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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
VS 魔族編
99/160

98話 犯人は!

 お風呂から上がり、私達の前で堂々と着替えたハーン父は、名をファルグ・ハーンと言った。

 魔王かどうかはともかく、魔族であることには間違いないらしい。


「魔族の特徴は目だな。色が赤か紫で出るのが魔族だ。まれに人間の中に赤い瞳の者が出るが、あれは先祖返りが多い。どこかに魔族の血が入った者達だ。まぁ、赤い目というのはそれほど強い魔族では無いので気にする必要はない。中には特殊な能力を持つ者もいるが」


『じゃあ、紫は?』


 ハーンの目も紫だし、塔で会った魔族も紫だった。


「生粋の魔族だ。血が濃く魔力も多い。うちの息子は内包型でどうも魔力には疎くてな、鍛えるために砂漠に放り込んだのだが…未来で無事なら生きてるだろうよ」


 息子に対してなんてアバウトなライオン父か…。

 だが、私達が未来から来たこと、ハーンが息子であることを無条件で信じたらしい。そういう所はハーンに良く似ている。

 彼等に聞けば「勘だ」と答えるのだが、その勘がはずれることはめったにない。

 

 とりあえずこの場所だが、私達はどうやらどこかの岩山をくりぬいて作られたらしい魔族の隠れ住家に現れたようだ。


 そんな私はと言えば、どうも歩いているように見えて数センチ浮いていた。

 透けたり壁を抜けたりはせず感触もあるし実態に近いが、この体はシャナから抜け出た魂のようなもの…と思うことにした。

 早く元に戻らないとシャナが死んでしまうかもしれないので焦ってはいる。が、今はいかんともしがたい。


 そんな状態でファルグの後ろを歩きながら、現在微妙な気分であった。


 未来では交戦に入ろうという魔族。その住家(過去だが)で魔王…かどうかはさておき、そのリーダー的存在に案内されて客扱い受けるというのはありなのだろうか?


『ホントにハーンの父?』


 質問した相手、ハーンはシャナの体を抱っこしたまま頷く。


「ここは俺が昔育った場所だ。小さい頃に飛び出したがな。確か…」


 何やらワイワイガヤガヤと人の声が前方からする。

 魔族が住んでいるのならそれなりに人数がいると思っていたのだが、今まで風呂場で会った美女以外見ていなかったところを見ると、どうやら一か所に集まっていたらしい。


 あちこちの部屋に扉は無く、プライベートを分けるものはどうやらカーテンのような仕切りだけというのがこの住家の各部屋の特徴だ。

 カーテンのない所は共同の部屋。そして、私達が向かっている部屋もどうやらその共同の部屋らしく、カーテンの類は見えなかった。

が、他に見えたものがある…


「確か…筋肉質の男がかなりいたな…」


 ハーンが思い出したように呟く。

 そこにはきらっと輝く丸いフォルム。ギラリと輝く引き締まった肉体…部屋から漂う男臭…。


「魔王様! 今日は早いですな!」


 手を上げて満面の笑みを浮かべるのは、裸ではないががっちり筋肉の付いたハゲ男だ。


「あぁ、客人が落ちてきたからな。それよりお前達、いつにもまして暑苦しいな。何事だ?」


 部屋の入り口に立った私は、遂に遭遇してしまった!


『ムキムキハゲマッチョ軍団~!』

 

 まさに塔の記憶で見たようなムキムキのハゲマッチョ軍団が狭苦しい部屋で上半身を脱ぎ、一部はボディビルで筋肉を競い、一部は腕相撲で机を破壊していた。

 ほとんどの男達の目は紫色をしている。

 ハーンやファルグ程の深い紫はいないけれど。


「魔族は筋肉こそ美だとか言ったのは我が父でな。白の塔のセレンディアにそれで負けたというのに改善はされなかったのだ」


 そのエピソードを知っているということはやはり魔王…。口ぶりだとその息子ということになるけれど、それだとおかしいことがいくつかある。


『ここは魔族の大陸じゃあないよね?』


「ここは王都から遥か西にある砂漠の共和国の一つだ」


 答えたのはハーンだが、彼もやはり混乱している様子だ。

 まぁ、父親が魔王だとか、住んでいたところに魔族がごろごろとか…ありえない。


「ふむ、魔族の大陸とこの大陸は隔離されてるから私の存在が不思議か? だが、私はどちらも自由に行き来できるぞ」


 なんですとー!?

 そんな情報塔の誰も言わなかったし目撃情報もなかったのですけど!?


