150話 小さな魔女の大きな…
「ん?」
魔力を開放し、城に触手を伸ばすように魔力を広げていくと、そのまま魔力の繋がりを見つけて首を傾げる。
これはひょっとして塔を繋ぐ魔法の線?
しばし逡巡したのち、それも分断することに決めた。
「ではでは、始めちょろちょろ、中ぱっぱで行きます」
ふわりと銀色の光が外へと広がる。
すると、ただ立ち尽くしていただけのレイゼンの足元を埋め尽くすスライムがうねりを上げて襲いかかってくるのが見えた。
見えても動くことができないのでどうすることもできないのだけれど…。
見つめていると、スライムに向けて老人達と羊達が突っ込んでいく!
そして!
「「「「うおぉぉぉぉっ!」」」」」
痛みで呻いていたはずの男子生徒から滂沱の涙と、痛みとは違う呻き声が響き渡った。
何が起きたかというと…
スライム進軍、羊と老人達の特攻…そして、スライムに飛び込んだ瞬間…、
丸裸。
すっぽんぽんである。しかもなぜか羊も老人達もどこからか取り出したしおしおのバラを口に咥えてポーズをとっているのだ。
青年達が痛みを越える苦痛に叫んだのも納得できるだろう。
「女生徒が丸裸ならば、痛みを忘れて喰いつくかもしれませんがねぇ」
思わずうんうんと頷いてしまった。
これが姉様なら、魔法発動も忘れてかぶりつきで見ていたかもしれない。もしくは…我がハーレム要員ならば。
「ぐふふふふふふっ」
おっといかん、ヨダレと笑いが漏れてしまった。
「シャナ、真面目にやれ、真面目にっ」
ディアスに突っ込まれ、私はきっと彼を睨む。
「あれが姉様なら、とディアスも思うでしょう!?」
叫ぶと、ディアスはギシッと硬直して目を逸らす。
表情に出すようでは、ディアスもまだまだですね。
そんなやり取りの横で、老人達は裸体で興奮気味に踊っている。
「さすがは人の心じゃ!」
「これは煩悩のなせる業じゃな!」
「わしらのヌードが見たいとは!」
「存分に眺めるがよい!」
「開脚!」
「「待てぇい!」」
開脚の言葉に、さすがに男子生徒達も痛みを忘れて涙ながらに叫んだ。
まぁ…確かにそれは遠慮こうむりたい…。
だが、老人や羊が飛び込んだせいなのか、スライムが少しその規模を小さくした。老人達のオールヌードにドン引きした…ということはないとは思うが、老人達に言わせるとスライムは人の心からできているようなので、煩悩で老人達を裸にし、恐怖で小さくなる…ということはあるかもしれない。
そうこうしているうちに、レイゼンの姿がドロリと解け、髑髏を飲み込んで、黒いスライムへと変化した。
「レイゼンが産業廃棄物にー!」
思わず悲鳴を上げると、黒いスライムはものすごい勢いでこちらへ近づいてくる。
それにはファルグ、ハーン、シェールが私との間に割り込み、それぞれが魔力を使って攻撃した。
「シャナ、急げっ!」
ハーンが周りを見ながら叫ぶ。
余計なことに気をとられたが、周りを見れば、先程ツッコミを入れた男子生徒達もかなり苦しみだし、人によっては血を吐き出す者の姿も見られた。長引けばたくさんの人が死ぬだろう。
現に、大陸に住まう者達の命の魔力を吸い上げて、レイゼンの張った魔法陣は魔力を増しているのだ。
私は頷くと目を閉じ、力を体の中に集束するイメージを作る。すると、広がっていた銀色の光と風が私の中に一度収まる。
次に目を開くと、魔力は一気に爆発し、アルディス、ディアス、ノルディーク、ヘイムダール、ナーシャがその力に押されてわずかに後ろに下がった。
「5人がかりでもこれほどの威力なのっ」
私の目の前は光で全く見えなくなる。私自身の意識もはっきりとしていないトランス状態だ。
少しずつ、少しずつ大きくなる魔力に、5人の塔の主、元塔の主達、特に今は精霊となった状態のナーシャは悲鳴を上げた。
知識や経験の記憶はあっても、魔力が足りないのだ。
「あの子はどこ行ったのですっ」
ナーシャが悲鳴を上げると、そのナーシャの隣にスライムまみれの男が立った。
「ここにいます…」
声の響きからしてセアンである。
「まぁっ、なんという格好なのですセアン! いくら変態だからと言って裸体で来るとは何事ですかっ」
精霊ナーシャはセアンの裸を見下ろして非難した。
「…我が姫のために、上から颯爽と登場したら、足元にスライムがいたんです」
「…なんという…間抜けの子…。まぁ、そんなことはよろしいわ。ほら、フォローに入って、大陸中の人間を守るために力を振るいなさい!」
「裸で!?」
「あなたの間抜けをフォローはしません!」
ぴしゃりと言い放つナーシャに、セアンはガクリと項垂れ、裸体のまま魔力を振るった。
私の意識はこの時うっすらとしかなかったが、全員の魔力を感知すると、そのまま一気に全ての魔力を解き放つ!
「「「うっ」」」」
「冗談だろう!」
「少しは周りを考えないか、この暴走娘!」
3人が呻き声を上げ、セアンが悲鳴を上げ、ディアスが叫ぶと同時に、パルティアの城は光の柱に包まれた。
その日、光は一気に4つの塔を結び、大陸全土が輝いたと歴史には記されている・・・・。
光は風と共に大陸に吹き荒れ、全てを浄化した。
きっと、死した者の苦しみや悲しみも・・・・。
と、綺麗なことを言ったが、実際はシャナの暴走により、世界はこの日、初代塔の主達によるちゅどーん事件を再現した形となった。
唯一の救いは、他の塔の主達により人々の命が救われたことだったが…、世界はここから新たなスタートを否応なしに切る事になったのであった。
「この、ちっさい魔女めっ…」
必要以上の魔力を使い、小さくなったシャナを見て、吐き捨てるように言って倒れたのは、塔の主か、それとも王族達であったのかは、誰も知らない…。
小さな魔女の大きな破壊…。




