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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
137/160

136話 謎解き1

「この世界はのぉ、魂が行き交う世界の、おそらく一歩手前じゃ」


 ぼこぼこと地面から生えた老人達は私と佐奈の質問に、おそらく、きっとを付けながら説明していく。

 そんな私もどうやら、とつけねばならないほど怪しい説明だが、大体あっていると思って聞いていくしかない。

 気分的には、情報収集よりも全員地中に埋め戻したい。


 (かしま)しい細身の老人5人組。

 どの顔もほとんど同じで、見分けを付けることができるのは髭の長さだ。


 なぜこの5人がほとんど同じ顔かというと。


「わしら5つ児じゃ」


 と告げた。

 ついでに彼等があのちゅど~ん事件の犯人である塔の初代主…の魂の欠片であることは確認済みである。

 

 そして冒頭に戻るのだけど…。




『そんな世界で何してるの?』


 地面に埋まってまで…という言葉は言わず、佐奈は老人達を見下ろす。


「好きで埋まっとるわけではないんよ。わしらのぉ…かれこれ何百年か何千年かしらんが、それぐらい前に、塔を継いだ男に取り込まれての」


 ぼんやりとお茶でも飲みながら聞きたいねぇ・・と老婆の気分で考えると、手の中には湯呑に入った熱い緑茶が出てきた。


 なぜお茶…? 


 恐る恐る飲んでみれば、なんとなく懐かしいような、知らない味のような…?


「取り込まれたってなんででしゅか?」


 佐奈にもお茶を渡し、二人でのんびりしながら尋ねると。

 老人1はう~むと唸り、背後の道に生えている老人3が答えた。


「わしら不老不死の研究もしとったのじゃが、どうも悪用…? されたようじゃの」


『なぜ疑問形?』


 佐奈が突っ込み、老人達は「突っ込まれたわ~。わひょひょひょひょっ」と喜んでしまう。こんな感じで先程から話が全く進んでいない。困ったものだ。


「埋めましゅよ」


 脅しで告げてスコップを思い浮かべれば、なぜか手には小さなスコップが握られていた。

 

 ひょっとしてこの世界、考えるだけで姿形を作れるとか…?

 チラリと横を見れば、佐奈の手にはフライパンが…。何故フライパンを武器に選んだのだろう…。


 それはともかく、もしここで理想の美形を想像すれば、そこにはあら不思議、私好みの美形が現れて…。


「おぉぉぉっ、見よ! わし、なぜかここまで抜けたぞっっ?」


 振り返ると、老人5が両足首を地面に残して生えていた!

 ひょ…ひょっとして何か怪しい、欲望に満ちた想像をすると、この老人達が抜け出てくるのではあるまいな…?


『想像は危険ね…。特に有機物は』


 どうやら佐奈も同じ結論に至ったらしく、私達はうんと頷く。

 

 それにしても、足首だけ埋まった老人5、外人だけあって背が高い。

 2メートルは…越えてるかな。ひょっとしたらノルディーク達よりも背が高いかもしれない。


「埋められてはかなわんから、わかることを話そうかの。で、何を知りたい?」


 再び代表して老人1が私達に尋ねた。


 改めて問われると、何が知りたいのかわから無くなる。

 場所のことは曖昧だけど聞いたし、それ以外となると…あぁ、そうです。レイゼンの中にある魂の集合体。マーブル魂について聞いた方がいいかも。


「マーブル魂について聞きたいでしゅ」


「マーブル魂となっ? それはどんな新種じゃ?」


 老人2よ、なぜ逆に聞くのだ…。

 ジト目で好奇心旺盛に目を輝かせる老人を見つめながら、私と佐奈はこれまであったことのあらましをざっと話して聞かせた。

 




「というわけでしゅ」


「というわけでしゅいうがのぅ、塔の主になって過ごしていたら暗殺者が送り込まれて、魔族が押し寄せて、その後マーブル魂を持った男が現れた…では何もわからんのぅ」


『一分でわかる最近の出来事だったのにねぇ』


「こんな簡単にお話したのにダメでしゅか…」


「「「「「簡単すぎるわ! はっ、ツッコミできたっ」」」」」


 さすがは5つ児初代。息ピッタリである。

 仕方ないのでそれぞれ大まかに説明を加えると、ようやく老人達はうむうむと頷いた。


「ということは、知りたいのは融合した魂についてじゃな?」


「マーブル魂でしゅ」


 うんうんと老人達はもう一度頷く。


「それはおそらく、わしらが生み出した生命維持のための魔法が変化したものじゃな。今の塔の主は先代から継ぐ魔力で寿命を延ばしているようでもあるが、わしらの時代は魔力がまだまだ少なくての、人を長生きさせるには魔力でなく人の魂の力を必要としたのじゃ」


