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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
VS 魔族編
97/160

96話 いざ、転移!

「ものすごく見るべきイベントを逃したような気がしましゅね~」


 お茶で人心地つきながら私はハーンの膝の上でくつろいだ。


 ハーンは貧血でぐったりの私が見つめるだけで求めるモノを察し、私を膝に乗せ、頬に、こめかみに、額に、唇に、沢山キスの雨を降らせて甘やかしてくれた。

 おかげで私は全回復し、現在絶好調だ。


 魔力ってきっとエロ心でできているのだと思う…。(そんなことはありません)


「魔族が白の塔を狙う理由・・?」


 ノルディークの使い魔クラウは、ハーンに尋ねられてしばし考え込む。

 魔族が白の塔に現れたことで、ひょっとしてこの塔には魔族の狙う何かがあるのではないかとハーンは考えたようだ。ゆえにクラウに質問してみたようなのだが、質問されたクラウは難しい顔で唸っている。

 

 私はハーンの膝から腹の上に登り、他の男達より筋肉質なお腹を堪能しつつ、頭の中で塔の知識を探ってみた。

 

「そのようなものはないですね」


 数十秒後にクラウが答えたように、塔の知識にもそのようなモノは出てこなかった。となると、残るのは今現在ここで共にお茶をしているクラウが狙いだったということもあるわけだ。

 だが、クラウが狙いって…ないでしょ~。


 ジト目でクラウを見つめると、彼は御茶()けのピーナッツを指ではじき、私の額に当てた。

 態度は初めの頃より軟化しているとはいえ、やはりこの男はノルディーク至上主義だ。こんな心の狭い男を捕えて魔族が何かするとは思えません!


「あ・・・ものはありませんが、彼等の狙いはもしかすると我が主かもしれない」


 ふと思いだしたというような表情で言うクラウに、私とハーンは首を傾げる。

 狙いはクラウじゃなく本命ど真ん中でノルディーク?


 首を傾げつつ、私の手はハーンの上着の前をくつろげて生肌を堪能する。


「ノルしゃんをいきなり狙うのは難しいでしゅ。それでもノルしゃん?」


 塔の主を一人でも倒せば魔族の侵入は簡単に行える。だが、そこで最も強いとされるノルディークを狙うのはおかしいだろう。魔族の被害が大きくなる。

 それでも理由があるのかとクラウを見やれば、彼はほんの少し爬虫類のような瞳孔を細めて懐かしむように告げた。


「主が塔の守護者になりたての頃、まだこの大陸はかろうじて魔族との交流があったのです」


 ふむふむ。私は頷きつつ、目の前の素敵筋肉のお腹にカプリと齧りつく。


「っ」


「その頃魔王ととある勝負をしたらしく、その上勝ったのだそうです。それを魔族が逆恨みして…て、聞いてるんですか?」


「むにゃはぅ?」


「聞いてるぞ」


 答える私は襲ったハーンに襲い返され、首筋にキスマークをつけられ、エロちっすをかまされて半分蕩けていた。

 さすがはエロボス。エロちっすが互角の戦いでありました。

 

 どうやら素敵筋肉に齧りついたことでハーンの野生に火をつけたせいで燃え上がったらしい。

 幸せだ。


「にゅふふふふ」


 悶えながらハーンのお腹にスリスリすると、ハーンは苦笑しながら私の頭を撫でてくれる。

 そんな様子を見つめ、クラウはため息を吐いた。


「まぁいいですが…。そういう経緯で魔王から逆恨み…はもう(・・)終わっていても、その部下から逆恨みを買っているかもしれないということはあるんです」


「魔族は基本実力主義だろう? 逆恨みなんてするのか?」


「…勝負方法が『男は見た目!』勝負だったものですから…」


 ・・・・・


 微妙な沈黙が落ちる。

 男は見た目って…そりゃあ世の女性達は筋肉ムキマッチョよりも美形なそこそこ筋肉を選ぶに決まっているじゃないか。それに、その頃の魔王は例の禿げマッチョだ。よほどの筋肉好きな女性でなければ魔王に勝ち目は無かったろう。


 逆恨みもどんな逆恨みだったのか…


「そう言うわけで、当時は魔王から嫌がらせなどの逆恨み攻撃と、女性のラブコールが激しく、両者ともあまりにしつこいので、辟易した主は子供の姿をとるようになったのです」


 ノルさんの子ども姿バージョンの裏話がこんなところで暴露されたっっ。

 しかも理由がダサい・・・。

 魔王の嫌がらせと女性から逃げるためだとは…。

 


