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154話 適材適所?

「お見苦しいものをお見せした。ついつい若い者を見るとこう…手を出したくなるというか」


 じゅるるっと涎を垂らす着ぐるみ達は、森の動物シリーズだけあってまさに野獣だ。

 リスや馬など、草食動物も混じっているが、どれも野獣に見えて仕方がない。

 だが、気持ちはわかる! 

 

 そこにプリンプリンのお胸や、ムキッとしたお胸とお腹セットがあったならば、剥きたくなるのが人間というもの!


「人間の認識が間違ってるわ…」


 おう? 声に出てたようです。シャンティさんに突っ込まれました。

 だが、エルフの皆さんは同意したようでうんうんと頷いてくれました。

 

「そちらの素晴らしい思考をお持ちのお嬢様は…」


 エルフの一人が目を輝かせて問いかけると、父様がはっとした後、私から目を逸らしてぽつりと一言。


「見なかったことにしてくれ」


 父様~!? どういうことですか父様~!?

 潤む目でじっと見つめたが、父様が目を合わすことはなかった・・・・ヒドイ。



「で、なぜあんな恰好を?」


 父様はほろほろと泣き崩れる私を必死で無視して尋ねた。


「それは私が説明しよう!」


 バーンっと着ぐるみを着ていても突き出る胸を揺らし、金糸の緩やかなウェーブを持った見事な髪を、着ぐるみですっぽりと覆い隠してしまっているものすごい美人は、ふわふわでもこもこの白熊である。

 

 …森に白熊…?


 まぁ、ここは疑問を横に置いて…。

 彼女は何処かから取り出した紙をずいっと私達に向けて見せた。

 紙に書かれているのは見覚えのある文字だ。おそらくヘイムダールからの手紙だと思われる。

 

 父様はその紙を手に取り、内容にざっと目を通し、不思議そうに首を傾げて女性を見た。


「どう見ても家屋の建築に手を貸して欲しいとしか書いてないが…」

 

「ん? おぉ、失礼した。こちらだ」


 女性はまたもやどこからか手紙を取り出し、私達に見せた。

 そこに書かれている文字はあまり見慣れないものだが、ものすごく綺麗な文字だ。ただし、内容に関しては微妙だったが。


「原始のエルフの正装で来られたし…」


 なるほど、なるほど、あの葉っぱ一枚の姿は原始のエルフの正装・・・・。


「ただの原始人でしゅね」


 うんうんと頷く。


「カ~ル~ス~ト~!」


 ヘイムダールは飄飄とした態度をとるカルストを睨み、


「何故それを全員承諾するのかしらねぇ、エルフは…」


 ナーシャは首を傾げた。

 

 ナーシャの言うとおり、ナゼに全員が恥ずかしがるでもなくその格好で歩いてくるのだろう。

 というか、歩いてきたのだよね…? この国まで…。


 その答えは。


「礼儀は守らんとな!」


 美女白熊は胸を張って答えた。


「それは礼儀じゃない…」


 ヘイムダールは肩を落として大きくため息をつく。


 エルフはどこか間違った種族のようだ。


 私の中のエルフは身が軽くて、聡明で、この上なく美しく、寡黙な一族だと思っていたのだけれど、合っているのはこの上なく美しいという部分だけみたい。

 もうすでにこちらと対話するエルフ以外のエルフ達はおしゃべりに花を咲かせている。


 女子高生がいる…と私も現在その歳ながら、思わず懐かしく見つめてしまった。





 


 さて、エルフも揃ったところで、自己紹介し合うと、なんと、手紙を持っていた美人さんはヘイムダールの母でフェレスダールさんといった。


「フェレシュ・ダールでしゅか?」


 さらさらと土に文字を書いて尋ねると、ヘイムダールは首を横に振る。


「繋げて書くんだ。ダールは同じ血を継ぐ者の名に付くから、家族名のようなものだよ」


 エルフは名前に家族名を入れ込んでしまうため、人間の様にシャナ・リンスターと分けては書かないそうだ。

 なるほどなるほど、と勉強していると、(くだん)のエルフ達はすでに仕事を始めていた。



「城は石造りだったな、石切り職人が必要だ。そちらは石が揃うまで待てと言っておけ。民の家は木でも良かろう。準備はいいな!」


 女性の方が強いのか、それとも職人さんが女性なのか、いろいろと取り仕切っているのは女性が多い。

 彼女達の号令で、庭にニョキーッ! と木が生えたかと思うと、彼等はそれを紙の様に剣で切り裂き、木材にして肩に担いで運んで行った。

 もちろん男性エルフもだが、女性エルフも負けないくらいの木材を担いでいった。

 

