135話 シャナ救出へ…
塔の主側視点です。
それは、シャナがエロちっすをかましていた頃…。
「我が姫君に虫がつく!」
延々とああでもない、こうでもないと、レイゼンの中の魂について話をしていた会議の最中、突然セアンは叫ぶと、消えるようにその場から立ち去った。
何事かとディアスは目を見開く。
「姫君って、確かシャナの事だったよな?」
アルディスがぽつりと呟くと、ノルディークがはっと顔を上げた。
「魔力干渉が解かれた」
魔力干渉はいまだシャナ一人では解けないはずである。しかし、それが解かれたと聞いてディアスは頷くと、全員が席を立った。
何かが起きた、もしくは、シャナが何かをやらかしたことは間違いない。
ちなみにこの時、塔の主達は後者だと思っていたのだ。
全員が、敵を甘く見ていた。
この館に塔の主達が集っているということで、敵が手を出してくるという考えはほとんどなかったのだから。
この時まで…。
ふと、ハーンは顔を上げた。
「今…」
続いて、魔王ファルグが眉根を寄せる。
「持って行かれた…か?」
ノルディークが走り出し、まだ異変を感じ取れていない者達もそれに続いた。
そして、部屋のすぐ傍で、叫び声が響く。
「シャナ!」
館の主、アルバート・リンスターの叫び声の後、部屋の扉を勢いよく開けば、アルバートの腕の中でぐったりと横たわる16歳のシャナの姿。
そして、その彼等の前では、長剣よりも短く、短剣よりも長い特殊な武器で攻撃するセアンの姿があった。
「アルバート! アル! しっかりなさい! 何があったのです!」
昔の主従時代の様にアルディスと同じアルという愛称でアルバートを呼び、ナーシャが彼の肩にしがみ付く。
「我が君! シャナが!」
「落ち着いてアルバート、とにかく診せて」
すっとヘイムダールが彼の横に膝を着き、アルバートの抱えるシャナの様子を診る。
他の者達は彼等を守るように、敵である灰色の髪に紫の瞳の魔族との間に入った。
敵を見やり、ハーンが全員に告げる。
「塔の前で会ったやつだ。確か…エロ顔魔族」
ハーンがその視線をすっと鋭くした。
顔はともかく、実力ならばハーンと拮抗する。そして、そのハーンの剣技は、剣だけならここにいる誰よりも強いアルバートに拮抗する。
油断ならない相手である。
「エロガオ? そんな名前だったか?」
魔王ファルグは男を見て「ん?」と首を傾げた。
「いや…名前じゃないが…」
「余裕だな…ハーン親子」
思わずシェールはぽつりと呟き、敵に集中せねばと首を軽く振って顔を上げた。
目に映った敵は、セアンの剣を受けつつ、わずかに目を丸くしてシェールの背後へと視線を向けている。
そこにいるのは、ハーンとファルグの二人だ。
「馬鹿な…魔王が生きて…」
ぼそっと呟いた言葉は、魔王ファルグにも届き、彼はにやりと笑みを浮かべて余裕綽々と言った様子で腕を組んだ。
「悪いな、そう簡単に死ねんらしい」
男の視線がファルグを射殺さんばかりに鋭くなったが、そのような暇を与えるセアンではない。
「よそ見すんなよ!」
ぶんっと剣を横に薙ぐと、男は舌打ちして間一髪後ろに飛び退り、そのまま何もない空中をばしりと叩いた。
「?」
セアンは首を傾げる。
そこには本当に何もなく、男が壁の近くまで退いたわけでもない。
しかし、確かに男はそこにまるで壁か何かがあるかのように叩き、そして、間違いなく音が響いた。
「亜空間だ!」
真っ先に気が付いたのはアルディスで、その魔法を打ち消そうと動いたが、それより早く男は亜空間に飲み込まれ、目の前からスッと姿を消し去った。
しんと静まり返った部屋には、セアン息遣いが響く。
「亜空間の魔法は赤の塔特有のモノだったと思いますが、魔族はいつから使えるように?」
ノルディークの声がやけに冷たく響き渡る。
「落ちつけノルさん。魔族は今も亜空間魔法なんぞ使えん」
静かに怒りを溜めるノルディークの気を紛らわそうと、ファルグはおどけたが、部屋の空気は重く増すばかりである。
他の主達が呆れたような視線をファルグに向ける中、部屋の中でゆらりと揺れる者がいた。
「あれ? ノーグの王子…」
セアンが重い空気をぶち壊し、ゆらゆら揺らぐノーグの王子ダレンの前で手をひらひらさせるが、彼は全く反応しない。その様子にディアスも近づき、ダレンの額に手を当てた。
「おそらくだが…、魔力干渉だな」
「ということらしい。初仕事だなセアン」
ぽんとアルディスがセアンの肩を叩く。
「は?」
「「吸え」」
二人の脅すような視線に、セアンはたじたじになり、部屋に控えるメイド達がチラチラとセアン達を見やる。
(き、期待されてないか??)
