90話 魔族に対抗するには
「他人と魔力を共有するときは十分に注意しないといけない。シャナの様に突然流し込むと内側から爆発する危険性があるからね」
実践した後、ヘイムダールは注意書きを読むかのように無表情でそう告げた。
なんだか疲れたような無表情顔をしているのは、彼が突然魔力を流し込まれて苦しんだからではなく、体の内側から全身を舐められたかのような感覚を味わったからだそうだ。
なんだか味わってみたい大人味…
あ、だからシャナ味なのか?
一人味わいについてうんうん唸っていると、シャンティが手を上げる。
「じゃあ、魔族はどうやって人間を魔力酔いにさせるのですか? 爆発するのなら人間を駒に使えないはずです」
その質問に私の思考もそちらに回る。
確かに人間に魔力を送り込んで爆発するなら同士討ちなどはさせられない。
「人間の数が多いんだから手当たり次第耐えられそうな奴に当たるまでやるんじゃないか?」
アルフレッドの意見は過激だ。だが、敵だというならそれもありだろう。
現に話を聞いていたディアスも頷いている。
「そういうこともあるが、今回は魔族の大群だ。場所がばれるようなへまをしないようにしてるだろう」
ということは手当たり次第ではないということだ。
今のところ被害にあったのは赤の塔の主の守護者であるソフィアだが、彼女の本性は竜。人間を魔力酔いにするのとはまた別で、いきなり魔力を流し込まれても受け止められるだけあって参考にはならないな。
「魔族の魔力コントロールは人間の比じゃない。かなり繊細な作業を魔力でこなしてしまうのが魔族だと思ってくれればいい」
・・・・どうしよう・・・ムキムキマッチョな男達が黙々とレース編みをしている絵が脳裏に浮かぶ。
私が悶々としている間にも質問は続き、最終的に魔族をいかにして見つけ、捕えるかに話が移っていく。
「おそらくこの王都にもすでに何人か紛れ込んでる、あるいはすでに操られている人間がいるかもしれない」
ルインの言葉に皆がコクリと頷く。
それならばとたてられた案は、学園内の、特に私と同じ年代の子供達を集め、魔力を吸う特訓をしてみてはどうかという意見だった。
「クラス全員一丸となって吸い付き大会でしゅか…。タコ学生対ムキムキマッチョでしゅね」
シュールな絵面だ。
「ムキムキマッチョって?」
質問されて、そういえばシャンティ達は魔族を知らなかったんだなと思い、私は魔族=塔の記憶の魔王=ムキムキマッチョという方程式の元、その風貌説明をした。
すると、シャンティが愕然とし、アルフレッドが目を輝かせる。
「ムキムキマッチョに吸い付くのはいやぁぁ~」
嘆くシャンティ。
「いいな! できれば筋肉大会したいところだ!」
それはボディビル大会のようなものだろうか…
とりあえず筋肉に憧れを抱くようになったらしいアルフレッド。
「全員が全員マッチョじゃないと思うよ…。タコ学生は…他に方法がないとそうなるけど」
ヘイムダールの言葉にルインは身を乗り出して片手を上げる。
「特訓しましょう! 吸い付くのではなく、手からでも、離れてでもできるように特訓を!」
「必死でしゅね」
ルインは吸い付いてなるものかとばかりに食いつき、ああでもないこうでもないとヘイムダールに次々と案を押している。まぁ、一朝一夕にはいかないだろうけど。
だが、特訓はいい手だ…。
特訓するためには魔力酔いを起こさねばならないというわけで、それはつまり、私も魔力酔いの特訓ができるということだ。
その能力を手に入れた時、私はハーレム候補達をメロメロにさせ、ハーレム大王として君臨することができる!!
魔族だって手に入るかも! マッチョは駄目だけど。
「ぐふっ」
思わず明るい未来に笑いをもらすと、ヘイムダールがびくっと脅えた。
おっと、いまは獲物達を脅えさせてはまずい。ここはばれないように冷静を保って…
にんまり笑みそうになるのを堪え、きりっと目元を厳しくする。
だが
「シャナ、顔がこえーよ」
アルフレッドとオリンにドン引きされた。
どうやら私の顔は鼻から下は笑み崩れ、鼻から上はきりりと厳しい目つきをした奇妙な表情をしていたようだ。
やはり無理はいけませんな。
「ぐふふふふふ~」
とりあえず、顔はそのまま固まった状態で動かさず、無理せず笑いだけ発することにした。
「もう存在自体がこえぇ…」
失敬ですね!!
何はともあれ、これで新たなハーレム計画が進みそうです!
「むはははは~」
顔は変わらず笑う私を、悪友達は遠い目をして見守る。
「・・・・あれ、人間やめただろ」
「はじめから人間じゃないと思うけど」
「シャナよね」
・・・・いつからシャナ=化け物の代名詞になったですか! 失敬な!
とりあえず、私は悪友達に吸い付いてやりました。特にルインは長めにちゅっぽんとねっ。
「ごちでしゅ。これで4人とも操られてないと証明されましゅたよ」
胸を張ってむふ~っと鼻息荒く主張すると、背後にたたずむ影が・・・
「シャナも試してみようね」
振り返れば、なぜかいい笑顔のノルディークが!!
「そうだな、念入りにな」
なぜかアルディスまで!!
結局、私はその場で二人に拉致され…連れ浚われたのだった。
ヘールプミ~!




