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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
130/160

129話 ベロちゃん??

「シャナ、一体何が?」


 ノルディークに首筋に触れられ、ピリリとした痛みが走る。

 そういえば先程切られていたのでした。隠す前に見つかっちゃいましたね。


 私はヘイムダールの胸にしがみ付き、すりすりすりすりと頬を摺り寄せながら、考える。

 議題は、いかにしてこのピンチを抜けるか。


 ・・・・・・・・・・


 ・・・・


 考える事数秒。

 全て敵に押し付けてしまおうと言う結論に至り、振り返った。

 

 だが、よくよく考えればわかったことでもあるが、この食堂で、姉様のエロボイスと、ヘイムダールストリップショー以外に、騒ぎが起きた様子はない。

 ということは、当然振り返った先に悪の親玉レイゼンがいるはずもなく、私達が座ってご飯を食べていた場所には、見知らぬ禿げたオヤジが、楊枝のような物で歯をしーしーやっていたところだった。


「「ダレ??」」

 

 私とシャンティの声が重なる。

 そこにいたのは、レイゼンとは似ても似つかぬ、しかも、この世界の男性にしては珍しいほどの典型的な『オヤジ』だ。

 ハゲ…はまぁ結構いる。お腹が出ている男も貴族にならいる。だが、こんな庶民の為の食堂で、毎日歩き、働く男に、腹の出た者はほとんど見かけない。

 だから、オヤジ。


 オヤジは私達の視線に気が付き、顔を上げるとにひゃりと笑み崩れた。 


「あぁ、ご飯代はおいちゃんが持つからいいよぉ。若い子と食べられて幸せだったしぃ」


 親父はにっこり微笑んで手を振る。


 そう言われるということはだ、キツネに化かされたようではあるが、私とシャンティはあのオヤジとご飯を共にして、なんだか楽しまれたらしい。


 ぞわわわわっと怖気が走った。


「シャナ…」


「なんでしゅかシャンティしゃん」


 私達の目は遠い所を見た。


「あのおじさんに(おご)られたかと思うと複雑なの」


「気遇でしゅね、私もでしゅよシャンティしゃん」


 奢られるのは嬉しいし、感謝しているのだけど、なんというか…そう、乙女心は複雑なのです!

 何かわから無いけれど、返せ~! て気分になりました。

 ごめんね、見知らぬおじちゃん。





_______________


 お屋敷への帰り道はものすごく叱られた。

 結局お叱りの間、ノルディークの腕から逃がしてもらえず、帰り道は延々とお小言を聞き、意識が飛んでいきそうになると、ぺチリとお尻を叩かれた。


「セクハラでしゅ~」


「その意味は分からないけれど、なんとなく意味は伝わったかな。でも、こういうのは愛の鞭って言うんだよシャナ」


 それは現代の子供達に言ってあげてください。

 私はもちろんその世代じゃないので、言わなくても大丈夫なのよっ。

 だから、愛の鞭も必要ないのよっ。


「はい、集中っ」


 ぺチリと再びお尻を叩かれ、思わず「あっふん」と叫んでしまった。

 だって、ニワトリのオケツを叩かれるとお尻がもぞもぞするのだっっ。


 もちろん白い目で見られました。


 私が悶えたり、意識を失いかけたり、ちょっとむふっとしてしまったりと忙しい中、シャンティはヘイムダールにレイゼンについていろいろと説明をしていたらしい。

 

 それはそのまま屋敷に辿り着いても続けられ、一部屋に集まった塔の主達は、報告を聞いて皆唸り声をあげ、考え込んでしまった。


 それはそれとして、悩んでもらっててもいいのだけれど、私は部屋の壁の、虎に似た動物の皮が飾られたその横に、同じように飾りのように飾られている、白目を剥いたぼろ雑巾のようなセアンが気になるのだけれども…。


 誰もそれについては触れようとしない。

 

 シャンティもチラチラとみるものの、何かを諦めたように口を噤んだ。


「じゃあシャナ、ケルベロスを呼んでみろ」


 ディアスの言葉に、壁が気になって仕方がない私は、はっとして今のディアスの質問を復唱する。


「ケルちゃんの生皮をはぐのでしゅね?」


「なんでだ…」


 シェールに残念な子を見るような目で見られました。

 

 ディアスはため息を履くと首を横に振る。


「そんなことは一言も言っていない。ケルベロスを呼べと言ったのだ」


 おぉ、質問が全く違いましたな。


 そういえばケルベロスを亜空間に残したままでした。

 生きてますかね。やられてたりしないですかね。

 それも全て、呼べばわかることなので、ノルディークの腕からようやく降りることが許可され、床に降りると、すーはーと深呼吸する。


 私が召喚をするときは、たまに失敗するので、皆が少し離れた安全そうな所に移動を始める。

 

 足元に黒い沼が現れて、落ちました、なんてことになったら恥ずかしいからだ。


 昔ケルベロスを呼んで、あの池にはまった人が数人いたのだ。

 て、そんな昔の話はどうでもいいね。


 皆に睨まれたので、ちゃんと呼びますとも。


 すぅと息を吸い込むと、ばっと両の翼を空へと向ける。

 本当はポーズなど必要ないけれど、雰囲気が大事だ。


「おいでませっ」


 カチリ


「こけこっこ…」


 どごんっ がんっ


 間違えて必殺スイッチ押しちゃいました。

 で、ものすごい音に振り返ると、そこには、(うずくま)り、なぜか(あご)を押さえるディアスの姿が。


 チラリと何があったのかと目線で問えば、ハーンが指先で床を指し、次いでソファのアームを指した。


 つまり、姉様のこけこっこにやられ、すっ転んでソファのアームで顎を強かに打ち付けた…と。


「平和でしゅねぇ…」


『そうだな』


 聞きなれぬ声が足元からして、私はびくっと飛び退った。


 よくよく見れば、そこには首が一つの薄汚れた狼さんが…。


「・・・・・・ベロちゃん?」


 おそらくベロちゃんと思われる狼さんは、ふわりと光を纏うと、少しずつ大きくなり、やがて、シャンティの身長を越え、アルディスぐらいまで大きくなると、光がぐにゃりと変化した。


 そして、光の中から現れたのは、砂埃で真っ白に汚れた・・・・。



「汚れあるところに我等あり~!」



 ズバターン! と扉が大きく開き、目の前で巨大化したはずのベロちゃんらしきものは布でくるまれ、執事達によって抱えられた。

 布にくるまれたその中身は、激しく暴れているように見える。


「汚れを落としてからお届けいたします。少々お待ちください」


 メイドさんはそう言うとぺこりと私達に頭を下げ、布でくるまれた塊と共に慌ただしく部屋を飛び出していった。


 私達は目をぱちくりさせ、驚きで、しばらく誰も動くことができなかった…。




 いま、ベロちゃん人間になりませんでしたかね…??



ハーン 「ますます人外に近づいていないか、ここのメイド」

ヘイン君「汚れ探知の魔法とか、そう言う類のものかな。ちょっと興味あるね」

ディアス「うぅ…」

ノルさん「まだダメージあるようだね」

アルさん「相手がノーラだといろいろ大変そうだ」


シャナ 「皆しゃん、いましゅごいことが起きてましたよ!?

     驚かないのでしゅか!? ベロちゃんがっ…」


シェール「今更」

ナーシャ「シャナが起こす騒動よりはインパクトがないものねぇ…」


シャナ 「なんでしゅと~!!」



だんだん心も別の意味で麻痺する人々・・・。

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