140話 魔物と恐ろしい仲間達?
ばぁんっ! と激しい音を立てて館の扉が開き、何十匹もの人面羊が飛び出す。
そんな様子を思わず遠い目で見つめてしまったのは無理のないこと…と自分に言い聞かせ、玄関の見えるホールの二階手すり部分で、彼等を見送った後、振り返ってずらりと並ぶメイド達にびくっと身を震わせた。
「お、お嬢様。お小さいままでのお帰りを楽しみにしておりましたわ」
なぜか武器を手にしたメイド達は、息を荒げながら目を輝かせる。
な…何があったのですかね…?
チラチラと屋敷内を確認すれば、所々に汚れの跡が点々としていた。
我が家のメイドさん達が汚れを見過ごすとは思えないので、きっと何かあったのでしょう…ね。
「シャナ。ノルディーク達も戻った…。と、何かあった?」
ヘイムダールがノルディークとファルグを連れて部屋から出てきたところで、メイドに取り囲まれる私を見て思わず足を止めた。
その間にも、興奮気味のメイド達は私を剥き、新し衣装を着せる。
見てないで止めてくれませんかね…。なんだか怪しい衣装をお着替えさせられておるのですよ。
その着替え風景を見せないように、壁を作ったのは執事達。彼等も背に武器を背負っている。
ほんとに何があったというのか。館の人々が戦闘態勢なんて。
執事達はノルディーク達の前で一礼した。
「お帰りなさいませ皆様。簡単に説明させていただきますが。町が魔物の襲撃にあっております」
「魔物でしゅとっ!?」
確かに先程人面羊がそんなことを言っていたけれど…、本当に魔物が出現していたとは…。
「それでシャナの護衛が疎かに?」
ノルディークからひんやりとした冷気が流れる。
確かに怪しいスライムに襲われましたが、それを言うならノルディークも間に合っておりませんよ。
執事達は一瞬ひるんだが、いつものように仕事の顔で答えた。
「見ていただければわかります。すぐにお出になりますか?」
ノルディークは頷き、彼等は手すりを飛び越えてダイレクトに一階へと降りて行った。
ヒーロー! リアルヒーロー達!
私は、慌てて階段を使って彼等の後を追いかけていくのであった。
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「なんでしゅか、これは?」
魔物大量発生~。
見渡す限り魔物、魔物、魔物!
館の扉を開いた瞬間。目の前に広がったのは魔物だらけの庭。そして、その庭で大暴れしているのは精霊ナーシャと、ディアスと、その横に控える姉様と、父様、母様チーム。
「シャナ! 目が覚めたのね!」
魔法で魔物達を弾き飛ばすが、次から次へと湧いてくるために動けない母様。
母様だけではない。全員同じ状態だ。
ディアスは、相当な威力の魔法で弾き飛ばしているのに、追いつかない状態のようだ。
「これは一体・・・」
呆然とヘイムダールが呟く。
「魔力の出所はわかりますか?」
ノルディークがヘイムダールに向けて尋ねれば、ヘイムダールは首を横に振った。
元々魔物にはそれなりの魔力があるのだが、数が多すぎてあらゆる場所で魔力を感知でき、どこから溢れているかということが全くつかめない状態らしい。
「町へ頼む! 学生が頑張っているはずだ!」
ディアスが声を張り上げ、私達は全員肯いて魔物の群れの中を突進した。
「おぉぉぉぉ~。もみくちゃにされましゅ~」
右へ~。左へ~。
この小さい体では、魔物の群れに突っ込むともみくちゃにされるようで、あっちへ飛ばされ、こっちへ飛ばされ。
当初の予定では、魔物の足の間をすり抜けてすいすい~ッと思ったのだが、甘かったっっ。
魔物の足は短かったのだ!
町へ出る前にずたぼろになりそうな私を、ひょいっと持ち上げたのはファルグである。彼は私を肩車し、前方を指差した。
「道は作れるな?」
そう言うことならお任せだ。
うんと頷き、私は魔法を放つ。もちろんシャンティさん直伝の光魔法だ。
しかし…
どぉぉぉぉぉぉんっ!
館から門までの道に巨大な光線が現れ、門を破壊して先の道へと吸い込まれるように消えていく…。
ものすごい威力なのですが…ナゼ?
「ありぇ~?」
驚いたのは私だけでは無く、ノルディーク達も目をぱちくりさせた。
「ひょっとして、佐奈との融合で、魔力は安定したが、威力も増したのではないか?」
ファルグが呆れながらも説明してくれる。
なるほど…。て、それはイイことなんですかね??
