表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
139/160

138話 融合と…牛

 何とも言えない気分で一度水車小屋から出ると、佐奈は腕を組み、怒りの形相で老人達に尋ねた。

 そう、老人達にだ。

 

 彼等はすでに人に戻っており、見分けは髭の長さと、それに身長が加わった。

 老人1は佐奈より少し高いくらい。160ぐらいだろうか、そこから10センチずつ上がり、老人5は2メートルを越える。


 が、そんな変化も現在の私達を驚かせることはできない。


『どうして最初に言わなかったの? 場所もそうだけど、彼女のことも』


 老人達はうんうんと頷く。


「忘れておったからじゃの」


 確かに最初の頃の質問にはたぶん、とか、おそらくが付いていた。

 佐奈は応えた老人1のほっぺをばちっと両手で挟み、潰した状態で凄む。


『じゃあ、思い出したのはなーぜーかーしーら?』


「そ、それはのー」


「魔力じゃよ」


 すらっと答えたのはなんと五番目の老人である。

 佐奈は手を離し私達は彼に促され、水車小屋の入り口わきに座った。

 その際、レジャーシートとお茶を用意するのを忘れない。


 ちなみにそのことについて突っ込む人は誰もいなかったのでちょっと寂し…いやいやいや、それだとこのおじーちゃんズと同じ状態になってしまう。うん、これでいいのよ、これで。


 ポットからお茶を注ぎ、気分を落ち着かせた。相変わらず味が微妙だけど。


「ちっこいのとねーちゃんは魔力が高い。その魔力を少しずつこの世界が吸収し、彼女、オリジナルのソフィアに力が供給されたのじゃろう」


 再び順番に老人達は話し始めた。


「そうするとのぅ、もともと望まずに魂を融合しておったソフィアが、わしらを解放したのじゃ。魂の中でも会話ができるわしらをな」


「そして、魔力が増えることでわしらもこうして人型をとりもどせた。…というのは置いておいて、彼女の望みは一つじゃ」

 

 佐奈にじろりと睨まれた老人2が、あわててソフィアについての話に戻す。

 私達はちらりと薄暗い水車小屋の入り口を見つめた。


「魂の解放…か。まぁ、確かにあんな姿では保存とは言えないだろうしな。女として辛いだろう」


 ファルグの言葉に佐奈も頷く。

 老人達のいう保存。それがあの状態では、たとえレイゼンの中にいる魂が復活させても、正常でいられるかわからない。


「3代目はのぅ、はじめの頃はきちんと保存しておったんじゃ。あまり良いとは言えんが多くの人間を殺してまで魂を供給し、彼女を若い頃の姿で保存しておった」


 「これは推測じゃが」と5番目が続ける。


「複製を作って、何度も何度もソフィアとは別の誰かが生まれるたびに、そなたたちの言うマーブル魂の主人格である3代目もおかしくなったのじゃろう。そうしているうちに、どうやら魔力と魂の供給は、オリジナルではなく、複製にのみ注がれるようになったようじゃ」


 そして、本物であるソフィアはいつしかその姿を隠し、水車小屋も見えなくなっていった。

 私達が水車小屋に最初に気が付かなかったのは、元々姿が見えないようにしてあったから。

 近くに来て見えるようになったのは、私達の魔力がオリジナルのソフィアに少しでも流れ込み、彼女が望んだことで、見えるようにしてくれたからだ。


「放っておいても彼女は滅んだろうに」


 さすがは魔王。ファルグはあっさりと冷たい事実を告げる。


「滅んだが、あの子は優しい子じゃ。自分の為に始まった悲劇が、永遠に続くのを止めようとしたのじゃろう」


「勝手な話だ。死の間際になって他の人間が死ぬのが嫌だとでも?」


「はじめからあのこは望まんかったと思うぞ。…目が覚めて、他の人間を犠牲にしている事実を知ったんじゃ。だが、知っても何もできんかった。すでに彼女の魂の力が枯渇しておったからのぅ」


 ところが、今回何かの理由がきっかけで私達を呼び出すことができ、魔力を吸い取って自分の代わりに老人達に話をさせることに成功したということのようだ。

 

『でも、問題の原因が消えたところで、レイゼンの中の3代目はそのままでしょう?』


「下手をすればレイゼンの中の魂が狂う…でしょうか」


 ノルディークも深刻そうに推理する。


「そこはわしらが何とかしよう」


 どんっと老人1が胸を叩き、その後ろで老人2と3がごそごそと4に何かを施している。

 絶対ロクな事じゃないと見つめていると、なぜか布で隠された4が立ち上がり、2と3がその布を取り払った。


「「じゃじゃ~ん!」」


「ノリが限りなくシャナに似ている気がするな」


「どういう意味でしゅか」


 ファルグを睨んだ後、その光景を目にして、私は思わずブフーッとお茶を吹き出した。


「御父様止めてください。ソフィアは悲しい…」


 老人4は緑の髪のかつらを被り、ワンピースを着た姿で儚げを目指して手を合わせ、演技した。


『どこに髭の娘がおるかー!』


「ビジュアル汚しでしゅー!」


 すぱぁぁんっと友人直伝のハリセンを炸裂させました。





 老人4は瀕死状態で放置しました。


「ま、まぁ、今のは冗談じゃが、あちらにはわしらの魂も混ざっておるし、なんとかなるじゃろ」


 ぴくぴく動く老人4をチラチラ見ながら老人1が告げる。


「ノリが軽くて信用できましぇん」


 じとっと睨めば、老人達はそれをあっさり無視した。


「そうと決まれば善は急げじゃ。嬢ちゃん方や。わしらの魂をその体に寄生させてくれんかの」


 老人の言葉に、ぞわっと鳥肌が立つ。


「『寄生は嫌』でしゅっ」


 私と佐奈は拒否し、老人達はふむと考え込む。


「しかしのぅ、今のままではイカンぞい。一つの体に二つ魂を入れておっては、魔力が安定せんのじゃ」


 拒否は無視ですかっ!?


