142話 シャナ参戦!
学園の魔物があらかた片付き、続々と戦力が城に集結していく。
当然私もそちらに向かったのだけれど、何というか…、ここにもすごい人々が…。
「私達はボスを探した方が早そうでしゅね」
ノルディークに抱っこされて移動してきたが、城の門前に辿り着いた私が見たのは、なぜかリンスター家のメイドさんと、リンスター家で何度か見た顔なのだが、着ているメイド服はここ最近流行りだした町のメイド喫茶の、ゴスロリメイド服を着たメイドさんによる乱舞だった。
ペインッ パインッ
とゴスロリメイドさんが振るうのは…喫茶店でよく見られるあの銀トレーだ。
攻撃力は低そうだけれど、何か魔法的な効果が付いているのか、魔物達が一瞬で眠りに落ちる。そこを羊達が踏み抜く、もしくは老人5羊が爆発するという連携攻撃だ。
「仲イイでしゅね…」
「そう言う問題じゃないと思うよ…」
珍しくノルディークに突っ込まれましたよ。
ついでと言っては何ですが、ディアス達もおりましたので、来ましたよ~と言う合図で、手を振っておきました。
それにしても、肝心の敵を追って行ったというハーンはどこに…。
きょろきょろと辺りを見回している間にも、ノルディークは戦闘に参加しており、周りで魔物が飛んでいる。彼は魔法も使うが、剣も華麗にこなして魔物を寄せ付けない。なので安心してしがみ付き、辺りを確認するのは私の仕事なのだが・・。
ひゅんっ
目の前を銀トレーがフリスビーのごとく飛んでいき、思わずのけぞった。もちろん当たるような軌道ではないので、びっくりしただけですが。
銀トレーが当たったのは空飛ぶ魔物だ。
いつの間にか上空には空を飛ぶ魔物まであらわれはじめていたらしい。
「乱れ打ち!」
パパパパパパパインッ
銀トレーの音が響いてきます。
・・・このノリは、ひょっとしなくても突っ込み隊の一人ですね。こちらにもいたようです。
「なんだこの羊は!」
ディアスの叫び声が響いた。どうやら彼は羊の顔を初めて見たらしい。「まぁ」と驚く姉様を庇い、剣を振り上げ…。
「わしらは初代の塔の主じゃーっ!」
「伝説の主じゃー!」
「敬え~!」
「称えよ~!」
「されば爆発じゃー!」
ディアスは何も言わず、無表情で剣を振り下ろした。
うんうん、気持ちはわかりますよ。そして何匹倒しても増殖するので気になさらず…。ちなみに血も出ません。消えるだけです。
というか、なぜこうも増殖しているのだろう? まるで吸い取る君のような。
あ、今、思い出してはいけないものを思い出してしまった。
忘れよう。あのヒルのことは忘れよう。でないと出てきてしまう気がするの。
「ハーンはどこでしゅかね?」
気を取り直して辺りを見回すと、見てはいけないものが目に入った。
それは、兵士達が点々と倒れている…正面ではない入り口。
まさか、すでに侵入を果たしているのだろうか。
「ノルしゃん! あっちでしゅ!」
私が叫び、ノルディークが入り口を確認して、移動しようとしたその瞬間。リンスター家メイドがすっと現れ、私を奪い取り、サササッとメイキングしていく。
かつらがはずれないように、と頭に巻かれていたらしいねじり鉢巻きはネクタイに変えられ、、私の頬には朱色が多めにはたかれ、手には寿司折りが…。
「ましゃか…」
「テーマは酔いどれでございます、お嬢様。そのス~シ折りには残念ながらスシ~ではなく、衣装が入っているそうなので、いざという時お開け下さいと言う奥様からの指示です」
寿司の発音が微妙ね、メイドさん。
それにしても、この局面で酔いどれを演じろと!?
母様無茶ぶりです。
まぁ、とりあえず…酔拳でも披露しますかね。チートなのですからやってやれぬことはないでしょう!
メイドと目を合わせ、コクリと頷くと、両手を伸ばしてノルディークの元に戻った。
ノルディークに微妙な表情をされましたが、これはこれで可愛いのです! そう思ってもらいますよ!
