80話 〇〇〇化…
これは一体何事かー!?
セアンを閉じ込めた水牢のみを攻撃するはずが、全員の魔力が合わさったせいなのか、威力が強力で広範囲に広がったようだ。
頭上からかぱーっと口を開けた竜が迫ってきたとき、全員がそれを見上げてビシィッと固まったのは言うまでもない。
が、固まっていては直撃を受けるのも目に見えているので…
グォンッと体内で魔力が練りあがり、自己防衛のために体の外へ向けて放たれ…
「シャナ! いけません!」
リアナシアおねー様が一番に我に返り、空から降ってくる竜ではなく、私に向けて抑制の魔力を放った。
しかし、自己防衛で放たれた魔力、一種の暴走魔力が一人で抑えられるはずもなく…
「あぁ!」
リアナシアお姉様は魔力にはじかれて地面に叩きつけられ、私の魔力は私達を喰らおうとする竜に向けて放たれる。
しかし、私の暴走魔力は意外にも、竜をまっすぐ打ち抜いた。
コントロール…はできてないはずなのに、幼い時の様に魔力があらゆるものを巻き込むというわけではなく、竜に向かっていったのだ。これは、偶然運が良かっただけだろうか?
確か私の暴走する魔力は辺り一面を瓦礫にするはずなのに…
魔力のおさまりはいまだ感じられず、空中では魔力に撃たれた水の竜が瓦解する。しかし、瓦解した竜の水はものすごい衝撃を伴って地上に降リ注ぐ。
ドン、ドンッと、水の落ちる音とは思えない音にびくりとして、しがみ付いていた物にさらに力を込めると、ぎゅうっと抱き返された。
「大丈夫よシャナ」
「あ・・・・姉しゃま」
そういえば姉様にしがみ付いていたのだった。
冷静になって気が付けば、水に当たらぬよう周りには直径数メートルのドーム型結界が施されている。
さらに、頭上に目を向ければ、水がほろほろと自ら細かく崩れて雨水の様に変わり、初めの威力は衰えてドーム結界の表面を濡らしていた。
「姉しゃまの結界?」
私の魔力が内側から膨れ上がっていてもモノともしないこれを張ったのは姉様なのかと思い尋ねれば、首を横に振られた。
「きっと私とシャナの合成魔法ね。でもシャナ、魔力がちょっと強いわ…」
いやいや、ちょっとどころか、普通ならば弾き飛ばされるレベルだよ姉様。
よくよく探れば、なんとなく姉様の魔力と私の魔力が溶け合って反応を起こしているように感じる。
つまり、姉様が私の魔力をコントロールしている?
ポカーンと口を開けて姉様を見上げると、姉様がはっと顔を上げた。
「「「シャナ! 何事だ!?」」」
ドームの結界を通り抜け、現れたのはタオル一丁を腰に巻いた男達…
「きゃああ! 破廉恥ですわ~!」
アデラの叫びに一瞬視線が彼女に向くが、男達はそれどころでは無いようで私に駆け寄ってきた。
おそらく魔力を抑えてくれるのだろう。
「姉しゃまにコントロールしてもらっている今の内でしゅ~」
魔力を暴走させながらも、姉様のおへそとお胸は私が護るっとへばりつき、できるだけその部分は私の体で覆う。
惜しむらくはお尻が隠せないことだけれど!
だからこそ、姉様の背後から迫ってくるディアスにはきしゃーっと牙を剥いておく。
「何故魔力を上げる!?」
おっと、姉様に近づくなと威嚇しただけで魔力が上がってしまったらしい。さすがに姉様を苦しめるわけにはいかないので、必死に冷静に~と自分に言い聞かす。
しかしっ!
あの姉様に張られた結界といい(今は消えている)、姉様の染まる頬といい…冷静さからは程遠くなるのですがね…。
顔で笑って心でディアスをぎったんぎたんにしている私の魔力はどうしても不安定になる。
「シャナ、シャナ、落ち着いて」
「くっ…あれが姉しゃまをあっはんうっふんさせるかと思うと…憎いのでしゅ~」
思わずギリギリと歯ぎしりしてしまう。
「これならどう?」
スッとヘイムダールがディアスの前を塞ぐ。すると、姿が見えなくなったのですとんっと魔力の荒れが治まり、姉様がほっと息を吐いた。
見えなければ何とか抑えられるかも?
「よさそうだね。それじゃあ魔力を抑えようか」
背後からノルディークの声がして、私の内側がずんと重くなった。
魔力を抑えられるのは最近なかったことなので顔をしかめると、姉様が心配そうにのぞきこんでくるので、安心させようとそのお胸にスリスリしておいた。
「!」
どこかで息を飲む気配がしたけれど知るモノか!
このぽよんぽよんは私のモノよ!
