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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第1部
19/61

第19話 資源の上手な活用法

「で、では、始めます」


 目の前に広がる大きな池に向かって、エヴァが両手を向ける。

 ハミュンに案内されてやってきた池は、たくさんの倒木が沈む沼のような雰囲気の池だった。

 水は透き通ってはおらず、やや濁っている。


「エヴァ、控えめにやるのよ? 最初は加減が分からなくなるらしいから」


「控えめって言われても、よく分からないんだけど……」


「ほんの少しだけ祝福を使うようにすればいいのよ。なるべく弱くかけて、それから少しずつ強くしていけばいいから」


「うーん……」


 エヴァが眉間に皺を寄せながら唸る。


「じゃ、じゃあ、足元のこの辺だけやってみるね」


 エヴァが足元の水べりに手をかざす。

 その途端、その部分の水がうっすらと青く光り輝いた。


「わわっ!? な、なんですかこれ!?」


 エヴァが慌てた様子で祝福を止める。

 青白く光っていた部分だけ濁りが取り除かれて、美しく透き通っていた。


「うお、こりゃすげえな。濁りが取れてるってことは、水の中を漂ってるゴミが取り除かれてるのか?」


 ロッサがその場にしゃがみ、しげしげと水を眺める。

 しばらくすると透き通っている部分に周囲の濁りがじわじわと侵食してきて、元の濁った水に戻ってしまった。

 ロッサの隣に、フィンもしゃがみ込む。


「そうみたいだね……なるほど、ろ過したみたいに水が透き通るのか」


 フィンがエヴァに顔を向ける。


「エヴァさん、強化する前の祝福も、同じような効果だったんですか?」


「は、はい。ただ、小さな水瓶の水を綺麗にするのにも、半日くらい祝福をかけ続けるのを2日連続でやらないといけないくらいでした」


「そんなに時間がかかったんですね。用途は、お茶を淹れる水として使うためですか?」


「はい。私が綺麗にした水を母の『水の浄化』で飲み水にもっとも適したものにして、さらに父の『水の硬度変化』で淹れるお茶に適したものに変質させるんです」


「なるほど、家族全員で水を作る感じなんですね。エヴァさんがこっちに出てきちゃって、大丈夫なんですか?」


「私の祝福は別になくても、綺麗な水をどこからか持ってくれば事足りるので。父も母も、いい機会だから行ってこいって言ってくれました」


「そうでしたか。後で親御さんにもお礼を言わないとだ」


「フィン様、池全体にエヴァ様に祝福をかけてもらっちゃいましょうよ!」


 キラキラとした瞳でフィンたちの話を聞いていたハミュンが声を上げる。


「この池全体を、さっきみたいに透き通ったものにしちゃうんです! きっと、すっごく綺麗になりますよ!」


「……いや、それはちょっとやめたほうがいいかもしれないよ。やるにしても、やりすぎないように注意しないと」


「えっ、どうしてですか?」


 フィンの言い分に、ハミュンをはじめとした皆が怪訝な顔になる。


「ここって、カニとか魚がいっぱい住んでるんだよね?」


「はい、たくさん住んでます。ナマズもいますよ」


「そういった生き物ってさ、こういうふうに濁ってないと隠れる場所がなくなっちゃうんだよ。水面の藻とか、水中を漂ってるちっちゃな虫を食べたりもしてるし。エヴァさんの祝福を使うと、そういう物までなくなっちゃうみたいだからさ」