 つまり、今の塔の主達は、先の代からだんだんと大きく強くなる魔力を受け継ぎ、今の様にそれを寿命に当てることができるようになったが、初代に近い塔の主は、それを人の魂で行っていたということだ。


「わしらが使っていたのは、魂の中に別の魂の欠片を住まわせ、共存することで寿命を延ばす方法じゃ。これはどの塔の主にも平等に行った。わしら五人の魂を五つの塔に分割したんじゃな。確か他の塔の主は5・6代目ですでにその魂の力を使い切り、吸収して魔力に変えておったが」


 そう言われて検索をかければ、なんとなく魂から魔力へ移行するぼんやりとしたイメージが伝わってきたが、その辺りはいらない知識として処理されたのか、はっきりとしたモノは出て来なかった。


「赤の塔は、3代目の時、魂を保存する魔法を編み出しておった」


 背後で老人2が呟き、老人達が記憶を掘り起こすように続ける。


「あぁ、そうじゃ。娘が亡くなっての…あれはその魔法を使ったのじゃ」


「わしら同情してのぅ。魔力が足りないというあの男に、言われるがまま魂を融合させてしまったんじゃ」


「あぁ、そうじゃそうじゃ。記憶にあるのは7代目までじゃ。すっかり魂が溶け込んでおったんじゃなぁ。あの娘はわしらの魂の力で生き返ったんじゃろうか」


 何やらこれは重要な情報のような気がしますよ?

 

 頭の中で整理してみる。

 つまり、3代目は魂を保存する魔法を編み出し、亡くなった娘を保存した? で、最終的にその娘を生き返らせようとしていた。

 それには魔力も必要だけれど、当時魔力継承はまだ少なく、足りていない。だから、魂でそれを補って生き返らせた、もしくは生き返らせようとした。


『マーブル魂の主人格はその3代目かしら?』


「たぶんそうでしゅね。そして、娘というのは…緑の髪でしゅかね?」


「おうおうそうじゃー。緑の髪をした可愛い娘っ子じゃった」


 老人達はでれっとした表情を浮かべながらうんうん頷く。

 まぁ…ソフィアは美人でしたからね、でれっとするのもわかりますよ。


「そうじゃそうじゃー。それでの~。おお! 確か婚約者がおっての」


「あぁ! あの男じゃな」


 老人3が相槌を打ったところで、眉根を寄せた。


「そう言えば、あの男も魂の欠片を分けられてなかったかの…」


「あぁ・・・そうじゃ。たくさん人が死んだんじゃ」


 何やらきな臭い話になりそうで、ずずず~っと熱いお茶を飲み、私達は道端に座り込んだ。

 と、その時、何か頭の中でぴこーんとサイレンが鳴ったような気がした。


「いろいろ見損ねた気がしましゅ!」


『ものすごくオシイことをした気がするわ!』


 ほぼ同時に私達は拳を握って断言する。

 そして、そんな私達の背後で揺れる何か…。


 老人達はのんびり茶を飲む私達に今ようやく気が付いたように抗議し、自分達を抜けと騒ぎ出した。


 嫌ね、こんな危険な物体、抜くはずないじゃない。


 お茶をずずず~っと飲んだ私達は、背後から聞こえた「あ、抜け・・」という声に驚いて振り返り、次の瞬間噴出した!


「『にゃんですと~!!』」


 ポンッと音を立てた老人5は、なんとっ、顔だけを残し、生まれ変わっていたのだ!


「お・・・おぉぉ。動けるぞい」


 その姿は・・・




 羊!

 



 人面羊です!


「き…キモッ。キモいでしゅ~!!」

  

 羊はぴょんぴょん跳ねると、きらりと目を輝かせて、前足で他の老人を掘り出し始めたではないか!


「『急いで他を埋めるわよ!』でしゅ!」


 私と佐奈はスコップを用意すると、全員掘り起こされてなるモノかっ! と、魂の世界で、羊と死闘を繰り広げることになるのであった・・・・。


ノルディーク達がいなくなってすぐの事…。


「皆様方、クァエン王子、クラウス王太子がお見え…」


執事が言い終わるよりも早く、カエンが執事を押しのけて現れる。

レイゼンの息子であり、ルアールの第2王子。

全員が身構える中、その後ろに現れたこの国パルティアの王太子が一礼して先に告げた。


「近隣諸国、あらゆる場所、あらゆる町に魔物が現れました。このクリセニアにも」

「それから、我がルアールだが…ほぼ壊滅したらしい」


カエンが唇を噛んで告げた言葉に、全員が息を飲んだ。

と・・・


「むぎゃー!!」


シャナの叫び声に全員がびくぅっとし、振り返ったが、シャナは再び静かに寝息を立てるのであった。

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