 あ、そこの自称魔王さん、どや顔されても困りますんで…


「とりあえず入れ、食事にしよう。お前達の情報も聞きたいからな」


 ファルグはそう言うと部屋の中、筋肉マッチョ達が空けた席を示した。


___________



 部屋ではいまだ筋肉大会と腕相撲大会が繰り広げられ騒がしいが、ここは食堂兼皆のコミュケーションの場なのだそうで、我慢することにした。

 私達は騒がしい中でとりあえずの事情をかいつまんで話すと、ファルグは一瞬眉根を寄せ、ひどく真剣な顔をした。


「…それは…。とりあえず、酌をしないか? サナよ」


『しません!』


 人が真面目に話をしていればこのおっさんは…

 睨むと、にやにやと笑みを返される。まるきり小動物でも愛でるような目だ。


「お前の妻は冷たいな」


 ファルグはハーンを見やってにやりと微笑み、ハーンは小さくため息をついた。


「あんたの妻も似たようなもんだろうが。それに俺はシャナを気に入っている」


 ハーンはそういうと、明らかにシャナとはかけ離れた平々凡々な私の頬を撫でる。

 私は思わずボンっと顔を赤くした。


 さすがにこの姿でそういったハーレム要素は皆無だと思っていたので油断したっ!


「お、赤くなったな」


 言わんでよろしい!


「シャナの時より初心だな」


 ハーンも追い打ちをかけるな!

 あぁ…穴があったら入りたい。


 やはりシャナの時と今の魂だけの時とでは微妙に性格が違うのだろうか…。

 これであはんやうふんなことになったら…。

 う・・ヨダレが垂れそうだ。

 やはり性格は同じか?


 一人顔を背けて悶々としていると、ファルグは椅子の上に寝かせていたシャナの体に近づき、抱き上げた。


「息子の妻か…。犯罪者だなロー?」


 思わず真顔でロリコンだとばかりに眉をしかめるのはやめてください。それは私の本当の姿ではありません。

 なんだか私がいろいろ追いつめられてる感がある。


 やっぱりこの姿だと良識がシャナの時より邪魔をするのかも…。

 まぁ、大人だし、36歳だし、何より大和撫子だし!

 

「それはともかく、体と魂が見事に離れたな。まぁ、もう一度転移でもすれば戻るだろう」


『そんなあっさり!?』


「魔法なんてそんなものだ。それから赤の塔の使い魔の暴走だがな、一人そう言う陰湿な事を仕掛ける奴を知っている。あいつにかかれば赤の塔の主の小癪さなど取るに足らんだろう」


 ファルグはそっとシャナの体を降ろす。

 過去に来てまさかの犯人確定!?


「誰のことだ?」


 ハーンが身を乗り出すと、ファルグはにやにや笑みを浮かべ、「それは…」と呟くと


「秘密だな」


とニマニマ笑みを浮かべた。


『なにその嫌がらせっ』


「嫌がらせではないぞ。過去のものが未来に関わるわけにはいかんというだけだ」


『それなら未来のモノが過去に関わるのはいいでしょう。誰?』

 

 無茶苦茶な言い分だが、過去が未来にというのが駄目なら未来が過去にならいいじゃないか。すでに起きたことなので未来では変えようがないのだし。

 私がバンッとテーブルを叩いて身を乗り出すと、ファルグはスッと私の心臓辺りを指さした。

 

『…何?』


 まさか私というのではあるまいな!? 私は正真正銘シャナの中身ですからね! そんな人様を操って大量殺人なんて真似しませんよっ!

 

 首を横に振ってハーンに目で訴えれば、ハーンは頷く。

 わかっていると言ってくれていることにほっとする。

 味方を付けてもう一度ファルグを見やれば、彼はにやりと笑みを浮かべた。


「私にサナが抱かれれば教えてやろうと言っているのだが?」


 寝言は寝て言え!


 私はこぶしを振り上げようとしてふと動きを止めた。

 そういうことならば…


『きっちり約束は守ってね』


 にんまりとほほ笑み、私は立ち上がるとファルグに抱き着いた。

 魂なのに感触があるのは面白いわ~。

 

「なかなか殊勝だな。もちろん約束は守ろう」

 

 言質はとった!

 そっと抱きしめられたので、私は顔を上げてにやりと微笑む。


『よしっ、今間違いなく抱かれたわよ! 約束守ってきっちりはいてもらいましょうか!』


 ぐっと腕に力を込めて離れ、私は宣言した。

 その瞬間、ファルグはぽかんとした表情で固まり、その様子に周りの男達がピタッと動きを止めた。


「は…」


 ファルグの表情は崩れ、彼は突然腰を折って笑い出す。


「ははははは! 何と初心な娘か! 気に入ったぞ! ローシェン、寄越せ!」


 初心は余計だ!


「やらん」


『誰がやるか!』


 私達の言葉にも受けたようで、ファルグはヒーヒー言いながら笑い続ける。

 その彼の姿に周りの筋肉魔族達はぽかんと口を開けてこちらを見ている。


「いいだろう! 犯人を教えてやる。それはな」


 私達は彼の言う答えに、目を見開き、そして呆然として呟いた。



『人間が…犯人?』


 


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