「ええと……完全に水を綺麗にしちゃうと、今住んでる魚とかカニが生きていけなくなっちゃうってこと?」


 小首を傾げるメリルに、フィンが頷く。


「うん、そうなるかもしれない。だから、やるにしても一気にじゃなくて、少しずつやったほうがいいかなって」


「そっか、魚やカニが捕れなったら困るもんね。何でも綺麗にすればいいってわけじゃないのね」


「この池もそうだけど、川も森も、全部が大切な資源だからさ。今あるもので有用なものは、なるべく残しながら発展させていけたらなって」


「そうですか……綺麗な池で泳げたらって思ったんですけど、魚が捕れなくなるのは確かに困りますね……はあ」


 ハミュンが酷く残念そうに言う。

 この村の場合、身体を洗うのは、湯につけたタオルで体を拭いたり、川で行水をするといった程度なのだ。

 この池が泳げるほどに綺麗になれば、と思うのは当然だろう。


「フィン、川の水をどこか別の場所にも引いて、泳げるような池を作ればいいんじゃないかしら」


「フィブリナ様! それはいい考えですねっ!」


 それだ! と言わんばかりに、ハミュンが瞳を輝かせる。


「フィン様、そうしましょうよ! 村の近くに、泳げるくらい綺麗な池を作るんです! 絶対に村には必要ですよっ!」


 鼻息荒く言うハミュンに、フィンが苦笑する。


「うん、そうだね。池もそうだけど、お風呂も早いとこ作らないとね」


「お、おおお風呂ですか!? お風呂を作っていただけるんですかっ!?」


 勢い込んで言うハミュン。

 ライサンダー家で初めてお風呂を体験してからというもの、ハミュンはその気持ちよさが頭を離れずにいた。

 とはいえ、大量の薪を消費し、お湯を沸かさなければならない風呂はかなりのぜいたく品である。

 なんとか村にも作って欲しいとは思っていたが、さすがに気がとがめて言い出せずにいたのだ。


「もちろん。僕もお風呂には入りたいし、作らないとって思ってたんだ。ハミュンもお風呂、入りたいでしょ?」


「入りたいですっ!!」


「私も入りたいわ。お湯に浸からないと、なんだかすっきりしなくて」


「私も私も! この際、何日かに1回とかでもいいからお湯に浸かりたいよ。フィンの家みたいに立派なお風呂じゃなくてもいいからさ」


 ハミュンだけでなく、フィブリナとメリルも賛成とばかりに声を上げる。

 スノウとエヴァも、お風呂と聞いて顔を見合わせている。

 彼女たちの家にはサウナ風呂はあるが、湯に浸かる風呂はなかったのだ。


「だよね。とりあえず、サウナ風呂だけでも作っちゃおうか。わりと簡単に作れると思うしさ。お湯を沸かすための道具は、お金ができたらすぐにライサンドロスの鍛冶屋に発注しよう」


「ああ、それなら、俺が街に戻ったら先に発注しといてやるよ。金はまあ……兄貴から借りれば大丈夫だろ」


 軽く言うロッサに、フィンが心配そうな顔を向ける。


「えっ、でも、家にそんなお金あるの? まだ石炭だって掘れてないだろうしさ」


「大丈夫だって。そんな、まるっきり金がないってわけでもないからさ。大釜の1つや2つくらい平気平気」


 この世界において、風呂の湯を沸かすのには大釜を用いている。

 浴槽のある風呂場の隣に湯沸かし用の部屋を置き、そこに置いた釜で沸かした湯を浴室へつながる小窓から流し込むのだ。

 ちなみに、王都のような発展している街以外で風呂がない理由の1つに排水問題が挙げられる。

 風呂で使った湯をきちんと排水でき、不衛生にならないように街なかの水路を整備できなければ風呂は作れないのだ。


「ならいいけど……じゃあ、ついでに水車も発注してもらえる? 王都の工房に頼まないといけないと思うけど」


「ああ、そうだな……って、水車なんてでかいもの、運ぶのはかなり大変だな。王都からも距離はかなりあるし、しばらく時間がかかると思うぞ」


「それは仕方ないよ。それに水車がないと、いちいち川まで水を汲みに行かないといけないしさ」


「そりゃそうだけどよ……水車は少し値が張るから、場合によっちゃ後回しになるぞ。輸送にもけっこう金がかかると思うし」


「うん、それは大丈夫。とりあえず大釜だけあればいいよ。水車は、もし可能ならって程度で考えておいて」


「……ス、スノウちゃん、なんかすごい話をしてるね」


 あれやこれやと話しているフィンたちを見て、エヴァがスノウに小声で話しかける。


「そうね……投資に躊躇がないっていうか、この先の資金繰りにすごく自信がある感じよね」


「これってさ、フィン様が言ってたみたいにこの村がものすごく発展できたら、私たちも大貴族になれるのかなっ?」


「んー……そうなるかもしれないわね。でも私たちの存在意義って、フィン様の祝福があってこそよ? あんまり楽観的になって、祝福だけ使ってればいいっていうふうには考えないことね」


 なにやら含みのある言いかたをするスノウ。


「え? どういうこと?」


「もし同じ祝福を持っている人が見つかって、私たちより祝福以外の立ち回りが有能だったら? 用済みだって暇を出されないように、祝福を使うだけじゃなくて他のお仕事も頑張るようにしておいたほうがいいわ」


「う……そ、そうだね! チャンスを逃さないように頑張らないとだね!」


「ふふ、その意気よ。頑張りましょう」


 そうしてしばらく池を眺めながら、フィンたちは今後の構想をあれこれと話し合うのだった。

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