「そのことについては後で聞かせて貰うとして、先を急ごう。皆が心配だ」
ヘイムダールが飛び出し、私達はようやく町へと飛び出した。
町中の魔物はよくよく見れば同じ方向へと進んでいた。
私達は屋根の上を通り、その魔物の進む先を目指す。
進む先は学園だ。
町中には要所要所に学生の影があり、彼等が魔物達を学園に向けて誘導していたのだ。
ならばと一番魔物の集まる学園へ向かい。その学園に辿り着くと…。
「皆さん、ご注意ください!」
「巻き添え必死!」
ま…巻き添え必死!?
「けが人はこちらへ~!」
「いやっ、俺は怪我してない! ケガはしてないぞ!」
そこそこ優勢に見える味方の方が、なぜか悲鳴を上げていた…。
何事?
「全員退避~!」
学園の庭では、攻撃に出ていたとみられる生徒達が、うわぁぁぁっと叫びながら必死の形相で後ろへ下がったかと思うと、どぉぉぉんっと爆発が起こった。
熱風が駆け抜けたかと思うと、どすどすと金属片らしきものが魔物達に襲いかかる。
ま…魔物のミンチ?
まぁ、広範囲魔法ならば危ないから巻き添え必死というのはわかる気もする。しかし…これは…巻き添え喰らったら確実に死ぬ気もしますよ…?
思わずぽかんと見つめれば、今度は私達の立つ場所に魔物がズバンズバンッと飛んでくる。
これまた何事?
思わず目をぱちくりさせれば、『ぴこんっぴこんっ』という軽快な音。
うむ、あれはピコハンマスターと見た。
あの殺人爆風を避けてさらに魔物を攻撃しているらしい。
続いて聞こえてくるのは『スパーンッ、パシーンッ』という突込み音。じゃなくて、ハリセンの音。
遠目ですが、あれは…。
「花魁でしゅかね?」
戦場になぜか花魁の姿。
こちらも魔物を飛ばしておりますが、時々人間も飛ばしております。
逃げ遅れた人を救助…してるとみていいのだろうか。
「めーん、どー、やー!」
おぉっ、いつの間にやら傍には竹刀を持った生徒が一人。竹刀なのに魔物をかち割りそうな勢いで振るっております。
気のせいですかね? 叫ぶ言葉が「面倒や」と聞こえるのは…。
さらにさらにっ!
ずばばばばばっと円を描きつつ、一気に敵をなぎ倒したのは。金砕棒…別名・鬼の金棒を振り回した少女。
ふ~っと一息ついてますが…、仲間も打ち取られましたよ。いいの!?
思わず見入ってしまましたが、どうやら我が悪友達が活躍中。
とりあえず外は大丈夫そうなので(巻き込まれそうなので)、私は治療部隊の様子を見に行こうかと考えたそのとき、丁度吹っ飛ばされた生徒達がタンカに乗せられるところだった。
着いて行くとしましょう。
「俺・・俺は怪我してないぞ~!」
タンカに乗せられた生徒は、腕から血を流しながらなぜかそんなことを言う。
首を傾げながら彼に続いて救護室に飛び込むと、響いてきたのはゴリゴリゴリっという鈍い音。
「な…なんでしゅか?」
次から次へと外に出ていく生徒達は皆死人のような表情だが、ケガは治っているように見える。
人々の足元をすり抜け、治療室を覗き込むと。巨大なドリルを持ったナース姿の男性生徒が、血やら体液やらをまき散らし、ドリルにてケガ人にさらなる穴をあけていた。
「うああああああ~!」
上がる悲鳴。しかし、患者が気絶すると「ハイ終わり」という声が響く。
運び出されていった患者の傷は…癒されている…。
「お、おれは治療の必要はないんだー!」
お、タンカに乗せられていた生徒が逃げました!
と、振り返った私の横を一陣の風が通り過ぎ、生徒は私の目の前でナースの男性生徒に捕まっていた。
「ま…ましゃか…あのハイヒールは…」
母様がコレクションしていた闇商人からの贈り物その55の、加速装置つきなのでは…。
そのまま生徒はずるずると引きずられて治療室へと消える。
「ぎゃあぁぁ!」
「大丈夫~」
再び治療? が始まった…。
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誰か、このカオスな戦場の説明プリーズ。