 エルフの項目に怪力を付けねば…。


「エルフ・・すげぇな」


 エルフ達とすれ違い、呆然と呟いたのは我が悪友アルフレッドだ。

 彼等はアルディスやナーシャの塔から薬を受け取り、各地に配りに行く為にチームを組んで集まった。


「行くのは楽だが、帰ってくるのは少しかかる。それまでに王都の復興は頼んだ」


 アルフレッドの言葉に、私やシャンティなど王都復興組は任せろとばかりに頷いて、彼等を送り出す。

 塔の傍までは転移で、荷物を受け取った後、彼等は各地へ旅をしてまた帰ってくることになるため、最長で半年ほどかかるのだ。

 ちなみに塔の存在は彼等には見えないので、倉庫のようなものがあると思ってもらっている。


「良いお嫁さんを見つけてくるのでしゅよ」


 アルフレッドの手を取って私が告げると、アルフレッドに額をビシッと指で弾かれた。

 けっこう痛い。


「お前は俺の母親かっ。とにかく、行ってくるから王都は頼むぞ」


「おまかしぇー」


 ペンギンの手をフリフリ見送る。


「・・・・不安だ」


 失敬なっっ!


 彼等の姿が見えなくなるまで見送ると、今度は王都組である。


 シャンティをはじめとする女性陣がするのは炊き出しや着るものの準備だ。

 幸いリンスター家には山と言うほど布や服があるので、それを放出し、炊き出しは…。


「お料理でしゅねっ!」


「あんたは駄目!」


 包丁を握ろうとした瞬間、その包丁を掻っ攫われました・・。

 かつて、成人のお披露目の料理で包丁を握ったことが彼女達に危機感をもたらしたようです。

 

 全員に包丁は握らせてなるものか! というギラギラした視線を向けられました。

 

「人間は日々成長をしましゅ…」


 ためしに訴えてみる。が、すかさず返された。


「あんたは絶対危険な方へ成長する!」


 背後に立つ友人達も高速で首を縦に振った。

 ひどい…。


 となると仕事は…と、様子をうかがっていたノルディークに潤む瞳を向けた。


「ノルしゃん…」


 ノルディークはにっこり微笑んで頷いた。

 まるで全てわかっていたと言った笑顔だ。


「シャナはこっちだね」


 私はしょんぼり項垂れ、ノルディークと手を繋いでペタペタと歩く。

 その先には…。



「さぁ、お仕事じゃー!」


「生きとる限りはやるのじゃー!」


「魔法か? 薬か?」


「新たな研究じゃー!」


「爆発じゃー!」



 老人達がいた…。




 どうやら私の仕事は、塔の主達と協力し合い、世界に溢れる多すぎる魔力を中和することのようだ。


「頑張って…魔物を減らしましゅ」


 じゃないとこの老人達も増殖しそうだからね…うぅぅ。


 



その頃の忘れ去られていたとある変態・・・・


セアン「うわああああ!?」


目覚めると、なぜか胴上げの状態で担がれていた! 

そして、鼻の穴には葉っぱが刺さっており、ふんっと鼻息で葉っぱを吹き出して体の下を確認する・・・と、自分を担いでいるのはどうやらリンスター家の着ぐるみを着た何者達かのようだ。


セアン 「だっ・・誰だ!?」


??? 「貢物が起きたぞっ」

カルスト「貢物じゃなくて生贄です」

セアン 「カルスト…さんっ!? これ、何・・・て言うかタスケテくれ!」

カルスト「役に立たない場合はエルフへの生贄と古来から決まっております」

セアン 「そんな話初耳だよ!」

カルスト「今決めました」

セアン 「待てぇい!」

カルスト「では、心を強くお持ちください」


セアン 「いや、ホント、助けてー!!」


(とりあえずは帰ってくるが…)

セアンがその後どうなったかは謎である…。

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