「急ごう」
あえて何も言わないノルディークであった。
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城の中は、外と違い、明らかに人間側が劣勢であった。
倒れる兵士達。逃げ惑う臣下達。全員を助けながらでは前に進めないため、私は振り返る。
「ヘイン君!」
「大丈夫、外のディアスには連絡がいっているはずだから応援は来るよ」
その言葉を信じ、学生達も追ってくるはずなのでと、とりあえず目につく魔物を倒し、一部の人々を救いながら先へ進む。
「魔族がいましぇん」
「アルディスやハーンもね」
セアンのことは言わないのねノルディーク…。
それはともかく、被害が多くなる方へと進んでいくと、人の悲鳴と叫び声と、会話のようなものが耳に飛び込んできた。
「どういうつもりですの! あなた方は私達を守るのが今回のお仕事でしょう!」
燐とした声はおそらく赤毛のくるくるドリルヘアなアデラだ。相変わらず勝気な口調であるが、焦っている声音からして、あまり状況はよくないのだろう。
「レイゼン王!」
次に叫んだのは…おそらくこの国の王様だ。久しぶりに聞いた声なので、おそらくとしか言いようがないけれど。
「父上!」
これは間違いなくカエンだろう。そこそこ気になる美形の声は間違えませんよ。
「すでに国はない。私もお前も、すでに王でも王族でもなかろうよ」
どういう意味だろう?
と、考えている暇すらなかった。
私達は部屋に飛び込み、ざっと周りを見回し、瞬時に状況を読み取った。
部屋は避難用に用意された大広間。
裏から少しずつ兄様と王太子クラウスが町の者を逃がしているが、まだまだ町の者は残っている。そして、そんな彼等を取り囲んでいるのは、死んだ目をした魔族、魔物、レイゼンとエロ顔魔族、そして偽物のソフィア。
一方、敵に対峙して時間を稼いでいるのは、この国の王。彼と、町の者を守るように武器を構えるのは騎士と、アデラ、レイゼンの息子カエン、娘であるおかっぱ美女カティア、この国の第2王子ルインと、アルディス、ハーン、セアン、魔王ファルグだ。
「ルアールは小さい。だが、良い贄になった。この顔ならば油断を誘えて実に簡単だった」
「下種めが、ルアールの人間の魂をくったか…」
ファルグの言葉に、背筋がぞっとしてきゅっとノルディークに捕まる。
つまり、レイゼンは…いや、彼の中のマーブル魂は、力の回復のためにレイゼンを利用し、己の力をルアール国の人間の魂で補充したのだ。
ルアールの国は…。
「お前の目的は何だ!」
カエンは怒鳴る。
みすみす国を失った自分にも、父親の顔をした化け物にも腹を立てているようだ。もちろんその後ろに控えるカティアも同じようだ。カティアの、先祖がえりである薄い紫の瞳が、魔力を帯びてほんの少し濃い色に染まっている。
「・・・・目的?」
低く、しゃがれた様なその声に、背筋がぞわっとする。
「そのようなものはない。あるとしたら、この私が完全なるものになることだな!」
笑うレイゼンに、私はぽかんと口を開け、がさごそとピンクの腹巻を漁り、あるものを掴むと、ノルディークから飛び降りた。
「シャナ?」
両足でしっかと地面を踏みしめ、手にしたのはおいちゃん必須のアイテム、飴ちゃん!
しかし、私は3歳児バージョンなので、飴ちゃんも千歳飴だ。
「レイゼン!」
叫ぶと、広間に凛とした私の声が響き渡り、レイゼンはゆっくりと振り返り…
「飴ちゃんお食べ~でしゅ!」
その横っ面に、如意棒のごとく、魔法で巨大化した千歳飴をぶち込んでやりました!
「ぐっ」
レイゼンは床に吹っ飛び、私はふんっと鼻息を出すと、どうだとばかりに腰に手を当てて胸を張ったのだった。
姿は酔いどれのおいちゃんなので格好は付かないけれど…。
奥さん復活という目的も忘れた馬鹿オヤジは、この私が倒してあげますからね、本物のソフィアちゃんっ!
心の中で誓うと、ほんの少し押され気味だった皆を元気づけるように、レイゼン達にびしりと指を向けて宣言した。
「さぁ、シャナちゃまのお仕置きタイムでしゅよっ」
私、お怒りモードですっ!
覚悟なさい!




