132話 贈りモノ
「ではまとめましゅ」
私はアルディスの肩に足をかけ、全身で顔に張り付いたまま、もふもふと何か言っているアルディスをぎゅむぎゅむ抱きしめる。
大丈夫。わかっておりますとも。アルディスの苦しみはこうして私が癒してあげますからね。
ナデナデと頭を撫で、アルディスを癒しつつ会議を続ける。
「これまでの情報でわかったことをあげましゅと
一つ、赤の塔の主はいろんな魂の混ざったマーブル魂に侵されていた。
一つ、マーブル魂は悪人である。
一つ、先代の主はマーブル魂を弾き飛ばしたいい人。
一つ、マーブル魂はレイゼンの中にいる。
一つ…は言い疲れましゅたので今後は省きましゅ。
レイゼン王の生死は不明。
赤の塔には常に緑髪の使い魔が付いている。
緑髪の人の魂も古い。
そしてケルベロスの頭は偽物かほんものかわからないのでしゅ!」
「最後のは余計な謎だな」
シェールに突っ込まれた…。まぁ、正論なのだけど、気になるではないですかっ。
それはともかく、こうしてあげると、何か、わかった! という感じはしないなぁ。
「もふもふふふふもも」
お、アルディスが何かを訴えているようです。
私がアルディスの頭から体を離すと、アルディスはぶはっと声を上げ、ゼィゼィと荒く息をした。
酸欠していたようだ。
少々涙目になりながら、私を上目使いで見上げてくる。
おねだりっ。おねだりですねっ。
「むっちゅうぅぅぅっでしゅ」
ちゃんと驚かせないように告げて、おねだりしたアルディスの唇にエロちっすを与えてあげました。
この先は大人になってからなのよ。むふふふふ。
なんて思っていると、もともと酸欠状態だったアルディスは、そのエロちっすでさらに追い込まれ、ふらりと倒れてしまった。
が! それはきっと恥ずかしさからのいいわけね! 大丈夫、分かってますとも。
本当はエロちっすにやられて腰砕けになった、ということは言わずに置いてあげます。
「むふふふふ」
ソファに寝転んだアルディスの上で私が笑うと、アルディスには憐みの様な視線が皆から向けられていたのだが、私はもちろん気付かなかった。
「一つ言わせてくれ。亜空間を作ることに特化した主は、早世した3代目だ」
アルディスは息を整えながら、片手をあげて真剣な表情で告げる。
天井を見つめるその瞳は、ここにはいない何かを睨んでいるようで鋭い。
そんなアルディスにキュンキュンしながら、私は彼の腹に跨り、上半身を剥いてそのお胸を堪能中である。
このお肌が…このお肌が…。
あぁ、ある夜の思い出がよぎって鼻血が出そうです。
「ぎゅふふふ」
「そこの気持ち悪い生物を回収した方がよくないか?」
シェールの言葉に他の男達が大きくため息をついた。
気持ち悪い生物なんかいたかな??
きょろっと辺りを見回すと、猫の子のように首根っこを掴まれ、ディアスに持ち上げられてしまった。
もう少しお胸を堪能させてぇぇぇぇ~っ!
ジタジタと暴れつつ、ソファの上のアルディスの生胸に向けて腕を伸ばすと、どこかでかちりとスイッチが・・。
「あ」
「こけこっこ…」
姉様こけこっこが発動し、ディアスがガクッと膝を着いたため、同時に私までぼちょんっと床に落とされた。
ニワトリ衣裳のおかげで痛みはなかったが、乱暴に扱ってはいかんのです。
痔になったらどうしてくれる!
きっと睨むと、逆にギッと睨み返され、私は一瞬ひるんでしまった。
「その衣装は着替えてこい!」
「逆切れでしゅっ」
抗議をしたが、ディアスは私の言うことは聞かず、再び私を掴むなり、部屋の扉のドアをヘイムダールに開けさせ、廊下に控えるメイドに私を預けてバタンっと扉を閉めてしまった。
私はメイドに抱っこされながら彼女を見上げる。
「追い出されましゅた」
「丁度良かったと思います。実はお嬢様にお客様が見えているのですよ」
甘えようとしたら出鼻を挫かれた!
