」」


 言いかけたフィンに、メリルとハミュンの声が重なる。


「あ、メリル様、お先にどうぞ」


「う、うん。……あの、私も同行させてもらうことはできないでしょうか?」


「移動に支障が出ない人数なら構わないぞ。付き添い人も王城での滞在許可はでるはずだ。必要なら、使用人も何人か連れて行って構わない」


「あ、ありがとうございます!」


「え、メリル、いいの? すごい長旅になると思うけど……」


「いいのいいの。ていうか、あなたを一人で行かせるなんて、いくらなんでも危なすぎるわ」


「いや、あの、僕も一応大人なんだけど……。でも、ありがとう。嬉しいよ」


「う、うん」


 メリルが少し顔を赤くする。


「姉さん、私、フィンと一緒に行ってくるね。その間、村のことお願いできる?」


「ええ、わかったわ。こっちのことは気にしないで、気を付けて行ってらっしゃい」


「ありがとう。私、用意してくるね!」


 メリルが家の中に駆け込んでいく。

 すると、ハミュンがフィンの袖を引っ張った。


「フィン様、私も連れて行ってください!」


 縋るような目を向けてくるハミュンに、フィンはすぐに頷いた。


「もちろんいいよ。王都、見てみたいんでしょ?」


「は、はい! えっと……きっと、この村を発展させる参考になると思って……」


「そうだね。じゃあ、あっちで用事が済んだら、街を見て回ろうか。案内するよ」


「ありがとうございます!」


 こうして、急遽フィンたちは王都へと向かうことになったのだった。

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