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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
134/160

133話 捕獲・・・?

「エロ顔魔族でしゅよね?」

 

 胡乱な目つきでエロ顔魔族、えぇと、名前は…ザルツ・フランを見上げると、彼は首を傾げる。


 全く同じ顔で、魔族の瞳、そして違う所は髪色だけなんて、疑うなという方が無理じゃありませんか?

 

 私はザルツの顔をじろじろと見つめ、彼の周りをぐるりと回ってからもう一度正面に立つ。

 服に隠されていても私にはわかります! 

 目測で計ったスリーサイズは、あのエロ顔魔族と全く同じでした!


 そこで、今度はちらと横に立つダレンを見れば、彼はぼんやりとこちらの様子を見ている。

 おそらく魔力干渉にあっているのだろう。後で吸いだしてあげねばいけませんね。


 まぁ、お楽しみは後にして、今はとにかくエロ顔魔族だ。


「…何の用でしゅか?」


 私が尋ねれば、ザルツはすっと膝を折り、私の前に跪いて小さな手をそっと取り、その手の甲に口づけを落とした。


 後ろでメイド達が「はぁん」と悩ましげな声を出して喜んでおりますが、これは王子様のキスではなく、宣戦布告の様なもののはず。

 彼女達の安全のために、余計なことは言わないけれど。


「あなたに求婚をしに参りました、シャナ・リンスター嬢」


 それは私への挑戦ですね。

 ばっちり視線が交差し、小さな火花が散る。

 

 良いでしょう。せっかく贈ってもらった美形を逃す手はありません。

 勝負して差し上げようではありませんか!


 ザルツの手から手を取り戻すと、そのまま彼に歩み寄り、首に腕を回してチュッと口付ける。

 すると、彼は一瞬目を見開いた後、ほんの少し口角を持ち上げた。


 ん? こんな挑発的な表情をする男だったかな?


 疑問には思ったけれど、私はそのまま彼の頭を引き寄せ、エロちっす発動!

 

 再び腰砕けにしてくれるわ!





 と…





 張り切ること数分。

 エロちっすして、すぐにエロちっすが返され、押しつ押されつの戦いが始まってしまった。

 

 後ろでメイドの数人がちっさく悲鳴を上げて喜んでいるが、それどころではない。この男、あの時とは違って、なかなかうまいのだ!

 どこで練習してきた!?


「ふんっ」


 ちょっと色気の足りぬ気合いを入れながら続けると、目を細めたザルツから魔力が流し込まれる。

 ここで魔力干渉ですと!?

 だが、こちとらすでにノルディークに干渉されていて幼児状態。干渉はできないので…。


「むぅ?」


 干渉はできないが、流される魔力は続き、私の中に溢れてくる。

 すると、体がむずむずして・・。


 ひょっとして…? と思った時はすでに遅く、ふわりと風に包まれたような感触がして、私の姿は16歳の少女へと変化していた。

 

 あ、衣装はもちろんリンスター家のモノなので一緒に大きくなりましたよ。

 16歳の姿にはデザインが少々子供っぽいが、そこは我慢だ。


「ふあっ」


 息を吸い込み、今度は全開エロちっす。

 さすがにザルツも眉根を寄せた。

 ふっふっふ、これなら勝ったも同然。


 このまま押し倒して敵の目的を白状させてやりましょう!

 気合十分、カッと目を見開き、押し倒し体勢に入ったところで、ばたん! と扉が少々乱暴に開く音がした。




「シャナァァァァァ~!」


 絶望したように泣き崩れる父様が背後に…。

 背後だから見えてないけれど、気配は感じるので、床に四つん這いになり、オイオイ泣き崩れる姿が手に取るように感じられますとも。

 

 だらだらと冷や汗が流れ、ちゅぽんっと唇を離し、くるりと振り返ってえへっと笑みを浮かべる。


「父様、これは…その、えぇと、そう! 予行演習です!」


「なんの?」


 チラリと何かを期待するような目を向けられ、さらにだらだらと冷や汗が流れ落ちる。

 あぁ、誰か私を助けてください、とばかりにメイドを見たが、彼女達は視線を合わせないようにして目を逸らした。


 くっ…ちっすの最中はあんなに喜んで見物していたのに、助けを拒むとは薄情なりっ。


 目を泳がせながら、私は父様に応える。


「その、ほら、私も大人になったので、結婚するかもしれないでしょう?」

 

