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152話 復興を始めましょう

 ぼんやりと佇むレイゼンの姿に、皆緊張してじっと息をひそめて見つめている。

 私もドキドキと脈打つ胸を押さえ、何が飛び出すかと見守っていると、レイゼンはゆっくりとこちらを振り向き、口を開いた。


「何やら若返った気分じゃー」


 気の抜ける老人の声に、ものすごい速さでハリセンマスターとピコハンマスターが飛んできて前後から挟み撃ち、レイゼンを叩きのめした。


 あれはレイゼン…じゃなくて、お爺ちゃんズの誰かだ。うん、間違いなく。


 どしゃっと床に倒れたレイゼンに、ケルベロスが追い打ちをかけるがごとく噛みつき、ぶんぶんと振り回す。すると、「ひゃあああっ」と悲鳴をあげて老人達五人がレイゼンの体からすっぽ抜け、レイゼンはそのまま床にペッと吐き出された。

 哀れ…。


『これだけ迷惑をかけたのだ、謝罪ぐらいしていけ』


 お爺ちゃんズに言っている…わけではないようだ。お爺ちゃんズは地面にうつ伏せ、ぴくぴくしていた。


 レイゼンはムクリと体を起こし、ケルベロスを見た後、私達へと視線を向けた。


『・・・・魂が騒ぐ理由はこれか』


 どれ?

 思わず首を傾げると、私の傍にヘイムダールが立ち、ポンポンと私の頭を軽く叩いた。


「シャナの中に冥界に繋がるモノがいたから、魂はいろいろ反応したのだろうね」


 なるほど。そういう意味ですか。

 うんうんと頷くと、レイゼンは私から興味を失ったかのようにまたケルベロスへと視線を向ける。

  

 一軒家に相当する大きさのケルベロスは、しゅるしゅるとその大きさを縮めると、大型犬程度の大きさに変わり、ポンポンとその肉球で己が出てきた沼を叩く。

 すると、沼からは何人もの人間が現れ、彼等は一様にきょろきょろと辺りを見回した。


 何故ここにいるのかわからない、といった顔ね。

 

「わしらが分解した人間の魂じゃ」


 おぉ、お爺ちゃん頭が復活した。その額はずる剥けて真っ赤だが、魂が怪我するのはきっと気のせいの為せる技なので放っておこう。


「歴代の赤の塔の主もおるのぅ」


 なんとっ、歴代の主!?

 私はどれどれときょろきょろ見回す。


 とにかく数が多いので、どれが一般人でどれが主達かわからない。

 記憶を呼び起こせばいいのだけれど、現在お疲れモードなので、それをやると倒れそうなため、記憶の呼び出しはせずにノルディーク達を(うかが)った。


 一番主達を知っているのはアルディスだ。

 彼は、ふらふらと一人の男性に近づき、男もその姿に気が付いて互いに歩み寄って手を取った。


「お久しぶりです師匠」


『元気そうだな、アルディス。我が子よ』


 にこりと微笑む男性は60代ぐらい。髪も髭も白いが、背筋はピンとしていて、顔立ちもよく、一言でいうならダンディだ。とても狂うような人には見えないが、おそらく先代だと思う。


「ん? アルしゃんのお父しゃん?」


「似たような関係でしたね」


 ノルディークが私をひょいっと抱き上げたので、私はその胸に頬を摺り寄せて甘える。

 皆実際には亡くなっているので、彼等が存在するこの光景はなんだか切なくて、ノルディークに甘えることで切なさを誤魔化したのだ。

 私だって時々ぐらいならセンチメンタルにもなりますよ。


『気に病むな。人は死んだらそれまで、だが、生きている者には未来がある。私はそれをお前に託したのだよ』


「ありがとうございます師匠」


 アルディスと先代が感動的なシーンを繰り広げる横で、初代達がとある男性をタコ殴りにしている。

 本気で殴っているわけではないけれど、随分根が深そうだ…。

 なんて他人事のように見守っていると、ノルディークとヘイムダールが眉根を寄せて男を見ていた。


「三代目だ」


 ヘイムダールの言葉に、私もタコ殴り参加希望!

 

「全ての元凶でしゅ!」


 叫び声をあげると、風の様にどこからかシルバートレーマスターと、シャンティ、オリン、アルフレッドが現れ、適度なタコ殴りに参加!

 ついでに言うならば、レイゼンも竹刀女生徒と、爆発魔法メイド、金棒女生徒からタコ殴りに合い、どちらもドリルナースに治療を受けては回復し、タコ殴りに合うという鬼畜な状況に陥っていて、私が出る幕でもないらしい。


 すでに死んでいるのでタコ殴りしてもあまり意味はないようにも思えるけれど、気分的に合掌。


『これらの魂は、冥界の法に則《のっと》って逝くべき場所に送り届ける』


 ベロちゃんの宣言に、私達は頷く。

 

『元凶である者達は牢送りだが…』

 

 ケルベロスがたしたしと再び沼を叩くと、そこからするりと人が浮かび上がった。

 今度は、三人の女性。


 一人はソフィアちゃんだ。

 あとの二人はひょっとして…。


『テレーゼ!』

 

 三代目の奥さんはテレーゼというらしい。40代ぐらいのどこにでもいそうな、気の弱そうな雰囲気の男性である3代目が駆け寄ると、栗色の髪の勝気そうな女性、テレーゼはにっこり微笑んだ。

 その笑みは、どこかノルディークの黒い笑みに似ていて…。


『このおバカが~!』


 三代目は思いっきりグーで殴られました。


 どうやらソフィアちゃんはお母さん似のようですね。少々野暮ったい感じの青年を、テレーゼママと同じように殴り飛ばしておりました。

 

 最後の一人は、レイゼンの前に膝を着いて拱手(きょうしゅ)し、頭を垂れた。


『我が王、お久しぶりでございます』


『酔華か…』


『はい。我が王は…顔の形が少々歪みましたが、そこは甘んじてお受けくださいませ』


 元々はソフィアの魂。タコ殴りで歪んだ顔に同情することなく、辛辣だ。

 彼女達は皆男達の勝手さに憤っていたが、最終的にはそれを許して互いに抱きしめあった。




『では、全員冥界に送る』 


 ベロちゃんはそう言うと、ぐっと足に力を入れ、すぅっと息を吸い込んだ。

 これで、全ての魂は行くべき場所へ行き、眠ることができる・・・・と思ったら大間違いよ!


