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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
145/160

144話 衝突

「わしらも活躍するのじゃ~!」


 どかどかと大量に駆けこんできたのは人面羊、ただでさえ人が多く、狭く感じた広間がさらに狭くなった。


「美形でしゅ!」


 ミニシャナ軍団が羊に襲いかかる。


「おぉ、わしらが美形となっ」


 羊と吸い取る君の邂逅・・・・。

 しかし、「美形でしゅ」としか話さない吸い取る君は、次の瞬間羊の顔に噛みつき、羊は大騒ぎ。


「シャナ」


「はい?」


「あの羊もどきは何だ? 敵か?」


 ハーンによる恒例の質問ですね。

 私はちらっとアルディスを見ながら胸を張って答える。


「あれはでしゅね、塔の初代主でしゅ。全ての元凶でしゅ」


 アルディスの顔から表情が抜け落ちた。

 そうね、皆こんな反応するよね。


 ついでにハーンを見上げると、彼はなんだか納得しているようだ。


「ハーン?」


 ついついとズボンを引っ張ると、ハーンは答える。


「あれが最初の塔の主なら、主達がおかしいのも納得できるなと。あんなのが一緒に住んでたら狂うだろう?」


 なるほど、そういう意味ですか。

 ん? 主達がおかしいって、それって今も(・・)という意味ですかね?


 ギランッと目を輝かせてハーンを睨むと、すぐ傍でぼとっと何かが落ちる音がしてそちらを見やる。すると、そこにいたのは、鞭を床に落とし、ふるふると震える赤毛のドリルヘアなアデラさん・・・。

 

「…塔」


 ん? なんですかね。ぼそりと言われてよく聞こえませんでしたが。


「塔と言いましたわねっ。ついに聞きましたわよ! 私の愛する物語! 塔の主とお姫様物語! その塔の主ですって!?」


 地獄耳です。

 ついに第三者…といっても王族なので問題ないかもしれないけれど、塔の主のことが漏れてしまったような…そうでもないような…。

 ちなみに、塔の主とお姫様物語というのは、誰かが作った創作物語で、塔の主がお姫様を救いだすというどこにでもあるヒーロー、ヒロインのお話である。


 アデラは興奮気味に身を乗り出し、きょろきょろと辺りを見回した。

 

「どれがセレンディアだというの!?」


 その名前はノルディークのことですよ、アデラさん。


 そういえば物語の多くは、最強で名を馳せるノルディークの名が有名だった。

 何をして物語にされるようになったのかは謎だけれど。


「あ~、シャナ?」


 ハーンはこれどうする? という目で私を見つめ、私は遠い目でアデラにわかるよう、羊達を指さした。


「あちらに見えましゅのが~、かつての塔の主でございましゅ」


 ギラリと目を輝かせたアデラは、そのまま羊をその視界に捕え、捕えた瞬間…ズドンッと落ち込んだ。


「戻ってこれましぇんね」


「王族の辿る道じゃないか?」


 アルディスも塔の主であるのに冷たい。この反応はひょっとして、幻滅されたことがあるのだろうか?


 しかし、そこで終わるアデラではなく、彼女は笑いながら立ち上がると、そのまま鞭を握りしめ、バシンッと床を打った。


「夢を見る時代は終わりですわっ。そこな羊達! 魔族に鉄槌を下す手伝いをなさい! これは私のミスでもあります!」


 魔族に協力を仰いだ分、敵に回られて責任を感じていたらしい。

 アデラは見事な羊飼いと化した。使うのは鞭なのでかなり危険だ。時折羊達から「クセになるのじゃっ」というおかしなセリフが聞こえてくる。


「さすがはノーグの王族。あのおっさんの娘だな。ただでは起き上がらん」


 そのオッサンを昔殺しに行ったというハーンは、アデラを見ながら感心するように肯いた。

 暗殺者を差し向ける息子といい、高飛車で思い込みが激しい娘といい、ノーグの教育って一体…。


 

 いかんいかん、余計なものに目をやりすぎてレイゼンを忘れるところ…。


「あり?」


 ちょっと目を離した隙に、レイゼンの姿が見えないではないか。


 ソフィアはノルディークと戦っている。

 エロ顔魔族は羊に追いかけまわされ、ついでに合流したシャンティ、オリン、アルフレッドの三人に取り囲まれた。

 だが…レイゼンは?