 我が愛人達皆と合同結婚式とか…それもいいかも。


「ぐふふ…」


 おもわずにやりとしそうになって、はっと我に返り、顔を引き締める(笑いが漏れたことには気が付いていない)。


その時(・・・)のために、今から人前でしても恥ずかしくないキスをですね」


 ちらっと父様に視線を戻せば、父様は無表情だった。


「と…父様?」


「結婚…。父様の目の黒いうちは結婚などさせん!」


 ごぉぉっと父様が燃え上がったかのように見えた。


「落ち着いて父様っ、父様の目は茶色ですっ」


「そう言う問題ではないっ!」


 おぉ、父様ちゃぶ台返ししそうな勢いだ。

 そういえば会議にいたと思ったのに、私が追い出される頃にはいなかったし…ひょっとして他でも何かあったのだろうか?

 例えば姉様ネタとか…。


「結婚なんて…結婚なんて…」


 さめざめと泣きだす父様。


「お初にお目にかかりますリンスター卿。私はノーグの官僚をしておりますザルツ・フランと申します」


 全く空気を読みませんね…。

 ザルツはさめざめ泣く父様に淡々と挨拶をすると、父様はぴたりと泣き止んだ。


「フラン?」


「はい。奥様の遠縁に当たります」


 母様の遠縁ってただの演技じゃなかったの…?

 私がじっとザルツを見つめていると、父様が間を遮るように立ち上がった。


「あのフラン…? だが、しかし」


 何やら父様が戸惑っている。母様を呼んだ方がいいかもしれないと思い、私はメイドに向けて合図を送る。

 数人のメイドは心得たとばかりに静かに部屋を出て行った。

 

「ぜひお嬢様を我妻に迎え入れたく」


「それは…」


「お嬢様も私の思いに応えてくださいましたし」


 ん? ひょっとしてエロちっすのことを言っているのだろうか。

 あれは愛情表現というより、喰うか食われるかの戦いだ。ザルツに応えたことにはならない。

 それに…


「父様、この方、あちらの寝室より現れたのです。きっと、ノーグの王子様と道ならぬ恋なのです!」


 ぐっと拳を握って力説すると、部屋に残っていたメイドさんがきゃあと声を上げた。

 喜んでおります…。


「そうか、道ならぬ恋か…。その気持ちはわかるが…」


 父様の思考がおかしくなっている!


 道ならぬ恋でも、あちらは男同士…には見えないから別にいいのか…?

 

 見えないならまぁ良いのかもと納得し、うんと頷いたところで、私は一瞬眩暈を起こした。


 うん? 久しぶりの大人目線でくらっとしたような?


「ところで父様、フランって?」


 私が尋ねると、父様は渋面を作り、一瞬ためらった後、小さく呟くように答える。


「イネスの従兄弟が婿入りした家だが、その従兄弟がイネスにぞっこんで…あぁっ! 思い出しても腹の立つ!」


 要するに、母様の取り巻きの一人だった男が婿入りした家らしい。きっと、父様が母様に近づくたびに邪魔したのだろう。父様は目を吊り上げてブツブツと呟いている。

 おそらくは恨み言だ。


「えぇ、そういうわけで、必ずやお嬢さんを嫁として連れてこいとも言われているのです」


 あまり表情が変わらず、淡々と告げられても嬉しくない。

 それに、ザルツは明らかにエロ顔魔族だ。こんなのは猿芝居である。

 じゃあ何が目的なのか…?


「ん~」


 私は首を傾げた。

 ひょっとして…時間稼ぎ?

 

 でも、何の?


 と、首を傾げた姿勢のまま、私の視界は大きくぶれる。


「シャナ!?」


 父様の叫び声。


「必ずや、お嬢さんを連れて来いと言われておりますので」


 声ののトーンが一段低くなったザルツの声を聴いた後、私の体はゆっくりと崩れ、そのまま父様の腕の中へと落ちて行った。


 そして、私の魂は敵に捕らわれたのであった…。

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