153話 襲われた若紫
「取り敢えずはこんなところだが、動けそうな者だけ動けばいいだろう。学生達はとりあえず今日は休め」
ディアスの言葉に、学生達は困惑の表情を浮かべる。
それもそうだろう、何しろ王都は壊滅状態で家がないのだ。突然休めと言われて、ハイお休みなさいと横になれる者はそんなにいない。特に、学生達はなんだかんだと言って貴族なので抵抗は大きいようだ。
「学園ももっと野外活動すべきだな」
ぽつりとアルディスが洩らせば、ディアスもそれに同意した。
このまま学園に在籍すれば、一般市民よりも逞しくなりそうな貴族達だけど…、人からお金をもらって生きているのだ、それぐらい逞しくなって国に貢献してもらった方がいいのかも。
「せめてテントが張れるといいのでしゅが」
「テントか…となるともう一仕事だな」
その言葉に、学生達は疲れているものの、何やら希望を見出したようで布探しを始める。
そんな中、遠くから魔族が手をフリフリ近づいてきた。
「おぉ~いっ、リンスター家は無事だったぞ! あといくつかの屋敷もな、郊外にでれば半壊程度で残ってるものもある」
魔族達の一部が王都の見回りから帰り、私達はおぉっと目を輝かせる。
郊外のお屋敷はそこそこ大きさもあるため、半壊であってもかなりの人数を収容できる。もちろん我が家もだ。
それならば、と町の者を振り分けて、それぞれの屋敷に向かってもらうようにした。
リンスター家には魔族を迎え入れることになるので、偏見のない者が選ばれる。
すると、自然学生達が集まった。
今夜は若紫祭り!
「ぐふふふふふふっ」
「シャナ、襲いかかっちゃ駄目だよ」
ノルディークに先読みされました。
おかしいな…、それらしい言動はしていなかったはずなのに…。
「シャナ、実はすっごく気になってることがあるのだけど」
屋敷に行こうと皆が動き始めた矢先、シャンティが駆け寄ってきて、とある一部を指さす。
そこには、いまだぐったりと倒れ、鼻から草を生やしている(シャナが刺した)セアンがいた。
もっと明確に言うのであれば、すっぽんぽんの変態元騎士がいる。
「あれはでしゅねぇ…あのままにしておきましゅ」
うんと頷けば、私達の背後にぬっと影が現れた!
「そうですね。ひょっとしたら明日ぐらいには気合の入ったエルフが拾ってくれるかもしれません」
カルストがどこからともなく現れ、シャンティは飛びのいた。
私はノルディークに抱っこされているので、びくぅっと脅えただけですんだが、相変わらず心臓に悪い。
と、カルストといえば…純粋なエルフだったはず…。
「そう言えば、エルフってどんな感じでしゅか? カルしゃんみたいなの?」
これが大勢いたら大変よーと思いながら尋ねる。
「明日になればわかりますよ」
カルストはクスリと笑みを浮かべた。
明日になればって…エルフはそんな早く王都にこられるのだろうか…?
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翌朝、前日に学生達の眠るホールへと侵入するはずが、ノルディークに捕まり、そのまま連れ浚われた私…その後、色々とありまして、要するに…寝不足です。
「おにょれ…このもやもやは皆しゃんで発散でしゅ~!」
そして、本日の衣装はペンギンさんです。
この衣装、移動がとても楽で、泳ぐ姿でスイーッと床や地面を移動できます。ドリフト走行も可能。
朝から八つ当たりで学生達をなぎ倒して進んでいたら、ディアスに踏みつけられました。
「おぉぉぉうっ、進めぬぅぅぅぅっ」
廊下で両手をバチバチ鳴らして床を叩いていると、朝の支度を終えたシャンティと遭遇。
「リンスター家の朝の風景はこんななのね…」
廊下の先のなぎ倒された生徒達に同情の視線を送った後、シャンティはふぅとため息をついた。「わかっていたけど」とぼそりと呟いたのが聞こえましたよシャンティさん! どういう意味ですかねー!
そして助けてくれませんかね!
そんな長閑な(?)朝の風景を破り去るように、それは突然やってきた。
「「「「ぎゃあああああ~!」」」」
突然響いた悲鳴は…外から?
体を起こし、踏みつけられた背中を叩いて外の方へ顔を向ける。
「今度は何事でしゅかね」
「変態でも出たかしら」
最近の事件で叫び声に慣れてしまった私達は、のんびりと外へ向かった。
魔族達がいるから大丈夫、というのもあったのだけれど・・・・。
「「ぎゃあああああっ!」でしゅ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図・・・じゃなくて、尖った耳、端正な顔立ち、抜群のプロポーションの美男美女が、ほぼ裸体に1枚から3枚の葉っぱを付けた姿で、前のめりになって逃げる男子生徒と、涙目の女子生徒達を剥かんと、悪鬼のごとく追いかけまわしていた!
「私の若紫が犯されるでしゅ!」
「あんたの若紫って何っっ?」
言いながらシャンティは手をクロスさせて光線を放つ!
魔法の詠唱も、何もかもすっ飛ばしての遠慮無しな攻撃は、そのまま生徒ごと変態達を吹っ飛ばした。
「朝から使う魔法じゃなかったわ…」
シャンティは肩で息をして私にタッチする。
お次は私の番のようです。
爆発ごときではびくともしないエルフ達を、ペンギンドリフト走行で全員なぎ倒して…。
「アレに押しつぶされたら一巻の終わりでしゅ…。ディアス」
振り返ってタッチしようと思ったらば、ナント、いつの間にやら背後には、セアンを除く塔の関係者が勢ぞろいしておりました。
「ここはアルバートに任せましょうか」
父様??
何が始まるのかと首を傾げれば、ふわりとアルディスに抱っこされた。
ナーシャがにっこり微笑み、ふわふわと場所を譲る。
「あれはたまたまなのですが…。まぁ、いい。我が君の仰せのままに」
ヘイムダールにお願いしますと言った視線で見つめられ、父様がやれやれと前に進み出て、息を吸い込んだ。
「エルフは全員整列!」
その声は大きく響き渡り、はっと気が付いたエルフ達が、父様を見るなり目を輝かせて一っ跳びで父様の目の前に着地、次いでエサを待つ子犬のように目を輝かせてその場に正座した。
「なじぇ…?」
呆然と見つめれば、屋敷の奥から何かを抱えたメイド達が現れ、エルフ達に着せていく。
「エルフの好物は…男と女と…酒だったか?」
様子を見ながらハーンが呟けば、ヘイムダールが頷いた。
「アルバートはエルフ全員に飲み比べで勝って以来、酒の神として崇められてるんだ」
要するに、酒勝負で全員倒した結果、エルフは父様に傾倒し、言うことを聞くようになったとか…。
何してるんでしょうね、父様・・。
そんな話をしていると、エルフ達の着替えが終わったようである。
メイド達が持ってきたのはどうやら服のようだが、そこはリンスター家のメイド。選ぶ物がただの服のはずはなく、着終わったエルフ達は、眉目秀麗の顔をのぞかせた森の動物シリーズの着ぐるみに包まれておりました。
中身がものすごい美人揃いなせいなのか、真剣な表情で私達の前に立った着ぐるみ姿のエルフ達は、何ともシュールな姿でありましたよ…。