「こんな時間にでしゅか?」
そろそろ日が落ちようという時間だ。人の家に訪問するには適さない。
「お客様には大事な会議中ですので、お取次ぎできませんとお断りしたのですが、お待ちするということでしたので」
首を傾げると、メイドは「その前に・・」と一言告げ、私を衣裳部屋へと連れ去った。
どうやら、ディアスの命じた通りに、お召し替えするらしい。
お召し替えなんてしなくてもいいのにと言えば、重要ですと押し切られてしまった。
何が重要かは謎ですが…。
______________
ほんとに何が重要か謎…。
久しぶりに服を着た。
しかも、子供の晴れ着ともいえそうなレースをふんだんに使った愛らしいワンピース。
髪も編みこんで結い、頭もすっきりとまとめてある。
こんな普通の服を着て迎えなくてはならない客とは、一体誰なのかと戦々恐々としながら、メイドと手を繋ぎ辿り着いた部屋は、客人が泊まれるように普段は空いている客間である。
「お客さんは泊まって行きましゅか?」
「はい。夜になっても待つつもりのようでしたので、こちらにお通ししました。本日はもう遅いですからこのままお泊りになられるかと」
ふぅんと気のない返事をして頷くと、メイドがノックをし、応える声を聴いてから扉を開く。
そして、部屋に入った私が見たモノは。
「こんばんは、白の姫君」
赤い髪に紺色の瞳、その姿はどこから見ても美女に見えるが、正真正銘の男であり、ノーグの王子。暗殺者を次々と送り込み、最後にはハーンを私の元へと贈ってくれた腹黒美女男、温泉地で顔を合わせた後、会った記憶がないような気がするが、何の用なのか、ダレン・ノーグがにこりと微笑み立ち上がった。
さて、ここで問題が一つ。
私、彼に白の塔の主だと言っただろうか…?
まぁ、彼の父親や、王様達からばれていたとして、この男が他の塔の主ではなく、私に用があるとは何事か。
そして、背後のメイド達が目を輝かせているのはナゼ…?
嫌な予感にぶるっと震えるが、それらを押し隠してにっこりと微笑むのは、日本で鍛え上げたサービス業精神の賜物だ。
相手が何者であってもにっこりと・・・。
「こんばんはでしゅ。ノーグ第一王子しゃまにおかれましては、ご機嫌うるわしゅく」
「硬い挨拶はやめにしよう。実は紹介したい者がいてね」
「…私にでしゅか?」
また新たなる刺客を連れてきたのかと身構えてしまうが、我が家のメイド達の目の輝きと、そわそわと落ち着かない様子がそう言った人間ではないと告げている。
「我が国の官僚で、以前君を見てどうにも我慢できず、許しが欲しいらしい」
私を見て我慢が出来なくて許し?
官僚にあった記憶はないけれど、どういうこと?
首を傾げていると、ダレンは隣の寝室の扉を開き、ノーグの官僚とやらを部屋に招き入れた。
「お初にお目にかかります、リンスター家の姫君。私はあなたの母君の遠縁にあたる者で、名をザルツ・フランと申します」
俯いているせいで灰色の髪が顔を隠していたが、名乗った後に上げたその瞳は髪色の様に変化できなかったと見える。
そこにいたのは、灰色の髪と紫の瞳をしたあの…
「エロ顔魔族でしゅ!」
どうやら、ダレンから再び美味しい敵が贈られたようです。
補足
ハーン「贈られったって字が間違ってないか?」
シャナ「合ってましゅよ。贈り物でしゅから」
ハーン「暗殺者は贈らんだろ…」
カルさん「正確には送ると申しますね。ですが、お嬢様にとって彼等はギフトでございますから」
ザルツ・ハーン「「複雑だ…」」
というわけで贈るという文字を使っております。




