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151話 王都は…

 目が覚めると、青空が広がっていた…。

 心地よい風が吹き、頬に触れる。平和って素晴らしい…。


「現実逃避してるだろ?」


 寝転がる私の顔の上にハーンが影を作って現れ、私はむふっと笑み崩れた。

 相変わらずいい男だ。


「おはようございましゅ~」


 これは決して現実逃避ではございませんよ。違いますとも! 

 「むふふふふふふふ」と不気味な笑いを響かせてじっとしていると、ハーンは一度顔を引っ込ませ、続いてシェールが現れ、体を持ち上げられた。

 

 脇の下に手を差し入れられ、ぷらんぷらんと揺れながら見る王都は…廃墟と化しておりました。


「はい、きょーはおしまいでしゅ」


「ダジャレで誤魔化したつもりなのか…」


 ファルグに突っ込まれ、私は目を逸らす。その目を逸らした視線の先には、死屍累々と言った様子の生徒と、同じように倒れる塔の主達がいる。


「動けるのは魔力が強く、痛みに耐えて最後まで意識を手放さなかった者だけだな。まぁ、大半は気を失ってるんだが」


 すでに一部の生徒の確認をし終えているらしい。

 報告してくれたシェールに目をやれば、シェールも痛みに耐えた後のためか、表情には疲れが見え、ほんの少し頬がこけたようにも見える。

 まぁ、痛みの後の疲れだけではなく、国が廃墟になったことの絶望感も混じっているかもしれないが。


 ガラガラガシャーッ


「なんでしゅっ?」


 何やら崩れる音に驚いて視線を向けると、瓦礫の中から、なぜか上半身剥き出しのボディービルダー達が一斉に立ち上がった。

 いわずもがな、魔族である。


「よく寝たぞーっ」


「お? なぜ裸?」


 どうやら操られていた時の記憶はないらしい。皆元気よく立ち上がり、「ふんっ」と気合を入れてポーズをとる。ただ、その際に微妙な痛みを感じるのか、ぴくぴくっと筋肉が動いて「うっ」という呻き声が漏れていた。


「お前達、役に立たなかったのだから、今役に立て」


 ファルグはかろうじて残っていた城の大理石の床に座り込み、膝に肘を立てて魔族達を睨んだ。その視線はいつもよりも冷たく、ポーズをとっていた魔族達はびくっと脅えて姿勢を正した。


「「「ご命令をどうぞ、陛下」」」


 魔族達の態度に深くため息を吐き、ファルグはさっそくとばかりに指示を飛ばした。


 元気が有り余っている魔族がファルグの指示のもと、あちこちに走り回って、生徒を回収、周りを警戒、廃墟と化した町の見回り、数人が何やら使命を持ってこの場を離れていくという行動をとるその間、手持ち無沙汰な私はシェールとハーンを伴って塔の主達を起こしていく。


「起きてくだしゃーい。朝でしゅよ~」


 時刻はすでに一夜明けて昼だ。

 なんだかんだと時間は過ぎていたらしい。

 そう思うと、お腹が空いた…。


 ぐきゅるきゅる~


 お腹を鳴らしながら、塔の主達に声をかける。


「ディアス~、ナーシャ、ストーカーはこのままにして…鼻に草でも入れときましゅかね。アルしゃ~ん、ノルしゃ~ん、ヘインく~ん。起きないとイタズラしましゅよ~」


「いや、もうしてる…」


 手が無意識に動き、彼等の上着は肌蹴て何ともしどけない姿になっていた。

 おぉっ、いつの間に!


 だが、悪戯をしても彼等は起きないので、仕方なく、古典的目覚めの儀式で起こすことにする。

 古典的目覚めの儀式、それは、お目覚めのちゅ~です。


 16歳用のずるずるドレスを引きずっての格好の付かない王子様ですが、誠心誠意をこめておはようのキスをいたしますよ。


「まずはノルしゃーん」


 むちゅっと口付けるが、起きる気配はない。

 となれば、ここは濃厚に…。


「んむ~っ」


 人工呼吸の知識と目覚めの儀式の知識(?)が相まって、鼻をつまみ、エロちっすをかます。すると、顔に赤みが戻り、なんだかいい感じですよ…。

 

 ノルディークの口腔をこれでもかーっとさらに蹂躙(じゅうりん)すると、ノルディークはがばっと腹筋だけで起き上がり、私はそのまま後ろにころりと転がった。


「ぶはっ・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・ったい…何が?」


 荒い呼吸で話すため、言葉がしっかり発音できていない。

 ひょっとして…息苦しくて顔に赤みが…?


