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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
VS 魔族編
95/160

94話 シャンティ直伝最終兵器?

「まじょく…」


 ぱらりらぱらりら~っと騒音響かせながらバイクにまたがり公道を走り抜けるエロ顔美形とムキムキマッチョの集団がなぜか脳裏を駆け抜けた。

 族違いではあるが。


 チラリと見やれば、エロ顔な美形は膝をついたまま痺れたように動けないでいる。

 その首筋へハーンは剣の刃を当てた。


 なんだかんだと言って彼は私に攻撃してきたのだから敵ということには変わらない。警戒するのが当然と言ったところだろうか。


「お前達…何者だ?」


 魔族の男は悔しげに顔をしかめているが、その表情もひどく色っぽい。

 ハーンにもこんな顔させて「シャナ、もう駄目だっ」とか言わせてみたいものだ。何がダメなのかは想像にお任せするけどね。


「ぐふふふふふ」


 ハーンの背後で妄想に花を咲かせて笑うと、男はびくっと震えた。

 あぁ、いかんいかん。ただ今尋問中でありました。


「俺達はただの人間だがな。そういう魔族のお前が何をしていた?」


 ハーンは慣れたもので私が後ろでむふむふぐふぐふやっていようと気にも留めずに話を進める。

 

「ただの人間に関係あるまい」


 魔族は反抗的だ。

 ここはいっそ脱がして縛り上げて新たな技を習得…じゃなくて、尋問方法を変えるべきかもしれない。


「落としましゅか?」


 私は唇を尖らせてチュッと鳴らすと、ハーンは呆れたように首を横に振る。しかし、目だけは魔族の男から離さない。

 ちなみに私の『落とす』というのはもちろんエロちっすで陥落大作戦である。


「魔族は痛めつけたところで回復が早いから意味はない。どうするか…」


 魔族の尋問というのは難しいようである。それにしてもハーンはやけに魔族に詳しいと思えば、どうやらそれを口にしていたらしい。


「昔あったことがある…おぼろげにしか覚えてないが」


と答え、再びいかに尋問するか悩みだした。

 

 ハーンが悩んでいる間にも、私は私独自が生み出した魔法のロープでするすると、そしてできるだけ相手に気配を感じさせないように注意しながら魔族の男に襲いかからせた。


「!」


 町のチンピラを捕まえた時に編み出した技だが、普通の縄よりもずっと丈夫なのでたとえ仕込みナイフを持っていても切れない代物だ。

 捕まえる相手が魔族とあってはすぐ気が付かれるかと思ったが、魔力を吸い取ったせいなのか、それとも男の気がハーンに向いているからなのか、魔族に気がつかれずに縛り上げることができた。


「なにをっ!」


「何をしていたか教えてくれたらはずしてもいいでしゅよ~。あ、言わないとこのまま剥いていきましゅからね」


 まず手をかけるのは、縛り上げた上半身ではなくやはりズボンだろう。

 魔族とはいかなるものなのか…やはり人間とは別物か…気になることは調べねば。

 嬉々として取りかかろうと手をワキワキさせると、ハーンに首根っこを掴まれぷらーんと吊るされた。


「なじぇ…」


「油断を誘うって言葉を知ってるか?」


 ハーンの剣は変わらず男の首筋に当てられているが、男はハーンを見上げ、ふっと苦笑してあっさりと立ち上がる。その際首の皮がうっすらと斬れたが、全く気にした様子はなく、私のかけた縄も何のモーションもなく消し去った。


「おぉっ…弱ったふりでしゅたか…」


 男は手首を回しながら笑みを浮かべる。


「ふりではない。だが、あれだけ時間があれば回復はたやすいと言うだけだ」


「・・・・・ちっすで腰砕けの?」


 ためしに魔力吸引とエロちっす、どちらで腰砕けたかと尋ねれば、男は微妙な表情を浮かべた。半々と言ったところか。


「さて、そちらの尋問タイムは終わりだな。今度はこちらからさせてもらおうか」




 さすがは魔族。ハーンがいまだ首筋に剣を当てているのをものともせずに剣をその手に出現させ、勢いよく半回転させてハーンの剣をはじく。

 普通ならそこでハーンの前方はがら空きになりそうだが、百戦錬磨なハーンは私を後ろへと投げ捨て、その手に手品のように出現させた短めの短剣で魔族の男の剣を受け止めた。


 ギィン!


 剣と剣のぶつかり合う音がし。続いて二人は互いに弾きあって間合いを取る。

 手に汗握るバトルの開始だ!