「まぁ、それもほとんどの魔族を大陸外へ追い払ってからは各国の王族を油断させるためという理由に変わりましたが」


 子供の姿だと大人は侮るものだ。

 だからこそノルディークはその姿で油断を誘い、見かけとは違う話術と能力で各国の要人を倒してきたということらしい。


 でも最初の理由はダサい…。

 

 と、まぁ、ノルディークの過去はそうだとして、それでもやはり魔族に今狙われるとは思えないのだが。


「あとは…成長した魔王の息子(・・)に恨まれる…ということはあるかもしれませんね。父親が破れるのをその目で見ているはずですから」


 それはまさに逆恨み。 

 だが、ノルディークの勝ち方によっては…ありそうではある。


「とりあえず。シャナ、俺のズボンを下げる気なら大人になってからにしてくれ」


 はっ! ばれた。

 私はハーンのズボンを下げようと動いていた手を止め、項垂れた。

 くそぅ…気配に鋭すぎるぞハーン…。


「ノルディークには襲撃される理由がないか確認しよう。襲撃の報告もしておかねばならんしな。お前はどうするクラウ? 狙われているならここに一人というのは危険だろう?」


 ハーンが私の手を抑え、片手で器用に自分の衣服の乱れを直し、私を抱きなおして立ち上がって尋ねた。

 一人は危険と判断されたクラウは、しばし考え込んだ後、首を横に振った。


「おそらく、どんな要塞よりもこの塔ほど防御に優れた場所はないでしょう。外には出ずにここで塔を守ります。そう主にお伝えを」


「わかった。あぁ、そういえばもう一人は大丈夫なのか? あの屋敷のメイドだが」


 どの屋敷のメイドかと首を傾げれば、ハーンが指差す方向は懐かしき田舎の我が家の方向だ。


「グリフィンのグリさんでしゅね」


 そう言われれば彼女はこの塔とは違って普通の家に住んでいることになる。いくらグリフィンだと言っても、ノルディークの使い魔なのだ、危険かもしれない。


「あぁ、彼女なら問題ありません。聖獣であるグリフィンに魔族の魔力干渉は効きませんし、人間より少し強いだけですので駒としてはあまり使えないでしょう」


「そんなグリしゃんをなぜノルしゃんは使い魔に?」


 クラウのいいようだと戦闘などにはあまり役には立たないような気がするので尋ねてみる。


 塔の主の仕事は大陸の魔力を抑えること。魔力を抑え、魔物が溢れださないよう調整する。そして外からやってくる人間にとっての脅威である魔族を排除する。

 そんな危険な仕事にノルディークは何故弱いとされるグリフィンを使い魔に選び使役しているのかと私は首を何度も傾げた後、はっと気が付いた。


「「夜の相手か」でしゅねっ」


 ハーンと同時に答えが出た。


「…お二人と一緒にしないように。彼女は家事全般が得意なのですよ」


 呆れかえるクラウをよそに、私とハーンはああでもないこうでもないと、ノルディークのえげつない行い(二人の妄想です)の数々をあげていく。


「俺よりすごいな」


「お腹まっ黒な鬼畜でしゅから」


 私とハーンの間でものすごいノルディーク像が出来上がると、クラウが盛大な溜息を吐いて告げた。


「・・・・・主の主、さっさと転移魔法を起動させてください」


 さっさと出て行けと言うニュアンスを感じました。

 この塔の主は私のはずなのだけど…。


 あ、クラウの額に青筋がたった。

 

「転移魔法でしゅね。…転移魔法でしゅか!?」


「何故聞き返すのですか。ここから王都の屋敷に帰るにはそれが一番早いでしょう。他に魔道士もいないのだからさっさと発動させて主に叱られてきてください」


 転移魔法…それは床に魔法陣を描き、そこに立った者を一度行った場所に連れて行く便利な魔法だ。


 しかし、一度訪れればどこにでも行ける、というわけではなく、転移の目印となるべき物、例えば魔方陣や魔力を込めた物をその場所にそれとなく設置しておく必要がある。

 無くても行けなくはないが、安定せずにどこかに飛ばされることもあるらしい。


 意外と繊細なその転移魔法を私が!


 手を床にかざすと、そこそこ大きな魔方陣が描かれ、ハーンは私を抱き上げて転移陣に乗った。


「主によろしくお伝えください」


 クラウは軽く腰を折り、私は手を振る。


「では参りましゅ! 初転移魔法!」


「初!?」


 ぎょっとするクラウが手を伸ばした瞬間、私は転移魔法を発動させた。




 後で知ったのだが、初心者が転移魔法を使う時は、必ず熟練者を傍に置いておくべしという決まりがあったそうな。


 

 だが、為せば成る!


 

 

 チートだからね。






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