「まぁ、普通は呼吸困難になるな」


 ハーンは見ていたけれど止めなかったようだ。ただうんうんと肯いている。


「シャナ? 一体…」


 呼吸を整えたノルディークは、周りを見回して眉根を寄せる。その後、自分がどこにいるのか思い出したのか、珍しく唖然としたような、ぽかんとした表情で固まってしまった。


 あどけない表情になっているノルディーク。

 むしゃぶりつきたくなるほど可愛いですな…。


「ぐふっ」


 あ、涎が垂れてしまった。

 

 ごしごしと涎をぬぐい、ノルディークの前でムンウォークをしてみる。ムーンウォークでなくて、ムンウォークだ。力こぶを作り、むんっむんっと叫びながら踊る熱き男達の踊りである。ちなみに発祥は魔族。

 これにはノルディークも目が覚めたようで、我に返った。


「ひょっとして、夢かな?」


「ノルしゃんが現実逃避しましゅた!」


 ががーんと効果音が出そうなほどに驚くと、シェールもハーンもうんうんと頷く。


「「気持ちはわかる」」


 この言葉を受けてノルディークは大きくため息をつき、立ち上がってはっと己を見下ろす。

 今度は何事かとじっと見つめていると、ノルディークは私を見てまたもやため息をついた。


「相変わらずすごいね…。あれだけの魔力を放って、まだ平気なんだ」


 説明を聞くと、私が魔力を大幅に失うと、ノルディークとファルグは電池切れのように動けなくなるらしいのだが、ノルディークはだるいだけで何ともないらしい。


「その代わりに、シャナが小さくなるようになったのだろうね」


 ヘイムダールの声が横から聞こえ、視線を向ければ、魔族の一人に肩を借りて歩いてきていた。

 その場にどさりと座り込み、自身も魔力切れ寸前だと告白する。


「レイゼンと羊はどうなった?」


 ディアスも目が覚めたのか、片腕で何とか体を起こした。アルディスも同様に起きあがり、今はナーシャを揺り起こしているが、精霊のナーシャはダメージが大きいらしく、起こすのを諦めた様だ。


「そういえば」


 周りの状況に驚きすぎてすっかり忘れていたが…、と、皆が視線を周りへ向けると、全員の視線が、一つの場所でピタリと止まる。


「ましゃか、あれでしゅか?」


「だろうな」


 ハーンがぼそっと同意する。


 そこにあったのは、黒と白の粘土状の物が絡み合った謎のオブジェ・・・・に、なぜかミニシャナ達が齧りついている。


 そろそろと近づいていくと、ミニシャナ達はポロポロと落ち、ヒルに戻って消えるところだった。


「小さくなったね」


 ノルディークと手を繋いで近づき、じっと見つめると、粘土状のオブジェからぬっと人の顔が現れた!


「何とか分解できそうじゃー!」


 気持ち悪いオブジェに思わず攻撃魔法を叩きつけそうになって思いとどまる。この元気な声は老人達だ…。

 中に入り、この物体の分解を始めているらしい。


「それで、分解すると何が起きるのです?」


 ノルディークが尋ねると、他の部分にも顔が浮かび上がり、老人達が騒ぎ出す。


「全て分解できたら魂が浄化される!」


 自信満々に叫ぶその横で、魂の浄化と聞いてなんとなく思い出したことが…。


「・・・・魂、といえば・・・ケルベロス~!」


 私が叫ぶと、ぶおっと音がして地面に黒い沼が現れた。

 少々大きめのその沼からは、ケルベロスが慌てた様に大きめの姿でポーンっと飛び出し、地面に降り立つなり首を振り回した。


『これをとってくれ!』


 叫ぶケルちゃんに首を傾げ、確認すると、ケルベロスの首には金色の髪…。

 金色の髪?


「カルスト…何やってるんだ?」


 ヘイムダールが呆れたように尋ねると、ヘイムダールの魔狼であり、エルフのカルストが首から離れ、華麗に着地を決めた。


「移動はこの方が楽かと思いまして」


 全員が口を閉ざす。


『これのせいで我は肝心な時にこられなかったのだ!』


『もうもうもうもうっ!』


『スー・・・牛』


 ケルちゃん、スーちゃん、ベロちゃんは足をダシダシと踏み鳴らし、ふとオブジェに気が付いて目を輝かせた。


『これなら我も何とかできる!』


 叫ぶなり、巨大化したケルベロスは、そのままあんぐりと口を開け、あっと思った時には…。


 ごっくん


「・・・・飲み込んじゃいましゅたね」


「腹壊すぞ」


「そう言う問題じゃないと思うけど…」


 ハーンとヘイムダールが掛け合いをし、そしてさらにケルベロスは…。


『うぐっ』


 うごっうごっと喉を鳴らす。


「ましゃか!」


 私が叫んだ時には、ケルベロスは盛大にリバースしていた。

 

「ゲロリンでしゅー!」


 なんと! 


 リバースされたオブジェは、レイゼンの姿をしておりました。


 ・・・・レイゼンは、産業廃棄物改め、ケルちゃんズの…リバース物体になりました。

 

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