 ライオンファッションの私にできることと言えば…


 てけてけとちょっとカニ歩きでぎこちないが、二人からかなり離れた所を歩いて回り込み、塔の扉を叩く。

 叩かなくても主なのだから本来は開けられるが…いかんせんこの姿では引き手に手が届かないという悲しい事態が起きたので叩くしかない。


 背後ではその間も戦いが続けられ、チラリと目を向ければ、その瞬間魔族の男と目が合い、にやりと微笑まれ、ぞくっと背筋に冷たいものが走る。


 早く開け~!


 祈るように叩き続けると、ようやく中からほぼ黒に近い紺色の髪、赤い瞳の背の高いノルディークの使い魔クラウが姿を現した。


「騒がしいと思ったら…。お久しぶりですね主の主」


「ご挨拶は後でしゅ! クラウ! 今しゅぐ用意して欲しいものが!」


 私はクラウに飛びつくと、しゃかしゃかっと彼の体を上り、その耳に必要なものを告げた。


「あるにはありますが…何するんです?」


 そう言ってクラウが魔力を集めてその手の上に呼び出したモノは、ふさふさのオレンジ色をした…


 『ポンポン』


 正式名称は知らないけど、ポンポンと言えばあれだ。チアガールが手に持ち、体育祭などで応援団が使うあのふさふさの毛玉。


「こうするのでしゅ!」

 

 これぞ戦いの時の最終兵器!


 両手に持ち、私は腕を片手ずつ伸ばした!



「フレー! フレー! は・あ・ん!」



 クラウがガクリと肩を落とし、ハーンと魔族が何とも微妙な表情をして、二人共に剣が空振りした。


「頑張れ、頑張れ は・あ・ん!」


 誰か太鼓を鳴らしてくれませんかね??


 あ、名前がいかがわしく聞こえるのは気のせいです。わざとじゃあないですよ。


「気が散る!」


 ハーンに怒られた。

 しかし、皆呆れているけどこれがすごいんだな。


「負けるな、負けるな は・あ・ん! ということで頑張って避けるでしゅよ~!」


「は!?」


 私の最後の言葉に不穏さを感じたハーンが間一髪魔族と距離をとった瞬間、ばさぁっ! と両手を重ねて振り下ろしたポンポンから魔族に向けて閃光が襲いかかった。


 光の束とも言っていいようなその閃光に魔族の男は驚いた様子で剣を体の前で構えてそれを受け止める!


「シャンティ直伝! 光の魔道砲でしゅ!」


「ぐっ…精霊が編み出した魔法か!?」


 ちょっとは押されているようで私はさらに出力をあげながら堂々と答える。


「じゃんねん! これは人間のじょがくしぇーが編み出した魔法でしゅ!」


 ちなみにシャンティの中では3番目に強いのだとか。

 

 魔族の男は目を丸くすると、舌打ちした。


「人間がそこまで進化しているとはっ…少し作戦を変えねばならんかっ」


 そう告げると、剣で光の束を無理やり薙ぎ払い、ふっとその場から消え去った…。


 突然現れ突然消える…それは…


「ましゃに運命の出会いのようでしゅね」


 出会っては離れ、出会っては離れを繰り返す運命の恋人達。

 敵と味方というシチュエーションも燃えるではないか!


 思わずガッツポーズを決めてしまう。


「・・・・どうでもいいですが、なぜ魔族と戦ってたのか、あの男は誰なのか、主はどこなのか聞きたいのですがね」


 ふしゅうぅぅぅぅっと煙を上げるポンポンを持ち、ガッツポーズを決める私を見下ろしながらひきつった表情で尋ねるクラウに、私は振り返って手を上げた。


「お久しぶりでしゅクラウ。主と魔狼一匹帰還しましゅた。とりあえず…お茶所望…でしゅうぅぅぅ…」


 慣れぬ魔法と思い出した朝からの痛みにふうぅっと貧血で後ろに倒れると、すかさずそこへハーンが滑り込んで私を抱き上げた。


「とりあえず、休ませてくれ」


 ハーンが頼むと、クラウはやれやれとため息を吐き、二人を中に通す。

 ハーンはぐったりとする私をクラウに預けると、森の方向を一度睨んだ後、扉を閉めた。


 ハーンの視線の先、森の闇と茂みに隠れていたが、そこには彼等を見つめるきらりと輝く丸い球体があった…


「むんっ」


 そんな声が森に響き、球体は例の男同様一瞬で消え去ったのだった。

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