「むふっ…むふふふふ」
もっふもふのお胸を堪能していると、パチンっと魔力がはじける気配がして、辺りを包む魔力が消えた…。
「…魔力が抑えられたのか欲望が満たされて満足したのかわからんところだな」
気が付けば、森のあった方からやはりタオル一枚のハーンとシェールが現れる。二人は魔力が低い分移動に時間がかかり、出遅れたらしい。
我が魔狼なのにまだまだですね~。
「で、何が原因でこんなことに?」
シェールが私をじろりと見たが、私が原因ではないのでふんっと顔を逸らす。
そして、彼の質問には姉様がちらりと水牢があった場所に転がる気絶中のセアンを見やり、私とおかっぱ美女カティアはすっと男を指さし、アデラは掌で顔を覆いながら、指の隙間からバッチリ男達を見やり、頷く。
さらに視線を回せば、ほっと息を吐いたリアナシアおねー様と母様が共ににこりと微笑むことで、無言のままだが男達に原因を指し示していた。
「その男は、姉しゃまと母しゃまのお胸とおちりとおへそを見たのでしゅよ!」
悪人でしゅっと鼻息荒く報告する。
「「ほぉ…」」
ディアスの声に誰かの声が重なった。
一体誰? と声のした方へ視線を向けると、いつの間に現れたのか、父様がそこにゆらりと立っていた。
二人はぺきぺきと指を鳴らして男に迫る。
「ちなみに狙いはわたちのは・だ・か・なのでしゅ~」
むふっと微笑むと、周りの男達が全員黒い闇を纏い、気絶中のセアンを射殺しそうな目で見ていた。
「気絶なんてしてる場合じゃないですよ」
にこりと微笑んだノルディークが何か魔法を施したらしく、セアンがびくっと震えて飛び起きる。
何事かときょろきょろ見回す彼に、にやりと笑みを浮かべて近づいたのはハーンとシェールだ。
「うちのお嬢にちょっかいかけようとしたって?」
ぴたんぴたんと頬を叩きすごむハーンと、後ろから氷のように冷たい視線で射抜くシェール。
・・・ハーン、その筋の人のようなセリフですね。
「ちょっかい? え? 何が…?」
焦るセアンに救いの手は無く、姉様も珍しく傍観をしている。
「妻と娘の裸を見たと…?」
さらに父様が加わった。
父様は母様や私達の前でのヘタレモードではなく、塔の主の守護者としての冷たい表情でセアンを見下ろす。
「記憶を塗り替えてやろう」
そう続いたディアスに至ってはもうすでに魔王そのものとなっていた。
そんな二人の攻撃が炸裂したその瞬間!
「うわっ! 暴力反対!」
なんと、セアンはその攻撃を避け、身軽に宙返りをすると身構えた。
「ほぉ、楽しめそうだな」
「ゲ・・・・」
だが、避けたことでどうやら男達の闘争本能を刺激したらしく、彼は魔法と体術のオンパレードに襲われ続けることとなった。
「うわあああああああああ~!」
悲鳴と破砕音が鳴り響く…。
ちなみにそんな様子を指の隙間からじっと見つめるアデラは、遂にのぼせ上がったらしく(何にとは言わないけれど)、プピッと鼻血を吹いてカティアに担がれリタイア。
姉様は…と見上げれば、なぜか姉様はうっとりした表情で歩き出し、私を胸と腹に引っ付けたまま、なぜかディアスの背にぴたっと張り付いた!
「ね・・姉しゃま!?」
ディアスも驚きで硬直したのが二人にサンドされている私にはわかる。
「くふっ」
「シャナ?」
ディアスが不審そうに呼びかけるが、私はだらだらと冷や汗を流し始めていた。
「私じゃないでしゅよ・・・・」
「は?」
ディアスは驚いて振り返り、その胸に、ピタッと姉様が頬を寄せ、その手でペタペタと胸を堪能し…。
「ノ、ノーラ?」
慌てるディアスに姉様はうっとりとした表情のまま微笑むと、彼の腰タオルに手をかけ…
「くふふふふふふ」
笑い声に硬直したディアスのタオルをパサリと落した…。
「…きのこ出現でしゅよ~! ポロリでしゅよ~!」
メーデーメーデー!!
私が叫ぶと男達がピタッと動きを止め、そして、皆が注目する中、姉様は・・
「むふっ」
にんまりとほほ笑み、そのままふわりと倒れた。
慌ててディアスが抱きとめて私も姉様も無事だったが、これは一体!?
「・・・・魔力酔い・・・の一種かな? シャナ化してた…ね」
ヘイムダールが呆然と答えたのだった。
シャナ化ってどういう意味ですかね!?
シャナ「シャナ化ってなんでしゅかっ!?」
ノルさん「それはシャナのごとく怪しい笑いを浮かべ」
ヘイン君「男性を襲い」
シェール「欲望のままに突っ走り」
ハーン 「生き血も啜る」
シャナ「私は化け物じゃありましぇんよ!! ちっけいな!」
全員「「「「似たようなものだと思う」」」がな」




