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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
132/160

131話 解けない謎

「で、レイゼンの中にいるのは?」


 シャンティの気配が完全に消えると、ようやくとばかりに魔王ファルグが口を開いた。

 だが、皆その人物に思い当たるのか、誰なんだ? と身を乗り出すような雰囲気は感じられず、どちらかというと確認作業のような雰囲気である。


「先代だろう?」


 ディアスが分かり切っているというように腕を組んで頷き、他の男達もそれに続いて頷いた。

 そして私も付け足す。

 

「私の見た記憶にソフィアちゃんがいましゅたので、彼女を知っている人でしゅね」


 となると、先代の塔の主か、アルディスに絞られるので、やはり皆の言うとおり先代の主なのだろう。

 そう完結しかけた所で、ベロちゃんが首を横に振った。


「違う。あの魂はもっと古い。そして、あの娘の魂もだ。赤の主ならわかるだろう? 己の塔に仕える使い魔達に共通する特徴を」


 共通も何も、アルディスの使い魔ソフィアは、先代から続けて使い魔となったはずなので『同じ人』だ。

 それ以外の使い魔となると、アルディスの記憶の中にあるのだろうけれど・・・。

 そう考えたところで、私もむむむっと眉根を寄せて塔の記憶を探ってみる。

 

 すると、出るわ出るわ…。


「緑のおねーちゃんでしゅ」


 白の塔の記憶が知る限りでも、まるで始めから用意されたように緑の髪の女性が赤の塔の使い魔となっている。


「不自然でしゅ」


「「「どこが?」」」


 アルディス、ディアス、ヘイムダールが首を傾げる。

 いやいやいや、いくらなんでも皆緑の髪の女性って言うのは不自然でしょう。

 誰かが用意しているのではないかという疑いだって持つと思うのだけど?


 そう思って全員を見回すが、やはり三人は首を傾げ、では、とノルディークとナーシャを見れば、二人はものすごく難しい表情で考え込んでいた。

 

 なんだろうこの怪しい雰囲気。



「怪しまれないように塔の主が記憶を操作してるんだよ」



 どこからか声がして、私はきょろきょろと辺りを見回す。

 すると、ベロちゃんがまっすぐに視線を壁に向けており、私は壁を見て首をひねった。

 

「そこにあるのはぼろ雑巾タペストリーでしゅよ?」


 ぼろ雑巾のタペストリーを飾るなんてちょっと変わってるけど、我が家は変わってるのが普通だし。

 と、先程少しだけ人間と認識していたモノは、すでに物体として認識されていた。


「わざとかっ、わざとなのか」


 ぼろ雑巾はガクリと項垂れた。




 ぼろぼろの衣装を短剣で縫い止められ、壁に張り付いていた怪しい雑巾は、短剣を引き抜くとぼやきながらどさりとその場に座り込んだ。 

 皆の特訓でよほど体力を削られているのか、壁に背中を預け、「あ~」と唸りながら続ける。


「俺の記憶がどうなってるのかわからないが、この時々流れてくる記憶が正しければ、いつも赤の塔の使い魔は緑の髪の女がなるってことで間違いないだろう?」


 あぁ、そういえばセアンの記憶は私が段ボールに梱包したイメージの状態で渡したので、私のファイル化と同じように、小出しに吸収していく形をとるのだった。


「私の記憶も緑の髪でしゅよ」


「で、どの主もそれを疑えない(・・・・)んだよ」


「疑わないのではなく、疑えないとは…?」


 ヘイムダールが興味津々に尋ねた。


 ぼろ雑巾こと、元ストーカー騎士セアンは、栗色のぼさぼさの髪を手グシで整え、天井を仰ぎながらぽつぽつとわかることを告げる。


「普通、これだけ緑の髪が続けばおかしいと思う。が、そう思わないのは、塔の記憶の継承時に何かされてると思っていいだろう? 俺にそれがないのは不思議だけど」


「・・・・それはたぶんどこかに纏めて保管されているのでしゅ。なので開けては駄目でしゅよ」


 私とセアンの二人と、他の塔の主、何が違うかというのを説明しよう。

 

 現代的に説明すると、他の塔の主は全ての記憶を一括ダウンロードした時にウイルスもダウンロードしてしまい、感染しているということ。これが緑の使い魔を気にしないウイルスである。