「ちょっと待つでしゅ! そこの元凶の元凶には協力してもらうことがありましゅよ!」


 私は叫ぶと、老人達を指さした。

 彼等は全ての元凶だ。さっさと冥界に行って、のんびりするなんてことは許しません!


『了解した』


「ぬわんとぉ!?」


「冥界の番人が!?」


「それでいいのかのぅ!」


「魂は全て眠らせるのが仕事ではっ」


「休ませてくれぬかの?」


 老人達の口に、その場にいた全員がギラリとした視線を向け、一言。


「「働け」」


 この言葉に老人達はガクリと膝を着き、項垂れた。

 

 ケルベロスはその後、一つ頭に変化すると、空に向かって一吠えした。

 その声は空気に解けるように響き渡り、魂達を少しずつ光の粒に変えていく。

  

 そう言えば、ソフィアの魂が眠る世界でも、ソフィアが送られる瞬間はこんな鳴き声が聞こえた気がする…。ということは、あれもケルちゃん達のしたことだったのかな。

 ぼんやり考えながら手を振ると、魂達は皆ほっとしたような表情で生きている者達に一礼して消えて行った。


 




 さて、残された私達には、壊れた世界の修復が待っている。

 気合を入れなおし、顔を上げると、まず何からすべきかを考える。


「まずは…食料でしゅ!」


 日本でも震災の後の食糧確保は大変なのだ。

 だが、そこは異世界、というか、農業を重要視している世界。問題はなかった。


「それなら大抵の家の地下に備蓄がある。畑が無事なら、収穫できるものもあるだろうから問題はないだろう」


 アルディスの言葉に、皆が頷く。

 貴族の家でも地下には食糧庫があり、長期保存できる食物が少なくとも一年分はあるのだそうだ。皆が持ち寄れば貧しい人々も復興するまでを食いつなぐことはできるようだ。

 そして、塔にも食料はある。


「じゃあ…病人のお薬でしゅか?」


「それなら各塔から排出できるよ。一般的な薬品なら食料と同様に保管されているけれど」


 塔は元々研究施設として作られている。なので、器具や材料も豊富にあり、塔の主の中には薬学に精通した者もおり、彼等が作った薬は塔の中に多く眠っているらしい。

 新しく開発された薬については、これから調合してもらう必要はあるが、材料はあるだろうとのことだ。


 問題は運び手だったが、これは学生達が手を上げた。

 現在大陸は少なからず魔物が闊歩している。それに対抗できる者達が行くのがいいだろうということで学生達に任された。


「あとは~…お家でしゅか」


 これが最大の問題だ。

 ちゅどーんによって壊された家屋は、この王都だけではないはずなのだから、大陸全土に(おもむ)いて壊れた家を建て直さねばならない。


「それだけは確かに時間がかかるが、ヘイムダール」


 ディアスがヘイムダールに何やら尋ねると、考え込んでいたヘイムダールは深く…ふかぁく、もう沈みそうなほど深くため息をついた。


「まず一つ。王都はほぼ壊滅したけれど、大陸全てに被害があるかといえば、全て、とは言い切れない。たぶん、確かめないとはっきりとは言えないけれど、魔法陣を描く線上にあるモノは壊れ、その外側のモノは壊れてないんじゃないかと思う」


 全て魔法陣の中身が壊れたと思っておりましたよ?

 

 ヘイムダールは木切れで円を描き、その中に五芒星を描く、そして、線の上と外側に石を置き、一か所に魔力を流し込んだ。

 すると、ポンッと弾かれたのは線上の石だけで、外側の石は全く動かなかった。


「仮説だけどね、発動したのはレイゼンの魔法ではなく、シャナの魔法だ。つまり、城を壊す魔法。これを俺達が他に被害が及ばぬよう抑えた状態で放ったので、シャナの魔力はこの線上にだけ流れたと思う」


 要するに、穴の開いた袋に水を入れると、水は穴の開いた所から漏れる。

 それと同じで、魔方陣の繋がりが穴となり、私の爆発的な魔力は、塔の主達の抑えを抜けて、そこから漏れ出たということらしい。

 それについては確信できるようにするため、直ちに学生達から調査隊が編成された。

 

「それからもう一つ。これが一番したくないことだけど、家屋を立て直すなら、最も適した種族に頼もう」


 私が首を傾げると、アルディスが「ああ」とポンッと手を打った。

 ヘイムダールはひたすら項垂れ、ノルディークを見上げれば、彼はにこやかに微笑んで答える。


「森の民だよ」


 森の民とな…聞いたことがあるような無いような?

 ちらっとヘイムダールを見れば、彼の前にささっと姿を現したカルストが胸を張ってにこやかに答えた。


「我々エルフでございますよお嬢様」


 なんと! なまエルフ軍団(・・)出動のようですよ! 

 

 

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