「アルしゃん…」


 ひょっとして亜空間かとアルディスを振り返れば、ふと感じる嫌な予感に、私は背をのけぞらせた。


「わひょっ」


 目の前に突然剣の刃が現れた。

 間一髪だ。といっても、ハーンがすでに私の襟首を掴んでいたが。

 相変わらず勘が鋭いですな。しかし、今の私も勘が鋭いのですよ。何しろ酔いどれオヤジです。酔拳が使えるのです(イメージで)。


「かかってくるでしゅよっ」


 のらぁりくらぁりと動き、亜空間から飛び出す剣をひょいひょいと避ける。

 これぞ酔拳。やればできるじゃないか、私! さすがはチート。


 が、疲れます。

 いつもしない動きに早々に音を上げた。


「だれかぁぁ、なんとかぁぁぁ、してくだしゃいぃぃぃぃ」


 反撃できないことに気が付きました。何しろ相手は亜空間。避けるだけで精いっぱいだ。

 肝心なアルディスは、知識はあれど、やはり先代の時に多くの力を失っているのか、亜空間は使えないらしい。


「うぉっと」


 さすがに疲れたらしく、私のバランスが崩れた。

 その瞬間を逃さず剣が襲いかかる。


「ま、おちびでも未来のお姫様だからな」


 と、私の目の前で、ヒーローのごとく颯爽と真剣白刃どりを披露したのは、ストーカー騎士セアンだ。位置が低いせいか、彼は自分の足の間で止めるという姿で、はたから見るとちょっと間抜けだ。

 彼は剣をそのままずいっと引っ張り、亜空間からレイゼンを…。


「うぉ?」


 ずるっと亜空間から出てきたのは、例のマーブルなスライムだった。しかも、今度は巨大。

 ぼちょんと飛び出たマーブルスライムは、もごもごと動いた後、思い切りはじけ飛び、広間中に飛び散った。


 天井、床、壁、ありとあらゆるところに飛び散ったスライムから、かなり高い魔法の力を感じる。

 いや、魔法の力だけではなくて…。

 見つめていると、スライムの体の上に幾つもの複雑な魔法陣が描かれていく。

 

「まずいな」


 ファルグがぽつりと呟き、町の者達を逃がしていた騎士達数名と、兄様が外から現れて叫んだ。


「町の上空に魔法陣だ!」


「ナーシャ様が国が吹っ飛ぶと言っている!」


 どうやらナーシャは外にいたらしい。

 塔の主達は一斉に動き、窓から空を見上げた。

 

 赤黒い魔法陣が、城を中心にした位置で広範囲に渡り描かれている。

 そして、その魔法陣の中心にはぶよぶよしたスライムの親玉が。


「イカンのー、あれは遠い昔に滅んだ殲滅魔法じゃの」


 ミニシャナに齧られている人面羊を見て、私はぎょっとして仰け反った。


「なんでしゅとっ!?」


「美形でしゅっ」


 羊に喰いついていたミニシャナは、役目を終えたとばかりにポロリとはがれて消えゆき、人面羊の顔部分、噛まれた額には何と、ハート形の噛み痕がくっきりはっきりと残った。ある意味恥ずかしい…。


「うぅむ、この生物についてはぜひ調べさせてもらいたいものじゃが、それどころではないのー」


 そう告げる老人達の顔は、ミニシャナが剥がれていく度に若返り、美形に変化していく。

 つまり! 吸い取る君10号は、美形を狙うのではなく、少々おかしな者を狙って噛みつき、美形に変える性質を持つのだ!


 えぇと…これに何の得があるのだろう?

 と首を傾げると、顏だけ美形な羊は、10秒で元の残念な顏に戻った。


「はぁ、ほんとに残念じゃ。それはともかく・・・・。あの生物に齧られると貧血になるのぅ」

 

 ちゃんと、本来の役目である魔力は吸い取っているらしい。


「それどころじゃないぞ! 発動するぞい!」

 

 人面羊が悲鳴を上げた。

 余計なことに気をとられている間に、空の魔法陣が赤く禍々しく輝き、私はダカダカ走ると、千歳飴を拾い、床に円を描いた。


「んでは皆しゃま。耐ショックでしゅ!」


 ぼっという音とともに、千歳飴で描いた白い魔法陣から白い炎が立ち上り、複雑な魔法陣が円の中を埋め尽くす。

 そして、空から禍々しい光が降り注いだ瞬間、こちらも真っ白の光を空に向けて解き放った!


「「「何するか先に言いなさいよ!」」」


 学生達から苦情が来ましたが、急ぎだったので受け付けませんよ。

 

 私の魔法は、真っ向からぶよぶよの放った殲滅魔法とぶつかり、王都中に爆風を引き起こしたのだった。



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