メイド、アルディス、ディアスに見つめられ、最後にはノルディークの無言の視線を受け取り、セアンはその場にしゃがみ込んで頭を掻き毟ると、「あぁっ、もう!」と叫んで立ち上がり、ダレンの首筋に吸い付いた!
「きゃああああ~!!」
思わず喜びの声を上げるメイド達。
実は手でも良かったのだが、全く気が付かなかったらしいセアンの間抜けさに男達はふっと苦笑した。
「うおっ、と」
ダレンが倒れかけたのでそれを支えれば、さらにメイド達の黄色い悲鳴が上がる。
セアンも顔だけはいいので、美男美女に見えなくもない。
ここにシャナがいたらかぶりついただろう。
そのシャナの体はと言えば…。
「セレン、魔王、手を貸して」
ヘイムダールがノルディークとファルグに声をかけ、二人はシャナに歩み寄った。
アルバートの腕の中でぐったりと横たわるシャナは、唇を青くし、顔色も青ざめていたが、眉根を寄せたり、でれっと相好を崩したりと忙しい。
「微妙な顔だ」
思わず正直に告げたファルグの腹を、ノルディークは素早く肘で付き、何食わぬ顔でヘイムダールに尋ねた。
「何かできますか?」
「…あ、あぁ。できる。というか、魂が繋がっている二人にしかできない。俺がシャナの生命維持をしている間に、シャナの魂を連れ戻してくないか」
事は、意外と深刻だったらしい。
二人が頷くと、一同は一度場所を移すことになった。
「他の皆は警戒を。俺はシャナが戻るまで目を覚ますことができないから」
「「わかった」」
ヘイムダールの言葉に、ノルディークとファルグ以外の者が頷き、なぜかメイド達もコクリと頷く。
その様子にヘイムダールは苦笑し、シャナを寝かせたベッドに横たわり、シャナと手を繋ぐと、彼は深呼吸して目を閉じた。
ヘイムダール自身が生命維持装置を担うのである。
この頃には、部屋に駆けつけた母イネスと、姉レオノーラ、兄エルネストも加わり、皆すがるようにノルディークとファルグを見た。
「大丈夫です。見つけたら…きっちりお仕置きしておきますので」
「だそうだ。・・・魔狼の二人はここを頼んだぞ」
ファルグはシェールの頭を撫で、ハーンとは視線で会話し、ノルディークと並んでシャナの隣に立った。
二人は共にシャナの手を取ると、目を閉じ、そのまま吸い込まれる様に姿を消したのだった・・・・。
シャナ「いろいろ見損ねた気がしましゅ!」
佐奈 『ものすごくオシイことをした気がするわ!』
老人1「あ~、どうでもいいがのぉ~、そろそろ引っこ抜いてくれんかのぉ」
老人2「そうじゃそうじゃ~、何で茶が出てきてゆったりしとるんじゃー」
シャナと佐奈はどこからか日本茶を取り出し、懐かしの味にまったりしている。
老人3「いっそ何か魔法をぶっ放して!」
シャナ「その前に抹殺しましゅよ」
老人4「最近の幼児は怖いの~」
老人5「あ…抜け」
ポンッと音が響き、振り返ったシャナと佐奈はブフーッと茶を噴いた。
シャナ・佐奈「『急いで他を埋めるわよ!』でしゅ!」
二人は、スコップを装備した!!
何かが起きている…らしい。