 一方、私とセアンは少しずつの小分けダウンロードにより、感染ファイルに手を出していないため、緑の使い魔が気になるということだ。


 そして、ベロちゃんの言葉が出てくる。


 魂が古い…。


 その意味するところは。


「レイゼンの中に入っているのは先代じゃないのでしゅね」


 ベロちゃんを見ると、彼はコクリと頷いた。

 その言葉に、三人の主達は困惑顔だ。

 

「先代の塔の主は次代に古き魂を残さぬために力を使い果たした。それが壮絶な死を迎えることになった理由だ」


 アルディスはベロちゃんの言葉に唖然として口を開ける。だが、なにか言葉が出るわけでもなく、ただハクハクと口が動くだけだ。


「赤の塔の主は、常に古き魂に支配されてきた。本来滅びるはずのその魂は、我等冥界の者すらも欺き、生あるものに影響を及ぼしていた。それは許されざる罪だ」


 ぐるるとベロちゃんの喉が低く鳴る。

 人の姿をしていると言っても、やはり本性は獣なのだ。

 そして、レイゼンの中の誰かさんは、冥界の住人である彼の怒りを買ったものと見える。


「では、先代は己の中の別の魂を打ち払ったのか?」


 アルディスが尋ねると、ベロちゃんは頷く。


「赤の先代は己が狂いだすのと引き換えに、その魂を赤の主から弾き飛ばし、次代であるアルディスを守った。だが、その影響でソフィアは取り残され、狂ったのだ」


 記憶と一緒に保管されてしまう別の魂を弾き飛ばすことで、先代の塔の主はアルディスを救ってくれた。しかし、その魂に付随するソフィアは取り残されて狂ったということらしい。


 ソフィアの魂のことはオイオイ追究していくとして、とりあえず、先代の赤の塔の主は、狂っても人間を守る素晴らしい主だったようだ。


 私は泣きそうに顔を歪めるアルディスの元に歩み寄ると、両腕を伸ばして彼に抱き上げてもらい、その頭を強くかき抱いた。

 

 私の胸…は小さすぎるので、私の腹でお泣きっっ。


「で、その魂は誰なんだ?」


 感動のシーンに水を差すのは魔王ファルグだ。

 これからアルディスが私の腹で泣くお素適シーンになるはずだったのにっっ。


 むぅっと唇を尖らせながらも、ちゃんと話は聞く。

 

「魂の名はない。初めの塔の主の一人が仕掛けた魔法が発動し、やがて幾人かの魂と融合して出来上がったあってはならぬものだからな。もはや人格さえどうなっているのか謎だ」


 巨大な肉の塊に、いくつもの顔が浮かんでは消える。そんな想像がよぎる。

 グロテスクね、魂って…(個人の感想です)。




「・・・・疲れた」


 ベロちゃんがしゃべり過ぎた反動か、ふぅと息を吐いてだらりと力を抜く。


 ん? そう言えば、シリアスに突入して忘れていたけれど、ベロちゃん、今頭一つだよね?

 ケルちゃんとスーちゃんはいずこ?


「ベロちゃん、スーちゃんとケルちゃんは?」


 突然の私の質問に、ベロちゃんは両手を顏の前まで上げた。

 ホールドアップ…じゃなくて、その手に、光が集中する。

 まるで、ベロちゃんが人型になった時の様に。


 そして、現れたのは・・・・。


「ましゃか・・・・」


 彼の両の手には、狼の顔をした人形…。

 そして、彼の体が光に包まれると、再びベロちゃんは3つ頭のケルベロスとなり…。


『うむ、首をとられると少々不便だ』


『そーなのよぉ、首をとられるとベロが恥ずかしがって人化しちゃうのよぉ』


「ましゃかのパペット!?」



『どうかしらね~?』


『その秘密はいまだ誰にもばれたことはない』


『・・・ん』


 シリアスの後に、真実よりもとんでもない爆弾が投下された瞬間だった・・・。




 

タイトルについて…


シャナ「敵のことが謎のままということかと思いましゅたよ?」


ケルちゃん『我等のことである!』

スーちゃん『本物か、偽物かどちらかしらねぇ?』

ベロちゃん『…ん』


シャナ「…偽物?・・いや、本物でしゅかね?」


カルさん「それは秘密ですっ」


ケルベロス『『『あぁっ…』』』


台詞をとられ、三つの頭はしょぼんと項垂れるのだった・・・・。

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