「それは…」


 ノルディークが老人2の言葉に食いついた。

 どこに食いつきポイントがありましたかね?


「嬢ちゃん。ここでさっさと融合するのじゃ」


 えぇと…いきなりだけれど、それってつまり?

 私と佐奈が見つめあって首を傾げると、老人達はうんうんと肯いた。


「そうすることで魔力も安定し、お肌むちむちの美女に生まれ変わるぞい」


 それは誘惑の甘い罠というやつです! 美は女性の…特に30代以降の女性にとって、もっとも気にすべき事柄! (個人差があります)。


「しょれはレッツ融合タイムでしゅ!」


『お肌むちむちね!』


 私と佐奈はパンッと両手を合わせ合い、すっと目を閉じた。

 やり方は知らないけれど、こうだと感じるままに動けば、体の中に佐奈の魂が溶け込む感触がして、さらに魔力が膨れ上がった。


 そして、目を開ければ、むちむちお肌が手に入るという寸法ですよ。

 しかし…


 ん??


「なるほど、嬢ちゃんの主人格はお子ちゃまの方じゃったか」


「それはすまんかったの」


「まぁ、ここにおる間だけじゃ。我慢すると良い」



 ・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・


「だぅ?」


 じっと手を見つめれば、確かに、むちむちのお肌…。

 て…


「だうだだだだだだあ~!(これは赤ん坊だー!)」

 

 この世界限定で、むちむちの赤ちゃんになりました。

 

「だっだぶぶぶ~ぶ!(納得いかーん!)」

 

 べしべしと床を叩けば、ノルディークがくすくすと笑いながら私を抱っこする。


「このサイズは見たことなかったね」


「何を言ってるかわからんのが問題だが」


 ノルディークに頬をスリスリしながら、ジト目で老人達を見やると、老人達はシンクロしたように、全員が同じ動きでうんうんと肯き、告げた。


「納得いかんというならの」


 なんと、老人達には私の赤ちゃん言葉が通じていたっ。


「こういうのはどうじゃ?」


「あの緑の牧場の中のソフィアの複製にじゃなぁ、こう…洋服を着せてみるとかじゃ」


「そうすれば…」


 洋服と言えば母様が大好きなコスプレですね。

 と、そこできらりと私の目が光るっ。

 

「だうっ(とぉっ)」


 地面に飛び降り、周りを見回した。


 この世界は、想像で物を成す世界! 

 ということはですよっ、こういうことができてしまう!


「だだだだっだだ~! (ちゃららちゃっちゃちゃ~!)」


 赤ん坊でありつつ、にへへぇと相好を崩して私は想像を緑の牧場のみならず、ここにいる全ての人に向けた!


「うおっ」


「なんじゃっ」


「こりゃこりゃっ」


「奇天烈じゃっ」


 老人達はあえて見ずに、ちらりとソフィアの複製に目をやれば、そこには空をぼんやり見上げる牛の着ぐるみ姿のソフィア達っ。


「うぶぶぶぶ!(いいですね!)」


 そして、目の前を見れば、そこには、寸前で恥をかかぬよう、すかさず子ども姿になったらしいノルディークと、相変わらず飄飄とするファルグの牛の着ぐるみ姿が!

 

「うばぁ~! (うひゅ~!)」


 興奮最高潮。

 と、そこへファルグが想像したのか、私の目の前にどんっと姿見を現した。

 

 そこに映っていたのは、牛姿の愛らしい赤ん坊…。

 手は服の中に隠れ、歩けないのでハイハイするその赤ん坊の姿にっ。


「ぐはぅっっ」


 鼻血を噴きました。


 自分に惚れたらどうしてくれる!

 それぐらい可愛かったですともっ。





「ふむ、これだけ魔力が溜まれば、わしら外で動けそうじゃのぅ」



 密かに、老人5がそんなことを言っていたとは、全く知らなかった私であった…。

 

 

 

パルティア王太子、クラウスはリンスター家を出ると、リンスター家長男エルネストと共に王城に向かった。


「生徒の招集は弟に任せる。エルネストは騎士団の方・・・」


話ながら足早に通り過ぎたのは、城の少し広い一室。その部屋の扉が開いており、ちらりと見えた光景は…。


「気のせいか?」


クラウスの問いに、エルネストは正直に答える。


「見たままかと」


部屋の中には、クラウスの弟ルインと、何やらおかしな武器を持った生徒達が見えた…気がして、再び部屋をちらりと覗き込んだクラウスは、数秒後、ほぅっと安堵の息を吐いた。


誰もいなかったのだ…。


だが、エルネストには彼等がものすごい勢いで飛び出していったのが見えていた。

もちろん、件の武器も。


「役に立つなら武器の形状は問題ないな…」


ぽつっと呟き、エルネストはあえて真実は語らなかったのだった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